『白い転校生』

やましん(テンパー)

第1話 『前口上』

 

 父の都合で、やたら、全国を引き回されてばかりいる。

 

 だから、ぼくは、いまだに転校生生活から抜け出せない。


 父は自宅も持たない。バガボンド・サラリマンである。


 母は、気がついたら居なくなってしまっていた。


 まあ、無理もなかろう。


 父の最大の希望は、いつかきちんとした小綺麗なアパートにひとりで定住することである。ぼくは、いずれ独立していなくなる、との計算であるらしい。


 父のために言っておくが、別にパワハラやパパハラをするわけではない。


 普段は、クラシック音楽大好きな、物静かな紳士なのだ。ギターも上手であり、『アルハンブラの想い出』あたりなら、完全ノーミスで弾きこなせる。


 普段以外はまるで、知らないが。


 つまりは、なんの仕事をしているのか、まるでわからない。


 公務員だとは言っているが、あきらかに当たり前の公務員とは思えない。雇い主は、『独立調整庁』とかいうところであるらしい。『勤労省』の出先機関とか言っているから、軍や警察関連ではないらしい。


 結局は、なんらかの、スパイとかではないか、との噂もあったが、勤務場所は大概は、地元の町役場の中とかで、警察などではない。


 しかも、けして大きな町には行かないのだが、これは、父に言わせると、『人工衛星』待遇なのだとか。


     ⛰️⛰️⛰️


 とある深い深い、山また山の中学校に転校したのは、夏の終わり頃だった。


 華奢な鉄筋の校舎が2つならんでいる。


 これでも、むかしは、なかなか栄えた時代があったらしい。


 珍しい種類の鉱山があったのだという。太陽系外宇宙船には必要なものらしい。仕事は大変だが、賃金はかなり良かったのだそうだ。住宅団地もあったが、今は大部分が更地になっている。放置されることが多い中では、珍しいケースらしいが、あまり巨大というわけでもなかったことがむしろ幸いしたようだ。その一部は町が買い取って、町営住宅にした。


 しかし、町民は減る一方で、今は団地に住んでいる人は僅かにすぎない。その内の二軒が、我が家と、小石川家である。


 さらに、ここは、ちょっとした、所謂、心霊スポットと言われるが、あまりに山深いためか、尋ねてくる物好きな人は少ない。心霊スポットは、街に近くないと成り立ちにくいらしい。何があったのかは、次回に語りたいが、父はまるで気にしないタイプである。ぼくもそうだが。ついでに言えば、変わったことは、特に起こったことがない。


 その中学には、小さいが、わりに立派な体育館もある。


 しかし、プールはなくて、運動場は、100メートルのトラックを取るのが精一杯である。野球やサッカーはできないが、室内競技に不便はない。


 基幹産業だった、その鉱山が、安い外国産の圧力には勝てなくて、あっさりとなくなってしまい、がたんと生徒が減って、いまは、一部しか使っていない校舎である。


 ぼくは、中学での転校は、3年目でこれが6回目だったが、小学校は合わせて9回転校したから、どうも頻度が高くなってきている。高校は、生まれた街で、寮のあるところに行きたい。父からは独立である。ぼくの生まれた街は、わりに都会であった。

  

 かく言うぼくは、いつもあまり体調が良くなくて、風邪ばかりひき、運動もあまりしないから色白で、ひょろひょろしていて、天然パーマだった。


 『風邪の白さぶろう』


 『もやしくん』


 『くそぱーまん』


 『たんざくがみさま』


 など、様々な異名を取ってきた。


 教師も一役買っていた。とある小学校の先生からは、名前ではなくて、さかんに『もやし』とか『ひょろひょろ』と、呼ばれていた。苗字がその地域では、あまりにポピュラーすぎて何人もいたので、区別するためだったこともあるらしい。教師は、ユーモアだと思っていたらしいが、本人はイヤだった。


 だから、いじめは、あって当たり前に思っていたが、どうせ長く居ることはないと割り切ってもいた。


 しかし、こんな怪しい学校は、始めてである。


 なにしろ、ここにきて、初めて、まるでいじめられなくなったのである。まさしく、奇跡が起こった、みたいだった。


 各学年クラスは一つだけで、学校全員で生徒は20人ほどである。


 しかし、このあたりの地域は、どこもそうした状態らしくて、20人も生徒がいるのは、大きい方なのらしい。


      🏫


 ぐり子さんは、良くあだ名みたいに思われるらしいが、本名だそうである。小石川具李子という。


 この人も、転入組である。


 数年前に、ひどい大雨の災害に合い、各地を転々とした後、ある知人の紹介でこの町に母親とともに移ってきたという。


 永住するつもりは、ないらしい。

 

 実は、それが重要なポイントだったらしいことは、後から判ったことである。


      🕊️


 


 


 

 


 


 


 


 

 


 


 

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