Stayin’ Alive(いえ、予定外の横殴りです)
作戦が始まり、コルチェスター基地施設は戦場になりました。
正面ゲートおよび施設内拠点の制圧のためにSASは交戦状態に突入。
私たち陸上自衛隊魔導編隊は、施設内で囚われている民間人の救助に向かいました。
大切なことは一つ。
私たちは、決して自らが率先して武力を奮ってはいけない事。
専守防衛、それこそが自衛隊の誇り。
今回の作戦はイギリス政府からの打診による『暴走した生体兵器の鎮圧および囚われている人々の救助』です。
軍事テロの制圧ではありません。
そう、戦争ではなく紛争制圧、その戦場にいる人々の救助任務なのです。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に三織の黒雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力2800を献上します……
――ピシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
エルダースタッフを構え、麻痺雲を発生させます。
これでリビングデッド化したイギリス特殊部隊の動きを束縛するのが目的。
幸いなことに、この戦法もあっちの世界で発生した、まったく同じパターンでの制圧作戦で使っていたので効果があることは実証済み。
そして動きが鈍ったリビングデッドの身体目掛けて、闘気修練隊員が拳の一撃を放ちます。
ええ、マナメタル製のナックルガード付きサバイバルナイフによる一撃です、そんなものがまともに直撃したら、大抵の生命体は闘気爆発を併発してぶっ飛ばされます。
でも……。
『施設北方区画のリビングデッド、制圧』
『同、西部正面入り口の確保完了』
『南部裏口、手が足りない、3名こっちに回れ!!』
装輪装甲車の無線に、各区画担当の隊員から通信が届きます。
それを聞きつつ、私も状況を確認。今現在のリビングデッドの分布をチェックし、何処が危険であるか指示を送らなくてはなりません。
「七織の魔導師が誓願します。我が目の前に五織の地図を広げたまえ……我はその代償に、魔力12000を献上します。魔法地図、再度展開っ!!」
――ブウン
目の前に3枚の地図を展開。
事前に受け取っていた施設内部の地図と重ねることで、魔導編隊隊員とSAS、そしてリビングデッド、一般事務員の位置が正確に映し出されます。
「こちら空挺ハニー、西部正面入り口、内部0-2-5に2体のリビングデッドが潜んでいますので注意。北方はそのまま建物に突入、廊下を進んで2階に要救助者5名」
いくつもの点が地図上を動く。
それを一つ一つ確認し、さらに適切な指示を送らなくてはなりません。
本来なら、ここで『戦闘領域』の術式を稼働した方がいいのですが、今回は使用禁止と命じられています。
『イギリスに奥の手を見せるな』、そう大本営から派遣される際に命じられていましたから。
なので、あの術式の土台となった魔法地図で対応していますが、これは精度がやや弱くなるのが欠点です。
「外、方位0-2-9よりリビングデッド12体接近です。2号車、緊急回避と制圧をお願いします!」
『2号車、了解』
「……ふう」
息をする暇もない、まさにいまがそれですよ。
「如月3曹、内部状況はどうなっている?」
「ハッ、現在、大越3曹率いる部隊が要救助者の確保に移動。そちらが気付かれないように、正面入り口で帯刀2曹の部隊がリビングデッドと交戦状態に突入しています」
有働3佐の問いかけに、一つ一つ魔法地図を確認しながら報告。
この調子でいけば、目の前の建物の地下区画に閉じ込められているであろう要救助者の救助も無事に行われるかと思います。
「了解。引き続き後方支援を頼む」
「りょ」
うん、大丈夫、あの時と同じ。
場所が異世界から現代世界に変わっただけ。
今度は助けられる、ただ、リビングデッドはもうひとには戻れない。
あの凄惨な制圧戦から、私たち勇者はリビングデッド化した人々を元に戻す術をずっと探していた。
でも、どんな魔法でも、どんな神の奇跡でも、一度でもリビングデッド化した人の魂は救うことが出来なかった。
魔族が疑似魔導器官に刻んだ紋様、あれを中和するすべは、私たちは知らなかったから。
「……曹、如月3曹っ、どうした!!」
――ハッ!
「はい、地図の確認中です、意識が一瞬飛びましたすいません」
一瞬だけ、意識がそれました。
あの時の事はもう考えるな、今現在の事に集中しろ。
「気を付けるように……そして、あまり気負わないことだ」
「りょ」
車内から聞こえてくる有働3佐の声。
それを聞いて、私は自分の両頬を力いっぱい叩きます。
――パァァァァァァァァァァァン
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……よし」
気合十分。
今私が出来ること、そこに意識を集中しないとなりませんよね。
そして、私の気合が入ったと同時に、建物の内部に突入していた各部隊から、制圧完了、要救助者確保の通信が届き始めます。
それと同時に、リビングデッドの反撃を受けて負傷した隊員が戻って来るという連絡も。
「如月3曹、リビングデッドの攻撃を受けても、被害者はリビングデッド化しないのだな?」
「はい、あれは生体実験でなくては発生せず、皮膚感染や傷口を媒介してのリビングデッド化はありません。私が鑑定して安全を確認しますので、安心して七織の魔導師が防御結界っっっつ」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
有働3佐への返答の最中、私たちに向かってミサイルが飛んできました。
ええ、リビングデッドとゾンビの違い、それは生体兵器か呪いなのか。
そして、生前の知識を持ち肉体の限界まで動けるのか、意識も記憶もなく本能で生者を求めるのか。
つまり、彼らは基地施設内の兵装すべてを自在に操る、死を恐れない超人です。
けれど、ここまで仕掛けてくるだなんて予想もしていませんでしたよ。
「……え、戦車……なの?」
私がミサイルだと思った飛行物体。
それは、120mm戦車砲の砲弾。
そして、基地北方からキュルキュルユと音を立てて走って来る3台の戦車。
あちらの方角は、SASの担当区域だったはずです。
「有働3佐に進言っ、敵戦車が3大接近、急いで移動をっ……防御結界っ!!」
「了解!!」
――トッゴォォォォォォォォォォォッ
今度は2発同時射撃ですか。
でも、私の防御結界を貫通することはできないようですけれど、だからといってここで的になり続ける訳にもいきません。
そして装輪装甲車が急加速で発進、隊員たちが突入している建物に被弾しないように移動を始めます。
「如月3曹、あれを止められるか!!」
「うぇぇ……魔法と戦車のガチンコ対決ですか、いや、やります!!」
相手は鉄の塊、魔法障壁を持たない無機物。
それなら、あっちの世界のベヒモスよりも突進能力は弱いはず。
主砲だって、ドラゴンブレスより威力はない。
乗っている人たちはリビングデッド、それなら多少の無茶も効きます。
これは、多少は覚悟を決めなくてはなりませんか。
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