空挺ハニー~異世界帰りの魔導師は、空を飛びたいから第一空挺団に所属しました~

呑兵衛和尚

First Mission~如月の帰還と新宿迷宮~

第1話・Don’t Stop Believin!


 前略。 

 今から3年前、私は交通事故に巻き込まれて異世界へと旅立ちました。

 私が訪れた国の名前はオードリーウェスト王国。

 異世界アルムフレイアの、北方にある辺境国です。

 そのオードリーウェスト王国のさらに北方、広大な山脈を挟んで向こうには、魔族によって統治されているガスタルド帝国という国家が存在していました。

 私はオードリーウェスト王国の宮廷魔導師たちの手により召喚され、ガスタルド帝国皇帝である魔王と戦うことになったのです。

 幸いなことに召喚されたのは私だけでなく、勇者と聖女、重騎士と呼ばれる人たちが魔法陣の中で狼狽しつつ、現実をどうにか受け入れようと必死に考えているのがわかりました。

 ちなみに私は魔導師の資質があるという事で、召喚された日から2年半の間、様々な魔術の修行を重ねて来ました。


 そして、今から半年前。


 私たちは帝国の大侵攻を退けると、一気に攻勢に転換。

 勇者パーティーだけで帝国に殴り込みをかけると、そのまま帝都中央にある魔王の居城を襲撃。

 激戦の上、魔王の討伐に成功したのです。

 そして私たちは、魔王が持つ【奇跡の宝珠】の力により、再びこの地球へと帰ってくることができました……。


………

……


「ええっと……あのですね、これが私が体験したすべてのことなのですけれど、信じて貰えるかな?」


 私の名前は如月弥生きさらぎやよい、異世界から帰ってきた女子高生。

 といっても私が事故に巻き込まれ行方不明になってから、すでに3年の月日が経過していました。つまり、今の私の年齢は20歳ということになりますか。

 先ほどの説明の通り、私は家族旅行で富良野まで向かっていた時、対向車線から飛び込んできたトレーラに巻き込まれてしまい車は大破。

 その時、一瞬だけ時間が止まったらしく、目の前に光るマネキンのような人物が姿を現しました。


『私は、ちょっと通りすがりの神。このままだと、君たちは全員、事故に巻き込まれて死亡するが。どうするかね?』

「どうするかねって、そんなの答えは一つしかないじゃない!! 私はどうなってもいいから、家族を助けて!!」

『オッケー!!』


 私の願いを聞き入れてくれた神様の力だとおもいますが、その時、不思議な出来事が起こったでしょう。私以外の両親と兄は白い光に包まれて車から弾き飛ばされ、どうにか軽傷ですんだようです。

 そして私はというと、その奇跡と引き換えに燃え盛るトレーラの中で異世界へと召喚されました。

 なんだかんだと異世界を救うことができたので、私は再び地球に戻ってくることができたのですけれど。まさか、再び事故現場に降り立つだなんて考えても見ませんでしたよ。

 それからヒッチハイクでどうにか札幌まで戻ってきて、3年ぶりに実家に顔を出してからはもう大変。

 今までどこに居たのか、何処で何をしていたのかと、質問攻めに合ったのです。

 それならばと、実家の家族の前で先ほどの説明を行い、危険性のない魔法を使ってみせましたら。


「ほ、本当に異世界から帰って来たのか……ああ、まさか弥生が異邦人フォーリナーに認定されるとは……」

「へ? フォーリナーってなに? たべものじゃないよね?」

「ああ、弥生は知らないだろうけれど。実はな、3年前に同じように事故にあって、行方不明になっていた人たちがいるのだよ。現在、確認されているのは3名で、皆、弥生と同じ話をしていたのだよ……」


 うっそ?

 それじゃあ勇者スティーブも聖女ヨハンナも、重騎士スマングルも無事に帰って来ているんだ!!

 それよりもさ、異邦人フォリナーっていう呼び方はどうなの?

 確か異邦人って、『外国人』っていう意味だったよね?


「ちなみに異邦人フォーリナーっていう呼び方はな、『外国人』じゃなくて『自分たちの知らない力を持つもの』『超能力者』っていう意味から来ているんだって」

「そ、そっかぁ……そういう意味かぁ……って、皆、無事に帰って来れたんだぁ……」


 安堵で力が抜けたのか、私はソファーにどっかりと座り込んでしまいました。

 無事に魔王から【奇跡の宝珠】を取り戻した時、ちょっと気になって鑑定してみたのですけれど、一つだけ望みが叶うって表示されていたのですよ。

 だから王都に凱旋して宝珠を国王に献上した時、国王は頭を捻って困った顔になっていたのは今でも忘れないわよ。

 だって、宝珠を回収した時点で、私たち四人は異世界から地球に帰れるようにって願ったのですから。


『この世界にいる、俺たちのように異世界から来た人たちを、望むならば元の世界に返して欲しい』ってね。


 そして国王が宝珠について私たちに問いかけた時、一人、また一人と地球への送還が始まったのですよ。あの時の国王の呆然とした顔と、私たちがすでに願いを叶えたことに気がついた時の安堵の顔は今でも忘れません。

 一番最後に送還された私に、国王様は手を振りながら、『今までありがとう……元の世界でも幸せにな』って見送ってくれたのは、今でも忘れられませんよ。

 まあ、数日前の話ですけれど。


「そ、そんなことよりも、さっきの手品紛いのものはなんなのだ? 弥生は本当に魔法使いになったっていうのか!」

「そうだよ? 多分だけど、さっきの話に出て来た異邦人フォーリナーっていうのかな? 私もそれに該当するんじゃないかな? うん、向こうの世界で身につけた力はそのままのようだし、アイテムボックスの中身もそのまま入っているからね……それで、地球の私って、いまだに事故ののち行方不明になっているの? まさか死亡届は出していないわよね?」


 これでもしも、事故ののち死亡扱いだったらもう大変ですよ。

 戸籍の再発行とか、とにかくややこしいことになりそうだからね。


「いや。失踪状態になっているだけだ。特別失踪扱いまであと4年、実際に私たちはもう諦めていたんだが……」

「それでもね、毎日ずっとお祈りしていたのよ……弥生が帰ってきますようにって」

「そっか。まあ、流石に異世界からこっちに連絡することなんてできなかったからさ、無事を知らせることができなかったのよ。という事で、改めて……」


 うん。

 本当に、3年ぶりだよ。

 お父さんもお母さんも、すっかり老け込んで。

 真っ黒だった髪に白髪は混ざっているし、少しやつれたようにも見えているよ。

 兄貴なんてぷくぷくと太っていたのが間違えるほどにスマートでマッシブに……って、兄貴、あんたには何があった?


「うん、ただいま。如月弥生、異世界から帰ってきました……」


 そこから先の記憶なんてありません。

 ただ、家族全員が私の無事を喜んでくれました。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 今から半年前。

 アメリカのとある州で保護された男性が、現代では解析不可能な能力を身につけていたことが発覚。


『俺は3年前にこっちの世界で事故に巻き込まれて死んだ……と思ったら、異世界で勇者になって魔王を倒して来たんだ、そして帰って来たんだ……』


 という男性からの説明はあったものの、それを聞いた警官たちは彼の精神鑑定を請求。すると男は何もない空間から突然、一振りの長剣を引き摺り出して目の前の壁を一瞬で細切れに切断。

 危険を察知した警察官によって逮捕、拘束されたものの彼の所持していた長剣が地球に存在しない金属によって構成されていたこと、彼自身の身体能力が常人をかけ離れていたなど、明らかに彼の供述が事実であることを証明していた。


 結果として、彼の身柄は州警察から中央情報局へと移管。

 そこでさまざまな検査や実地試験などを経て、彼がアメリカ合衆国の人間であり、行方不明者であった男性本人であることを認可。

 同時にその人間離れした能力を悪用されないようにと、彼を合衆国監視下に置くべく、一時的にアメリカ海兵隊へと所属させた。

 その時の彼の供述により、同じように異世界から地球へ戻って来た仲間がいること、彼らはいずれ故郷に帰るだろうから、その時はそっとしてあげてほしいことなどが説明された。


 これにより、異世界から戻って来た『超能力者』を異邦人フォーリナーというコードで識別し、各国では自国民の中から異邦人フォーリナーが発見される日を心待ちに待っていたという。


………

……


「ということかをあってだね。今現在、異邦人フォーリナー認定されている人は全部で3名。アメリカ特殊部隊所属のスティーブ・ギャレット、ナイジェリアはラゴスにいる麻薬捜査官のスマングル・バコダ、バチカン市国のサン・ピエトロ教会のマザー・ヨハンナが、現在のところ国連が認めた異邦人フォーリナーということで有名になっているんだけれど」

「問題は、スティーブの語っていた四人目の存在。彼曰く、1000を越える魔法を操る大魔導師という話で、その魔導師がどの国の異邦人フォーリナーなのかって世間でも大きな騒ぎになっているのよ?」


 へぇ。

 そっかぁ。

 私って、そんなに有名人になるんだ。

 うん、黙ってこのまま沈黙していた方がいいよね。

 そんな異邦人フォーリナーとかなんとか、面倒臭いから。


「それで、弥生って本当に魔法が使えるんだよな? さっきのは手品じゃないんだよな?」


 ああ、兄貴の嬉しそうな追求。

 そりゃあ身内に魔法使いがいるって分かったら、教えて欲しくなるのは道理だよね。

 

「ま、まあ……この件は御内密に。ほら、私が異邦人フォーリナーだなんてばれたらさ、お父さんたちにも迷惑が掛かるじゃない?」

「いや? 一人娘が魔法使いだなんて、お父さんは会社でも自慢できるぞ?」

「私もそうねぇ。パート先の奥さんたちに自慢できるわよ? 魔法でなんでもできるって」


 はぁ。

 ため息しか出てきませんよ。

 それよりも問題は兄貴だなぁ。どうにかして口封じしないと。


「うっひゃ〜。バズったぞ、俺のTwitterが初めてバズったわ、ほら見ろ、ここ」

「へ? 兄貴、何をやらかしたの?」


 そう思って兄貴のスマホを確認すると。

 私が魔法を使うところがしっかりと録画してあっただけじゃなく、それをアップして『俺の妹が異邦人フォーリナーだった件について』って書き込んであるわ!! しかも目の前でイイネとリツィートのカウントが高速で増え続けているんだけれど。


「これってよ、YouTubeでチャンネル作って配信したら、アフィリエイトで一攫千金間違いなしだぞ!!」

「あのねぇ……まさか私をダシにして稼ぐつもりなの?」

「いや? 俺は仕事があるから弥生が稼ぐんだよ。そもそも弥生って高校を卒業していないだろ? そんな状態で就職なんて、かなり難しくないか?」

「お、おおう…」


 思わず突っ込んだけど、そうだよこの兄貴は、自分のことよりも家族のことを第一に考える人だよ。

 その次が自己顕示欲で、お陰で私が異邦人フォーリナーっていうことがあっさりとばれましたよ。

 って、ちょっと待ったあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ。

 その動画を消せ、私の正体が全世界的にバレる!!


「ストーーーップ!! 兄貴も一旦、その動画を削除して」

「うぇあ!! お、おう」


 私の迫力に驚いたのか、急ぎスマホから動画を消し始める。

 

「それでお父さん、その異邦人フォーリナー認定って誰が調べるの? そもそも国連っていうところに書類とか提出する必要があるの?」

「国連機関にある、国際異邦人フォーリナー機関(IFO)っていう部署があって、そこで手続きが行われているらしいけれど……」

「たった四人のために……国連機関が追加されたの?」

「そりゃそうだよ。勇者スティーブの説明では、今回は弥生たち四人が異世界から帰還したけれど、今後はもっと、さまざまな世界に旅立った同志たちが帰ってくる可能性があるって話していたから」


 あああ。

 スティーブがやらかしたのか、あのアメコミオタクがぁぁぁ。

 そりゃあスティーブはアメコミのオタクだし、私も向こうの世界で彼に異世界系のラノベがあるよって話したことはあるけれど。

 そもそも、私のラノベ知識なんて兄貴からのお下がり程度だよ、蘊蓄も何もかも兄貴譲りだったから。

 それを間に受けてスティーブがそんなことを話し始めたとすると、その責任は私に?

 いや待て、落ち着け私。

 そう、スティーブのいうこともごもっともだよ?

 私たちのように、別の異世界に転移もしくは転生した人たちがいてもおかしくないじゃない。

 だって、前例である私達がいるんだから。


「……ねぇ兄貴。今、Twitterのトレンドってどんな感じなの?」

「ん? ちょっと待て……と、ははぁ、トップが『日本の異邦人フォーリナー』『異邦人フォーリナー発見』『4人目の異邦人フォーリナー発見』と、この辺りで埋め尽くされているな。ちなみに俺宛のDMが暴走状態だ。各局報道関係者やら日本政府やら、あとは知らんやつばかりだな」

「はぁ、やっぱりねぇ……」


 さて、この馬鹿騒ぎを収める方法を考えるとしますか。

 困った時の異世界能力。

 私が異世界で身に付けた【並列思考】と【大賢者の叡智】で、現在のケースで最もセーフティな手段を模索。


『ピッ……異邦人フォーリナー宣言を行い、4人目として登録。そののち、日本政府所轄の組織に配属されるのが、もっとも騒動を回避できる手段かと思います』

「やっぱりかぁ……ありがとう大賢者さん」

『ピッ……いえいえ。私は弥生と共にあります』


 さてと。

 こうなったら腹を括って、堂々と宣言するしかありません。

 すっくと立ちあがり、両親と兄貴の目の前でグッと拳を握って。


「明日、私は国連機関に連絡を入れます。そして異邦人フォーリナー申請を行い、日本政府管轄の組織に配属してもらいます」

「やっぱり、そうなるよなぁ。他の異邦人フォーリナーも国際機関だったり、自国の政府機関所属になっているからなぁ……まあ、これで弥生も高校中退、無職ではなくなるから結果オーライってところハブァッ」


──ボスッ

 他人事のように笑っている兄貴の腹に、ボディーブローを一発。

 ちゃんと手加減してありますよ、本気で殴ったらお腹が吹き飛ぶだけじゃなく、兄貴は肉片になりますからね。

 まあ、カンストしているのは知識系で肉体系は……それでも常人の100倍ぐらいですけれど。


「んんん……弥生は高校中退じゃないぞ、あの事故の直後、お前だけ姿が見えなかったから。ひょっとしたらどこかで生きているかもって休学届けは出してあったが……今更だが、その歳で高校に復学する気なのか?」

「はい、20歳で高校復学はあまりにもなんですので、休学のままでよろしく。もうね、今から高校生に混ざって学校になんて通いたくないし。そもそも異邦人フォーリナー登録するから、人目が多い学校に通うっていうのはちょっと面倒くさいことになると思うんだ。よし、高校は中退して通信教育で単位を取ります、それで決定!!」

「はぁ……一人娘が無事に帰って来たと思ったら、実は異世界帰りの異邦人フォーリナーだったり、高校は中退するって宣言するし……お父さんはどうしていいか、分からないよ」


 まあまあ、それを言ってしまえば当人である私なんて、異世界に入ったばかりのときは半月ぐらいは王城の自室に引き込もっていましたからね。

 そのあとは色々とあって王族やら貴族やら偉い人と話し合いを行ったり、突然の勇者パレードに引っ張りまわされたり、見も知らない貴族の阿呆息子と結婚させられそうになったりと、人生の修羅場をぎゅっと凝縮して経験してきましたから。

 

「さて、それじゃあ今日はもう寝るね……ちなみに私の部屋って、まだ残っているよね?」

「ちゃんと毎日掃除していたからね。弥生がいつ帰って来てもいいようにって……」

「うん、ありがとうお母さん……それじゃあもう眠いから。お休みなさい」

「ああ、おやすみ」

「ゆっくり休んでね。まだ色々と考えることはあると思うけれど、焦って結果を出さなくてもいいからね」

「それではゆっくりと休むのだ妹よ。明日になったらお前に日本代表のフベシッ」


──ドゴッ

 今度は少しだけ拳を捻りつつ、おなかに向かってパンチですよ。

 こう見えてもあっちの世界では、身を護るためにブレンダー流拳闘術っていうのを学んでいたのですからね。最高段位の金帯には届かなかったけれど、師範代クラスの銀帯は修得したのですから。


 さて、それではおやすみなさい。

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