小さな白い箱

高山小石

お題「箱」

 お葬式が終わった。

 三週間入院した末だった。


 コロナ対策としてお見舞いは一週間に一度、二十分間だけ。

 もう長くないとわかっていた医師が、病状の説明をする体で何度か会わせてくれた。


 会えないときは、できるだけ手紙や写真を渡しに行った。もう本人はスマホを操作することもできなかったのだ。


 息を引き取る瞬間には会えなかったが、その日の午前にいよいよ危ないと呼ばれて、ゆっくりと会うことができた。


 息を引き取ってからは、やることが山積みだった。


 斎場が空いていて、翌々日がお葬式になった。

 故人の希望が家族葬とハッキリしていたし、先に式場で説明を聞いていたのと、説明する人がいい人で、より良い方にスムーズに決まった。


 数年前に式を出した上のきょうだいの話を聞き、送り出す側としてやりたいことも固まった。


 故人がカラオケ好きだったので、その曲を流そう。みんなとの思い出の写真を飾ろう。


 絵の得意な子は絵を描き、折り紙が好きな子はたくさんの鶴と花を折った。


 見送るのは本当に身内だけ、その三分の一は小さい子どもの家族葬。みんなで納得してお別れしたい。


 思い出の曲が流れる中、式の初めに個人の略歴をわかりやすく喪主が話してくれた。

 いつもはただただ遊んでくれた故人が、昔から生きていて、学生だった頃があり、実はスゴい人だったのだと、少しでも子どもに伝わっていたらいい。

 

 全員それぞれが、故人に向けての手紙を読む。


 思い出の品々、読んだ手紙、折り紙、生花を入れて、本当にお別れだ。


 自分の住む市の斎場に入ったのは初めてだった。


 そうして故人は小さな白い箱になった。


 式の最後に、式場の人が言っていた。


「人は亡くなってからも声が聞こえているといいます」


 遺影の横に置かれた小さな白い箱に、「ただいま」「帰ってきたよ」と話しかける。


 思い出の写真を飾ったボードも横に飾っているが、それはそのうち手放すだろうし、遺影も、小さなものと取り替えるだろう。


 でも、私たちは、きっとずっと話しかける。









 

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小さな白い箱 高山小石 @takayama_koishi

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