その箱にはきっと想いが詰まっている

枝之トナナ

あるコレクターの形見

 俺のじっちゃんは箱のコレクターでさ。

 箱と名がつくものなら何でも集めるような人だったんだ。

 寄せ木細工の秘密箱とか漆塗りの重箱、螺鈿の化粧箱、アンティークのおもちゃ箱、数量限定のオルゴール箱――って順当なモノもそれなりにあったけど。

 やすっぽい子供向けのお道具箱だの、スツールにもなる箱だの、しまいにゃUFOキャッチャーの景品だった宝箱だの……ほんっとうに『箱』ならなんでも集めてた。

 まあ無駄にだだっ広い家だったから、場所には困らなかったみたいだし……ばあちゃんが早くに死んじゃってたから、止める人がいなかったってのも大きいだろうな。

 ああ、あとアホみたいな金持ちだったってのもあるな。先祖代々の地主だったから、若いころから不動産転がしてるだけで食っていけたんだって。

 羨ましい話だよな。

 俺の母さん、じっちゃんのこと毛嫌いしてたし――父さんは父さんで他人を宛てにするとか考えないタイプのクソ真面目な仕事人間だからさ。

 金銭的な恩恵とかは無いに等しかったね。

 でもまあ、そういうところが逆にじっちゃんには好ましかったみたい。

 盆とか正月とか、家族としては最低限の付き合いしかしてなかったんだけど、俺のことは可愛がってくれたんだ。

 お年玉は奮発してくれなかったけどな。

 それでも子供の頃の俺は、コレクションした箱を見せてもらったり、じっちゃんの自慢話を聞いたりするのが好きだった……んだと思う。


 いや、今から思い返すとマジで自慢話ばっかりで『アレの何が面白かったんだ?』ってなるんだよな。

 三十年前にドハマりしてたゲームを今やり返してみると、とんでもないクソゲーだったりするような感覚でさ。

 そりゃ母さんだって辟易するし毛嫌いするわーってなる。ってかなった。


 ま、ともあれ子供の頃の俺は無駄にじっちゃんに懐いてたんだよ。

 しかも子供だから無駄に行動力ばっかり高くって、『じっちゃんのこれくしょんにきょーりょくしたい!』ってはりきっちゃった時期があったわけだな。

 その時作ったのが、この『箱』ってわけ。


 かわいいだろ?

 洗った牛乳箱に、粘土で作った子豚を置いただけの、文字通り子供の工作さ。

 いやー、小さいころから母さんが良く言ってたんだよ。

『あの人が持ってない箱なんてないわよ。入ったことのない箱ならあるけどね』って。

 だから作ったわけだ――子供の考えた『豚箱』を。

 じっちゃん、思いっきり苦笑してたっけなあ。


 ……それでも大事にしてくれてたんだよな。

 まさか形見分けで戻ってくるとは思わなかった。

 作った俺も忘れてたぐらいだし、捨てても文句言わなかったのにな。

 わざわざケースに入れて飾ってたとか、マジ信じられないけど――これもコレクター魂のなせる業ってヤツなのかね。


 やべ。ちょっと色々思い出して、しんみりしちまった。

 でも今日の本題ってか、相談したい事はここからなんだよな。


 言っただろ?

 じいちゃん、寄せ木細工とか色々な箱を集めてたって。

 母さんですら『持ってない箱なんてない』って言うほどに。


 どうしたらいいと思う? この寄せ木の箱。

 俺の『豚箱』と同じケースの中に飾ってあったらしくて、一緒に渡されたんだよ。

 『七宝小鳥箱』って名札がついてたけど、どう見ても七宝焼じゃないし――

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その箱にはきっと想いが詰まっている 枝之トナナ @tonana1077

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