ダンジョンで見つけた宝箱は姉妹で○○しないと開かないらしい

綾乃姫音真

ダンジョンで見つけた宝箱は姉妹で○○しないと開かないらしい

 お世話になっている街の近くにあるダンジョンの地下3層。全10層あることから考えると、浅いと考えるか中間層の入口と考えるか。冒険者によって様々な考え方があるだろうけど、私たち姉妹にとってはいまの実力で事故の危険性がない安全エリアの範囲内だった。


 ダンジョン産の素材を街に卸して生計を立てている私たち姉妹だけど、異世界人として豊富な魔力を持つお陰で、このくらいのレベルの層なら戦闘で変な油断をしない限りは大丈夫だって自信もある。


 一応5層まではふたりで到達したことがあるけれど、今日みたいな日帰り装備では3層までが限界のため、目の前にある部屋の探索をして引き返そうと思っていたんだけど……。


「モンスターハウスみたいな感じだね……このダンジョンって、8層以降にしかそういうの出現しないはずだよね?」


「ええ」


 周囲に探知用の魔力弾を複数浮かべているサヤに頷いて返す。ついでに彼女の姿を眺めてしまった。


 豊富な魔力を用いての魔法が得意なサヤは魔道士らしくローブを――なんてこともなく、街中を歩くようなワンピース姿だった。これはもちろんダンジョンを舐めてる訳じゃなくて、高校では文化部に所属していて体力が人並み以下のせいで皮鎧すら長時間装備していられないっていう弱点のせいだった。そのため本来は魔力の増幅や指向性を上げるために必要な杖すら持っていない。


 魔力は豊富でも、肉体は日本に居た頃と変わらないからねぇ……私は一応中学からずっと女子サッカーをやっていたのと、魔力操作の才能があったらしく肉体を強化可能で前衛を担当している。それでも大剣なんて訓練なしで扱えるはずもなく。初心者にも使いやすいと聞いた槍を選ぼうとしたけれど、迷った末に小回りの利く短剣を選んでいた。


 私はサヤとは違って、皮製だけど急所を守る程度には防具を装備している。鎧の下は動きやすいようにシャツとショートパンツなんだけど、これも冒険者からすれば十分に「舐めてる」と言われてしまう。まぁ、脚とか腕とか普通に素肌が露出してるからねぇ……ただ、しっかりと防具を身につけると動きが鈍って不安になっちゃうのよね……。


 そんな私たち姉妹だけど、サヤは魔力の出力が私とは段違いだった。同じ火矢を撃ったとしても威力が全然違う。


 結果として自然と私が前衛で、サヤが後衛と分担ができあがってしまった。いまのとこ死にかけたのはダンジョンに初めて潜ったときだけなので、割と正解なんだと思う。


 ちなみに死にかけた理由は、防具で動きが鈍ったせいだったりする。身を守るのに必要なのはわかっているけれど、思い通りに動けない方が私たち姉妹は怖かった。


「お姉ちゃん?」


 サヤが不思議そうに首を傾げている。可愛いなぁ。私と違って、小柄で表情が豊か。ひとつしか歳が変わらない割には子供っぽい仕草もよく似合っている。


 そしてなによりおっぱいが大きい。もう1度言う。おっぱいが大きい! 乳袋のあるミニスカメイド服とかを着て欲しい! 絶対に似合うと思う! 最悪、お揃いで私も着るから! 


 なんて願望を誤魔化すように怒りを天にぶつける。なんで妹の方が身長は小さいのに胸が大きいのよ! と何度神様を恨んだことか。姉妹だとストレスの掛かり方の違いで妹のほうが肉付きがよくなり易い。そんな話も聞いたことあるけど、悔しい。


 それなのにウエストは私と変わらないって理不尽だと思う。脚や腰回りも柔らかそうなサヤと、筋肉質の私。これに関しては長年スポーツをやってる私と、文学少女の差だろうから仕方ないけど……。


「なんでもない」


「……そう?」


 絶対に私の内心を察している表情だった。自慢気に胸を揺らしてるし。嫌味か! 私が羨む双丘をこれみよがしに! お仕置きで揉んだこともあるけれど、喜ぶだけだった。うん、私の妹のシスコン具合は終わってる。


 ……シスコン? どう考えても性的に狙われてると感じるけど、ほんと勘弁して欲しい。血の繋がった姉妹なのよ? 明らかに冗談じゃなくて本気だからね、サヤってば。


 余計なことを考えてしまった。ダンジョン内なんだから、もっと集中しないと。


「それでアレどうする?」


 アレとはもちろん、ゲームなんかでよく見るモンスターハウスみたいになってる目の前の部屋だ。ダンジョンのモンスターは決まったルートを巡回するモンスターと、指定エリアにたむろするモンスターにわかれるけど……後者は強いことが多いのよねぇ……ただ、上位種が紛れているか、宝箱みたいなのがポップしている可能性もあるから収入的な意味ではおいしいのも事実だった。


「お姉ちゃん、あそこ見て」


「……宝箱」


「モンスターはゴブリンだけで上位種は居なさそうだよね」


「見た感じではね」


 ここを含めいくつかのダンジョンに潜っているけど、流石にゴブリン相手に負ける気はしない。というか、ゴブリンの集団にすら勝てないならとっくに死んでるし。


「ヤッちゃう?」


「ヤッちゃおうか」


「お姉ちゃん! 雑魚は任せて!」


「頼むわね!」


 相棒の言葉を信じて、私は物陰から飛び出すと愛用の短剣に魔力を流しながらゴブリンの陣へと突っ込んでいく。そんな私を追い越して十を超える火矢が飛んでいき前衛を崩した。崩したと言うか、半壊させていた。


 相変わらず魔法の威力が高いわねぇ……。


「せいッ!」


 駆け寄るスピードを乗せた一撃で、最寄りのゴブリンの首を刎ねる。最初の頃は生き物を殺した嫌悪感で吐いたりもしたけれど、1年もこの生活を続けていれば流石に慣れた。


 若い女ふたりだし、狙われることもあったしね……色々と。ダンジョン内だと目撃者なんて早々居ないから。人を数人ヤッた経験すらある。もちろん正当防衛の範疇だ。


「お姉ちゃん! もう1斉射いくよ!」


「了解!」


 サヤの言葉で左右には動かないように気をつける。誤射なんて勘弁願いたい。肉体を強化しているから軽傷で済むだろうけど、看病と称してベッドに縛り付けられて好き勝手やられる未来が簡単に想像ついてしまう。いや、帰る前に治療が待ってるか……怖っ。


 数分掛かって倒したゴブリンは20程度だった。魔石だけ取って、死体はそのうちダンジョンに飲まれるから放置する。


「……罠の反応はないかなぁ」


 サヤの言葉が微妙な感じなのは、魔法系の罠が無いってことしかわからないのよね……私たちの場合。ダンジョンの浅い層に出現する宝箱には仕掛け系の罠はないらしいけど……。目の前の宝箱は確実に例外でしょ。絶対になにかある。


「放置して帰らない?」 


「勿体なくない? ほら、宝箱に書かれてるのを信じるなら『姉妹』なら開けられるみたいだよ?」


 『この宝箱を開けたくば、姉妹で○○しろ』そんなことが蓋に書いてある。それも日本語で。どう考えても無視したほうがいい。というか、ここのダンジョンマスターって絶対に日本人でしょ……私たちも日本人だと気づいて設置してない? これ。


「……サヤ。試しに聞くけど○○に入る単語なんだと思う?」


「絶ち――むぐっ!」


「言わなくていいわ」


 慌てて変態の口を塞ぐ私。ダンジョンの中で馬鹿じゃないの? 私の妹。


「――れろっ」


「んひっ!?」


 手の平を舐められて慌てて口から離した。


「今日は手汗かいてる? 少ししょっぱいよ?」


「――」


 反射的に殴らなかった私って偉いと思う。


「宝箱どうする? 少しだけ試してみる?」


「スルーして帰って報告って選択肢は?」


 私としてはそうしたい。じゃないとサヤが暴走する気がしてならない。


「姉妹って日本語の時点で、結局わたしたちに指定依頼が入らない?」


 それも否定できないのよね……自分たちの意思でやるか、依頼としてやるかの違いでしかない気もする。そして、依頼の場合は高確率で他人の目がある。


「……わかったわ。試すだけ試しましょう」


「うん!」


 嬉しそうな顔しちゃって……宝箱を理由にスキンシップとか思ってるんだろうなぁ……普段は私が拒否ってるから。いや、私も普通のスキンシップなら構わないのよ? この変態妹の場合は、スキンシップの範疇を平気で越えてくるから嫌なだけで。


 こんな異世界にいきなり飛ばされた私にとって唯一の身内だし、大切な存在っていうのは認めるけど……悩みの種でもあるのよね……。


「それで、どうする? 2文字なんていくらでも浮かぶけど」


「ハグ」


「……」


 ほらきた。まだ考えてた中ではマシだけど……。両腕を広げて受け入れ態勢のサヤ。その期待に満ちた目を見る限り、私からハグしろってことらしい。同時に察する。私がするまで意地でも動かないんだろうなと。


「お姉ちゃん早く」


「…………わかった」


「あ、防具は外してね。身体の柔らかさを感じたいから」


「ダンジョンの中で防具を外せと?」


「わたしは最初から付けてないよ?」


 渋々胸当てを中心にいくつかの防具を外すと、サヤの身体を抱きしめる。普通にいい匂いだと感じてしまうのが嫌だった。クッションが柔らかいのも非常にムカつく。なんで同じ両親から生まれた姉妹でこんなに違うんだろう? 不思議よねぇ。


「これでいい?」


「すんすん!」


 ――っ! この、調子に乗って匂い嗅いでくるし! 文句を言えば感想が飛んでくるので、私は羞恥に耐えるしかない。間違っても汗混じりの体臭の感想を実の妹から聞かされるなんて勘弁願いたい!


 それはそれは笑顔で楽しそうに語ってくれるだろう姿が容易に浮かんでしまうのがなんとも言えない。


 私も匂いを嗅ぐのは好きだけど、どっかの誰かみたいに感想を述べるなんてことはしない。静かに胸にしまい込む。


「宝箱は開かないと」


 宝箱を確認してさっさと離れると、名残り惜しそうな視線を向けられた。うわぁ、瞳を潤ませて小動物か! 可愛い、可愛いのは認めるけど、血の繋がってる姉に向ける目では決してないと思う。


「次は逆にわたしが乳揉みしてみよっか」


「念のために聞くけど、誰が誰のを?」


「わたしがお姉ちゃんのを」


「……自分の揉んでなさいよ。おっきいのついてるんだから。そもそも3文字でしょうが!」


「〇〇って表記なだけで文字数まで当てはまるとは限らないよね?」


「そういうのはもっと色々と試してからでしょ! なんでふたつ目なのよ! ――あ、こら!」


 言い合ってる間にもサヤが素早く私の背後に回り込むと、腋を通して手が伸びてくる。そしてなんの遠慮もなく鷲掴みにされた。


「お姉ちゃんの胸って揉み心地最高だよねぇ。手の平サイズで絶妙な弾力を持ってるのに柔らかいんだもん。いくらでも触ってられちゃう」


「……そっすか」


 妹に胸を品評されても虚しいだけだった。まして、サヤの方が立派なのを持ってる訳で。


「珍しく抵抗しないね。いつもこうだと嬉しいんだけど」


「いつも揉ませてるみたいな言い方やめてくれない?」


「成功率半分以下だもんねぇ……起きてるときは」


 ……恐ろしい一言が付属していたわね…………まさか、寝てる間に揉まれてる? 確かに朝起きると結構な確率で私のベッドに潜り込んでるけど……。


「宝箱に変化なしと。サヤ、終わり」


「はーい」


 素直に揉むのをやめたのは、今日はまだ他にも色々とできるって思ってるからなんだろうなぁ……。


「次は私が案を出してもいい?」


 少しくらい反撃しても文句言われないくらいのことをされてるし。


「うん」


 頷いたサヤの表情が微妙に引き攣ってるのは長年姉妹をやってるだけあるなと思う。そして、自分が反撃されるようなことをしている自覚もちゃんとあるのだなと。


「柔軟」


「え゛」


「はい座って。足を開く」


「あの、わたしミニ丈のワンピースなんだけど。中が見えちゃう……」


「ダンジョン内で私たちしか居ないから大丈夫でしょ」


 ワンチャン、ダンジョンマスターが見てる可能性に関しては黙っておく。男女の確率は半々。このダンジョンの周辺で確認されている異世界人って私たち姉妹だけらしいから、確率的には男の可能性が高い……か? 流石に妹のパンツを見られるような事態は避けるべきと頭の中の冷静な部分が囁くけれど……。


 その場合、私はもう胸を揉まれる場面を見られてることになる訳で……ぶっちゃけ、この先も検証を続けるなら私が恥ずかしい目に遭う予感がする。なら、サヤも多少はそういう目に遭わせても許されるわよね?


「……手加減してよ? わたしが柔軟とか苦手なの知ってるよね? 信じてるからね?」


 それはもう嫌そうに座って開脚するサヤ。スカートだから自重してるのかな? って控えめな開き具合だけど、これで全力なのよね。


 なぜ私が柔軟なんて提案したか。それは――本人が言った通り、サヤの身体がものすごく固いのを知ってるから。


 私はサヤの背後に回って、両手で肩を押していく。あっという間に止まってプルプルと震えだしたけど、構わずに力を加え続ける。


「サヤ。ほら、もっと頑張って」


「痛い痛い痛い! 無理だからぁ!」


「……」


 一瞬、膝を使って無理やり押してやろうかと思ったけど……流石に姉として問題があるか……確認のため宝箱に視線を向けると変わらず鎮座していた。外れならもう終わりにしますかね。


 手を離すとガバっとサヤの背中が跳ね上がり、その勢いで立ち上がった。そのままゆっくりとこっちを向くと、スカートの中に両手を突っ込んで怪しげな行動をしている。いや、脚の付け根を揉んで痛みを和らげようとしてるんだろうけど……妹がやってるのを見ると変な気分になるわね……。


「痛た……次は――キス!」


「無理無理無理!」


 よりによってなんてことを言い出すのよ、この妹! 確かに2文字だけど、姉妹って前提条件があるんだからそんな訳が――


『正解じゃ』


 ――この宝箱燃やしていい? 喋るとか聞いてないんだけど!


『この宝箱は、ダンジョンマスターの「姉妹百合愛してる」が制作したモノでな? 目の前で血の繋がった姉妹がキスすることが解錠条件として設定されているのじゃ』


「お姉ちゃん。まさか冒険者をやっていて、目の前にある宝箱を開けるのに必要なことがわかってるのに逃げないよね?」


 くあぁ! この世界に飛ばされて魔法が使えるって知った時みたいなキラキラした笑みを浮かべてるぅ!


 そしてサヤの言っていることもよくわかる。ダンジョンの宝箱の中身はそれなりの値が付くことが多く、私たちは現在宿屋暮らし。家を買おうって話をしていることもあってお金を求めているのも事実なのだ。


「……中身次第で考えるわ」


『中身はこの世界で一軒家を帰るくらいの金貨じゃ』


 会話できるんかい!! しかも中身が魅力的すぎる!


「わぁ、念願の持ち家チャンスだよお姉ちゃん!」


 そりゃサヤは乗り気になるだろうけど……キス……って。私、初めてなんだけど? え、ファーストキスの相手が妹とか本気? マジで言ってる!?


 た、確かに、サヤのことを可愛いと思うことはあるわよ? でも、実の妹な訳で――更には大きな問題もある。キスなんてしたら、間違いなくサヤの私に対する行動がエスカレートする。


 文字通り貞操の危機に陥りかねない。


『キース! キース! 姉妹百合カモン! 見せてくれればお礼にダンジョンの最下層に置いてある宝箱もあげちゃうわ! 中身はランダムだけど、日本のアイテムが出るわ!』


 口調と声が変わってるし! これダンジョンマスター本人でしょ! たぶん同い歳くらいの女の子!


「お姉ちゃん……」


 潤ませていた瞳を閉じて、顎を僅かに上げるサヤ。完全にキス待ちだった。


「う、く……わ、わかったわ」


 自分の口から出た言葉に驚く。私本気で言ってる? いつかできるだろう彼氏とするつもりだったファーストキスの相手が妹になりそうなのよ?


 心の奥底から返ってきた答えは、可だった。


『あ、唇を一瞬だけくっつけるだけじゃ認めないから。抱きしめて思いっきりヤること。舌を入れろとまでは言わないから』


「……」


 ダンジョンマスターの言葉で顔を綻ばせるサヤ。これ、絶対に舌入れるのもありなのか……とか考えてるって!


 やだやだ! それはほんとに無理! 初キスが妹とのディープキスとかあり得ないって! けどだからと言って、もう逃げられる空気――ダンジョンマスターに見られてる時点で、ここで逃げようとしたら命に関わりかねない。逆に、見たがってるものを見せれば今後のためになるかもって打算もある――じゃないし、唇までは……うぅ……なんでこんなことにぃ!


「……すー、はーっ」


 仕方ない。さっさと終わらせる。こうなったらどうにでもなれ!


「……」


「……ちゅ」


 無言で身を屈めてサヤの唇に、そっと自分の唇を重ねた。プクッとした弾力と、柔らかさが生々しい。そっと抱きしめると、当たり前のように抱きしめ返された。サヤの私より高い体温が伝わってくる。


 このドキドキとした心臓の鼓動は、私とサヤどっちのモノなのだろう? 判断がつかない。ただ、ふたつの音が重なっているように感じた――


「……ん」


 妙に長く感じる数秒のち離れると、後を追うように伸びてきた舌が私の唇を軽く舐めていった。案の定か! 僅かでも遅れていたら危なかった!


「……ちっ!」


 舌打ちすんな!


「危ないなぁ! マジで舌入れようとすんな!」


 バッと離れると物足りなそうなサヤの表情が見える。意外なことに、私に負けじと真っ赤に染まっていた。てっきり余裕なんだと思っていた。へぇ……。


 サヤとしても、それなりに勇気が要る行動だったのかもしれない。もしかして私、悪いことしちゃった……?


 って、いまのはなし! 姉としては正しいかもだけど、ダメな思考!


『うんうん、良いものを見せてくれたお礼に宝箱オープン!』


「「おお」」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまった。まさか本当に金貨が入ってるとは。


『それにしても、あたしの言葉を疑わずにキスしたね。騙されてる可能性は考えなかったの?』


 あぁ!! 言われてみればそうだ! これっぽっちも疑っていなかった!


『あたしとしては嬉しいけどね。はい、おまけの本来はボス部屋の手前で出現するレベル4の宝箱もあげる』


 ポンッと目の前に出現した宝箱。サヤと顔を見合わせて開けると――お揃いのミニスカメイド服だった。


「「……メイド服?」」


『なるほど。この宝箱は開けた人間が欲してるモノが出るんだよね。だから日本人のふたりなら、懐かしさを求めて日本のモノが出ると思ったけど……メイド服かぁ』


「欲してるモノ?」


 サヤが訝しげに私を見る。ヤバい……いますぐ逃げたい!


『履歴を見ると……ほんの僅かだけど、お姉さんの方が触れるのが早かったみたいね』


「……お姉ちゃん」


「さ、帰りましょうか」


『姉妹でメイドプレイとか……あなたたち、お似合いの姉妹かもね』


「え、メイドプレイとか無理なんだけど! お姉ちゃんの変態!」


「プレイじゃない! ただ、日本時代に行ったメイド喫茶の衣装をサヤに着てほしいなぁ、なんて思ったことがあっただけ!」


「それで見覚えがあったんだ……」


『あははははは! あなたたち面白いわね! 鑑定スキルっと――ふむふむ、あ、お互いに姉妹愛のスキル持ってるじゃない。前はレベル差が少なくて全部見れなかったのよね。効果はどれどれ……おぉ、姉妹と一緒に居るとステータスの強化。特に運ねぇ。だから初めてこのダンジョンに来たときに生き残れたのね。あのときは焦ったわぁ、まさか自分たちの実力を知りもしないで使いこなせない装備を持って入って来るんだもの。流石に同郷の人間に死なれると目覚めが悪いからね』


 鑑定スキルってなに!? 私たちにも見た内容を教えて欲しいんだけど! それにレベルって概念もあるの!? しかも言葉を信じるなら、私たちの成長スピード以上にダンジョンマスターは成長しているってこと!?


『ま、今後も姉妹仲良く百合ってなさい。できればこのダンジョンの中でイチャついてくれれば嬉しいかな。たまにお礼もあげるし。あたしなら日本のモノも渡せるよ?』


 魅力的な提案すぎる……っ! ただ、そのためには今日みたいなことがある訳で……。


「サヤ」


「お姉ちゃん」


 姉妹で顔を見合わせて、ダンジョンマスターの声がしてくる宝箱に向き直る。


「「……今後ともよろしくお願いします」」


 そう頭を下げるのだった。


『任せなさい。あたしの大好きな姉妹百合を見せて貰えるならサービスしちゃうから♪』


 こうして、この日のダンジョン探索は終わった。ダンジョンマスターが友人と言えるくらいの関係になるのは、そう遠くない未来の話だったりする。


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