ドゥシェ・マルツヴィ~魔女と死霊術師の旅路~

@xsukurix

第1話 魔女ヤルミラ①

「なあ、本当にこっちで合っているのか?」


 そう言ったのは長い黒髪が特徴的な女性。白を基調としたこぎれいな方を身につけており、身長はそれほど高くない。その証拠に、隣を歩く男と結構な身長差がある。

 男も女性と同じく、長い黒髪。全身には黒いコートを羽織っており、何より特徴的なのはその頭。髪が生えていない、いわるすスキンヘッドだ。

 男は鋭い目で地図を眺めながら答える。


「こっちで問題ない」

「にしてもよ、いくらなんでも田舎過ぎないか?」


 女性は周囲を見渡す。

 周りは植物が生い茂っており、奥にはいくつかの山が見える。このあたりには人工的な建物は存在せず、近くに人がいないことは明らかだった。


「目的の場所は小さな村だ。こういう所にあってもおかしくはない」

「ふーん。町から結構な距離があるし、村の人は生活が大変そうだな」

「さあな。初めて行く場所だし、行ってみないことには何も分からない。そもそもそんなこと俺達には関係ない」

「いやいや、案外そういう事も関わってくるかもしれないぜ?」

「確かに」

「ところで、今回の依頼ってどんなのだっけ?」

「ちょっと待て」


 そう言って男はポケットから一通の手紙を取り出し、中身を確認する。


「簡単に言えば、死んだ魔女を生き返らせて話がしたいという内容だ」

「魔女か……小さな村だし、今回私の出る幕はないかもな」

「いや、そんなことはない。俺のことを守ってくれ」


 男が端的に言うと、女性がため息を漏らし、冷ややかな目で男を見る。


「ベドさあ、男だろ? そっちが私を守るべきなんじゃないのか?」

「俺より強い奴が何を言っている。そもそもイヴァを連れているのは俺より強いからだ」

「分かってるけど、もっと女性の扱い方ってもんがあるだろ」

「知らん」

「なんでそんなこと言うんだよ。私、落ち込むって」


 女性ーーイヴァはがくりと肩を落とす。

 男ーーベドジルフはそんなイヴァの様子を気にせずにに歩き続けた。

 すると、ベドジルフが何かに気付いたかのように正面を指さす。


「見えてきた。あれが村だろう」

「お、ほんとだ。これで野宿しなくて済みそうだな。野宿って体は痛むわ、冷え込むわで嫌いなんだよ、野宿」

「俺は気にしないが」

「ベドは男からだろ。女の私は繊細なんだ」


 ベドジルフは小さな声で「めんど」と呟く。

 それに気付いていないのか、イヴァは早足で村に向かっていった。



「よしっ、着いた!」


 村に着いたイヴァの第一声。

 続いてイヴァの腹が鳴り、ベドジルフに顔を向ける。


「ベド、まずは飯を食おう!」

「飯はまだある」

「いやいや、干し肉とか飽きたって」


 イヴァが嫌そうな顔で首を横に振る。


「まあ飯を食ってもいい。だが、そもそもこの村に飯屋があるか?」

「さあ、分かんない」

「なら少し我慢しろ。先に依頼人に会う」

「えーー」


 肩を落とすイヴァを無視してベドジルフは周囲に視線を巡らす。

 訪問者が珍しいのか、村人からは奇々の目が向けられているように感じる。

 どう思われようが別に構わないのだが、仕事に支障が出たら面倒だな。と言っても今何かが出来るわけではないが。

 ……村人の年齢層が妙に高いな。若者が少ないように感じる。

 すると、一人の青年が俺達の前に立つ。


「あなた達が死霊術士でしょうか?」


 ベドジルフはこくりと頷く。


「はい。正しくは私が死霊術士で、彼女は魔術師見習いかつ私のボディーガードです」

「ボディーガードって言い方、なんか嫌だ」

「はあ、注文の多い奴め……」

「あ? 私に喧嘩売ってる?」

「事実を言っているだけだ」


 イヴァは「ああ?」とベドジルフを睨み付け、ベドジルフはそれを無視する。

 その様子を見た青年は苦笑をベドジルフ達に向けた。


「申し遅れました。私はマロシュと言います」

「おっと失礼。私はベドジルフで、彼女はイヴァ。よろしくお願いします」


 その時、イヴァの腹が再び鳴り、イヴァは恥ずかしそうに腹を押さえた。

 すると、マロシュが小さく微笑んだ。


「とりあえず俺の家でお話をしましょうか。簡単な食事なら出せますよ」

「それはありがたい。イヴァの腹の音がうるさいもので」

「では俺についてきてください」


 マロシュが背を向けて歩き出し、ベドジルフ達はそれに着いていく。

 するとイヴァが肘でベドジルフの横腹を突いてくる。


「おい、さっきの言い方はないだろ。私の腹の音がそんなにうるさいかよ」

「それなりにな」

「殺すぞ、マジで」


 イヴァの鋭い視線がベドジルフを捉える。

 ベドジルフはイヴァの様子を気にも留めず、平然な様子で歩き続けた。



 質素な木のテーブル。その周りには四つの椅子が置かれており、ベドジルフとイヴァは並ぶようにして椅子に座っていた。


「あの青年が今回の依頼人なのか?」

「だろうな。何か不満か?」

「いや、不満って訳じゃないけど、妙な違和感があってさ」

「村人の年齢層の話か?」

「そうそう、それ! なんか若者が妙に少ないよな」

「今回の依頼に関係があるのかもな」


 すると、マロシュが扉を開けてやってくる。

 両手に料理を持っており、ベドジルフとイヴァの前にそれらを置く。

 小さめのパンとシチューのようだ。


「朝食の残りで申し訳ないですが、よければどうぞ」

「うわっ、最高かよ! 頂きます!」


 そう言ってイヴァが勢いよく食べ始める。

 イヴァの様子を眺めていたマロシュは小さく微笑んだ。

 そんな二人を見ながら、ベドジルフもゆっくりと食事を始めた。


「わざわざ食事を提供してくださりありがとうございます。それでは、依頼の詳細を聞いても?」


 ベドジルフが問う。


「はい、ご説明します。今回の依頼は手紙で送った通り、この村で殺された魔女についてです。」


 マロシュがベドジルフの向かいの席に座り、真剣な表情で続ける。


「以前、この村には一人の魔女が住んでいました。彼女はヤルミラと名乗りました。確か、ヤルミラがこの村に来たのが半年前す。最初は中々馴染めずにいましたが、沢山の子供達と仲良くなって、次第に村の皆と打ち解けていったんです」

「ふーん。仲がいいならなんで魔女が死んだんだ? 事故死とかか?」


 イヴァがそう言うと、ベドジルフが呆れた顔でイヴァの頭にチョップをお見舞いする。


「いてっ、急に何すんだよ!」

「依頼の内容を忘れたのか? 今回の依頼は魔女が殺された本当の理由を探ることだ」

「本当の理由? ああ、なんかそんなこと前に言ってたっけ」


 こいつって奴は……。

 するとマロシュが「続けていいですか?」と口を開く。


「話の邪魔をしてすみません。どうぞ続けて」

「はい。ベドジルフさんの言うとおり、ヤルミラは村人の手で殺されました。理由は明確で、ヤルミラと仲のよかった少年少女が次々と姿を消したからです」

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