✜47 迷宮掃除人


「実は皆さん冒険者が死亡してもダンジョン手前の蘇生エリアで復活できますが……」


 冒険者が死亡した場合、運営・・にポイントが大量に入るんです、と周りを気にしながら小声で教えてくれた。


 この話はけっして他のひとには話さないでくださいと頼まれ、口止め料として召喚石というものをもらった。この召喚石を地面などに投げつけて砕くと、この島の守り神ゴーレムを1体呼び出せるという。ゴーレムは丸1日、召喚者のもとで命令を聞いたあと、砂となって消えるそうだ。


「では他に質問がないようでしたら、ここを出て奥へまっすぐお進みください」


 言われたとおり建物の奥へ進むと別の案内人が立っていて、チラシを受け取り、奥の出口から外へ出た。


 チラシに目を通すと、1日に12回、路面炎車というものが、このペヤンテの街からクエリの街と水の街ユールンという場所へ向かって出発すると書かれていて、出発時間と乗車場所が書き記されていた。


 この日は、色んなお店を回って、自分達で使わない武器や防具を売って金に換えて、より自分達に合ったものを買ったり、冒険に必要な道具などを買い揃えている間に日が暮れた。


 宿屋に泊って翌日の早朝、路面炎車の始発に乗り、街をあとにした。このダンジョン島はとても広く、ダンジョンや拠点があちこちにある。昨日もらったチラシを頼りに街から二つ目の「駅」で降りて、初級冒険者向けのダンジョンへと向かった。


「おふたりの案内を務めます案内人シェルパ237号です」


 237号、さん? 変わった名前だな……。鎧とかは着ておらず、登山でもするような恰好をしている。武器の類は持っているには持っているが背中の大きな背嚢から剣やら斧やらが飛び出ている。


「なあ、俺達と一緒に回らねえか?」


 ダンジョンの入口で声をかけてきたのは、3人組の男たち、同時に路面炎車から降りたが、ジロジロとティーネに遠慮のない視線を向けてきて正直、胸くそが悪い。


「それはできません、ギルドで事前にパーティーの手続きをしていただかないとルール違反になります」


 237号が、はっきりそう伝えると、舌打ちをしてさらに何か言おうとしてきたが、連中の案内人もやってきて3人を半ば強引に連れていった。


「彼らを先に行かせましょう。トラブルになりかねません」

「向こうの案内するひとは大丈夫なんですか?」

「ええ、問題ありません、我々に危害を加えるような冒険者は排除されます」


 排除……ずいぶんと穏やかではない発言、危害を加えたらいったい何が起きるんだろうか……。


 3人組がダンジョンへ入ってからしばらくしてから後に続いた。


 中は洞窟ではなく人工的な造りで、通路にはゴブリンやコボルトが1匹ずつ出てきた。なぜか離れたところから既に目が合っているにもかかわず、こちらへ向かうことも逃げることもせず、ある程度の距離が近くなってから襲い掛かってきた。背後から襲われることもなく、目の前に現れる魔物だけに集中ができるので、とても有難い。


「この分岐路の左はトラップがありますが、ランダムで宝が手に入ります。右は……」


 斥候がいないパーティーは左側の通路はおすすめしないと教えてもらったので、右側の通路を選択した。その後もわかりやすい案内で特に危険を感じずにダンジョンの攻略を進めていった。


「この先が、ボス部屋になりますが、まだ別の冒険者が攻略中のようです。少しお待ちください」


 大きな両開きの扉の上に赤く光っている板があり「使用中」と書かれていた。


「ふむ、おかしいですね……様子を見てきます」


 かなり時間が経った。たぶん半日くらい。自分達の後から別の冒険者もダンジョン内へ先ほど2組入ったので、そろそろ先へ進まないとつっかえてしまうと、腕に巻いた不思議な輪っかを見ながら237号が呟き、扉を開けた。待機しろとは言われなかったので、ティーネとふたり237号の後に続き、ボス部屋へ足を踏み入れた。


「へへっ、やっと来やがった」


 ダンジョンボス……といってもゴブリンが3体だと237号から聞いていたが、すでに倒されていた。例の3人組が、彼らの案内人の首に剣を突きつけて、こちらへ呼びかけてきた。


「コイツの命が惜しかったら、その女をコッチへ寄こしな」

「心配すんなって、ちょっと遊んだら返してやるからよぉ?」

「おっと、男ふたりは動くなよ?」


 舌なめずりしながら、ティーネのことを舐めますような目で見ている。すぐにティーネの前に立ち、視線を断ち切る。


「案内人の不当な拘束マイナス4点、他冒険者への脅迫マイナス6点、違反点数が合計10点に達しました」


 そう話すのは連中の案内人、点数がとうとか言っている。


「ツクリ国滞在資格の剥奪および強制退去、今後30年間の入島禁止措置を実行します」


 ダンジョン内に「ウーーーッ」と警報音が鳴り響き始めた。


「だるぅ……コイツらか面倒くせーっ」

「ダイハチロウ、これが僕らの仕事さ」


 時間にして、約10秒。頭に角が生えていて、背中に翼を生やした見たことも聞いたこともない種族がふたり、天井にできた黒い穴から降りてきた。


「ステータスは?」

「うーんと、合計で60から70前半ってところだね」

「マジか……ザコすぎ!」


 何を話しているかわからないが、このふたりには、並の冒険者ではまったく歯が立たないだろうと直感めいたものを感じた。


「お、おい」

「ちっ、逃げるぞ!?」


 3人組は、案内人をふたりの方へ突き飛ばし、背後にある出口から脱出を図ろうとしたが、足が地面へズブズブと底無し沼のように沈んで消えた。


「おい、カゲロ、独り占めしてんじゃねーよ」

「拙者は出口を固めていただけでござる」

「ちっまあいい、終わったんならとっとと帰ろうぜ」


 もうひとりいたんだ。今まで岩壁だと思っていたところから、絵が剥がれるようにもうひとり現れた。他のふたりと短い会話を交わして、今度は地面に現れた黒くて丸い穴の中へ消えていった。


「今の人たちは?」

「あれは迷宮掃除人です。我らが主、アラタ様の忠実な下僕」


 へー。アラタ様っていうのは、このツクリ共和国を建国した人だよね? でもたしか建国してすぐに行方がわからなくなったって、街中で噂をしていたのを聞いたけど。


「そのアラタ様って、今どこにいるんですか?」

「遠いところです。アラタ様の故郷にいます」

「それでいつ帰ってくるんですか?」

「それは我々にもわかりません」


 案内人237号さんは、そう言ってまた淡々と冒険の案内を始めた。





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