✜28 茶会
うっはぁぁ!? やっべぇぇーーッ! 美味しすぎる。この世の食べ物なのか? それともこれが
まずクッキーが美味しい。一口かじると、そのサクサクとした食感が口の中に広がった。甘さは控えめで、素材の風味がしっかりと感じられる。バターの豊かな風味、小麦の香ばしさ、そしてちょっとした塩味が絶妙なバランスを保っている。クッキーがひとつずつ丁寧に焼き上げられており、上品な味わいに大いに舌鼓を打つ。
紅茶の方はというと、一口飲むと、まずその香りが鼻腔をくすぐった。花や果物のような華やかさと、木や土のような深みが絶妙に組み合わさっていて匂いだけで満点を出してあげたい。口に含むと、その味わいはさらに広がる。苦味、甘味、酸味が絶妙なバランスで混ざり合い、後味をすっきりとさせている。そして何より、その温かさが体全体を包み込み、侵攻者との争いで疲れたきった心を癒してくれる。
クッキーと紅茶、それぞれが素晴らしい。だが、一緒に楽しむことで、さらにその魅力が倍増、いや十倍以上に互いに長所を引き出し高めあっている。これぞまさしく夢のコラボ。クッキーの甘さと紅茶の苦味の絶妙なマッチング……。一口ごとに新たな発見が訪れる。これほどまでに心地よい時間を過ごせるのは、このクッキーと紅茶のおかげ……。本当に、最高の一時をありがとう。
そう、心の中で噛みしめて味わっていると不意に茶会のもうひとつの醍醐味であるトークが始まった。
「私はカリエテ、あなたのお名前は?」
「アラタです」
先ほどから気になっていたのだが、目の前のマダムは頭の上にステータスが
ピコンもとても女性に懐いている。まるで
「まず、
今、「この島」ではなく「この世界」とはっきり口にした。やっぱりこの人って自分と同じプレイヤーなのかな?
「私はこの世界の住人ですよ」
心を読まれている? あっさりと考えを見透かされた。
隠しても無駄かもしれない。だいたい隠すようなものでもないし……。素直に自分が日本からきた元高校生であることを説明した。
これにはヤコやシュリも多少、眉を上げたり、目を見開いたりして、驚いている様子だったが、自分の話に最後まで静かに耳を傾けていた。
「やはり
「あの人って誰ですか?」
カリエテさんは、遠い記憶を呼び起こしているのか、近くの花壇にある白い花に視線をやった。
「私の古い友人にね、キヨマサという人がいるの」
カリエテさんの話によると、キヨマサとは、この島にダンジョンを作った日本という異世界からこの世界へやってきた人物。そして彼女の話を聞く限り、ふたりは恋仲だったのではないだろうか……。
「たしか『ヒゴ』の国を治めていたと言っていたかしら?」
ヒゴ……肥後の国、えーとどこだっけ? 九州あたりだったかな。昔の人なんだ。
「築城と土木の名人で、『ヒデヨシ』という人物に仕えていたと言っていたわ」
ヒデヨシって、歴史の授業で習ったのは一人しかいない……。そうするとキヨマサって、名字はちゃんと思い出せないけど、佐藤だか加藤だかの清正っていう戦国武将!? あんま歴史に興味がないから、はっきりとは思いだせないけど、歴史シミュレーションゲームでは、たしかカッコいい槍を持っていたのだけは覚えている。
「彼はダンジョンをそれはもう一心不乱に作っていたわ」
この島には元々、なにもなかったが、キヨマサという人物が、大量のダンジョンを作りまくったそうだ。そのダンジョンを狙って他所の異なる世界からやってくる侵略者を自慢の片鍵槍ですべて返り討ちにしていたと、カリエテさん本人は気が付いてないかもしれないが相好を崩しながら懐かしそうに語ってくれた。
「でも彼が亡くなってからは、この島はずいぶんと荒らされたわ」
他の世界から幾度となく侵略者がやってきて、綺麗に整備された島は荒廃した魔物が無秩序に徘徊する島になってしまったと話す。
「彼から権限を譲り受けたけど、私ではダメなの……」
彼女は元々、キヨマサが作り出したレイド級ボス。権限を使えない彼女は侵略者に島を奪われないよう、地底にある溶岩湖で、永遠に解けない狂化魔法を己に施し、ステータスを限界以上に底上げして、侵略者が襲撃してきても最後の拠点だけはずっと守り通してきたそうだ。
目の前にいるカリエテさんは、自分を与えられた役割以上の存在へと強制的に昇華させる狂化魔法を使った代償で肉体と分離してしまった魂だけの存在で、古龍カリエテは今なお溶岩湖で、主なきこの島を守っていると教えてくれた。
「でも、もう大丈夫。新しい管理者が来てくれたんだもの」
カリエテさんの姿が気のせいか、すこし透けて見える気がする。
「侵略者とはまだ戦ってはダメ」
侵略者の中には、相手を封じ込めるのが得意な使い手がいるそう。生命力が無限大な自分でも異空間へ閉じ込められたら、死ぬまでそこから出られない恐れもある。これを破るには「管理者権限の解除」が必要だと教えてくれた。
「そろそろ時間がきたみたい……最期のお願いを聞いてくれるかしら?」
クッキーも紅茶もいつの間にか空になったテーブルを挟んでカリエテさんから頼まれた。
「私の本体……管理者代行である古龍カリエテを倒して」
そう話すと、カリエテさんの魂は無数の蛍のように静かに宙を舞い、淡く点滅を繰り返し、やがて消えていった。
──まるで星々という物言わぬ語り部たちが、夜空で煌めくことで、空を見上げるものへ伝言を残すように……。
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