✜11 第2試練


 この辺でいいかな?

 ゴブリンシャーマンと初めて遭遇した日から1週間が経過した。


 冒険者の気配をまったく感じなくなって数日、小高い山に囲まれ、中央に川が走っている生活の拠点としては絶好の場所を発見した。


 ここを拠点としている魔物はおらず、徘徊していたホブゴブリンやオーガをある程度片付けた。あとは戦闘用ゴーレムを量産し、魔物を見つけ次第、駆除してもらうよう手配した。


 ちなみに戦闘用ゴーレムのステータスの謎が最近になってようやく解けた。自分の知性の数字が割り振られたものだった。これまで知性は他のステータスより高めだったので、知性への配分は他より少なめにしていたが、これに気がついてからは知性も同じように割り振りするようになった。


 まず、この岩山に囲まれた場所にある木をすべて切るところから始めた。これまでまったく生成しなかった土建ゴーレムを生成して、大型のノコギリで川の近くから始めた。最初は土建ゴーレムと一緒に木々を切り倒していたが、不思議な場所をみつけたので作業を中断した。


 ──不思議な壁がある。先の景色は見渡せるが、たしかに「なにか」がある。仮に透明な壁だと考えたら、説明がつきそうなものだが、壁をぐるりと手探りで一周しても、その先の草木が揺れている・・・・・・・・・・・・。広さは小さな公園くらいはありそう。


「アラタ様」

「うん」


 シュリに教えてもらって気が付いたが、1か所だけ縦に黒い線が走っている。


 その場所を手探りでベタベタ触っていたら、景色のなかに手が飲み込まれていく場所があったので、手を突っ込みあちこち触っていたら引っ掛かるものがあったので押してみた。


 すると、扉の形をした景色が横にスライドして、こつ然と部屋と思しき空間の入口が出現した。


「ヴァールギュントの第2試練を開始します」


 見覚えのある石板が部屋の中央にある。他になにもなく石板に書いてあるとおり、突起を回転させると声が響いた。


 ゴゴッと音が鳴ったかと思うと周囲の壁が下に動き出した。──いや、床が上昇している!?


 入り口は床が動いたせいで、床に飲み込まれるように下へ沈んでいき、退路を断たれた。もうこの試練を受けるつもりはなかったのに迂闊だった。突起をひねったら試練が強制的に始まるのをすっかり忘れていた。


 でもヴァールギュントってタコの怪物じゃなかったっけ? 第1試練では水の壁の中にいた巨大なタコの頭の上に「ヴァールギュント」って出てたので、てっきりタコの怪物の名前だと思っていたのだが……。上昇していくんだったら、空に水槽なんてある訳ないので認識を改めないといけない。


 ──という認識を再度改めなければならない状況が目の前に広がった。


 また、水の壁……円形の部屋の周囲は水の壁によって隔てられていて、その先には頭が刃の形をした魚の群れがひしめいていた。


 ───────────────

 名前         ─

 年齢        1歳

 種族  スピアフィッシュ

 生命力        2

 筋力         2

 敏捷性      317 

 知性         1

 精神力        1

 器用さ        1

 スタミナ       5

 幸運         1

 経験値        1

 ───────────────



「ピッ!」


 ピコンの結界魔法の発動がもう少し遅れていたら、シュリとヤコが串刺しになっていたかもしれない。水中で助走をつけたスピアフィッシュが水の壁を突き破り、放たれた矢のような速さで自分達へ飛んできて、ピコンの結界にぶつかり、ぐちゃぐちゃに潰れていく。


 マズいマズいマズい……。


 無数のスピアフィッシュが360度あらゆる角度から結界へ突撃している。車のフロントガラスに何百個と生卵をぶつけたような有様になってきているが、限界が近いのかピコンの結界に罅が入った音がした。


「あ、アラタ様ッ!?」


 シュリがとっさに声を発したが、すでに手遅れ、ピコンの結界の外へ飛び出すと、夥しい量のスピアフィッシュが結界から飛び出した自分へ目がけて飛んできた。



「アラタ様大丈夫ですか?」

「あ、ああ」


 それからしばらく経った。水槽の中のスピアフィッシュは1匹もおらず、すべて突撃した後だった。


 一発で潰れたスピアフィッシュはすぐに硬貨へ変わっているが、そうでないのは床をピチピチと跳ねている。魔物の黒い血でひっくり返って床へ転がっていたので、のそのそと起き上がる。


 皆、無事でよかった。もし、結界から飛び出さずにスピアフィッシュの突撃先が結界に固定されていたらヤバかったかもしれない。


 床がまた動き出した。しばらく何の変化もない壁だけが下へと流れていたが、途中で今度は壁もなにもない雲の上に出た。


 どうなってるのこれ? 壁はないけど床と天井は変わらない。風だって吹いているので、幻影とか幻覚の類ではない。


 うーん、あれは?


 遠くからなにかこちらへ向かって飛んでくる。鳥の群れかと思ったが近づくにつれて、人型に見えてきた。


 ───────────────

 名前         ─

 年齢         ─

 種族  ガーゴイル(弓)

 生命力       12

 筋力         8

 敏捷性       27 

 知性         5

 精神力        5

 器用さ       18

 スタミナ      17

 幸運         3

 経験値        5

 ───────────────


 数はちょうど20匹。そう多くはない。


 真っすぐ近づいてきていたが、急に進路を変えた。建物の中には入らずに旋回しながら弓矢を放ってきた。


 矢束だけを抱えたガーゴイルも5匹いて、しこたまこちらへ矢をお見舞いするつもりにみえる。


 この攻撃に対して、ピコンが結界を張って、中からシュリの魔法で狙撃するが、ひらひらとかわされて、なかなか当たらない。なのでクロスボウを手に結界の外から出て、近づいて射抜こうとした。


「アラタ、後ろ!?」


 切迫したヤコの声、結界の外へ出るのを待っていたのか!? 振り向くと反対側にいた2匹のガーゴイルが迫っていた。狙いはたぶん突き落とすこと・・・・・・・


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