✜10 島の奥へ
やっぱり……ブンゲルの奴隷の館でヤコを選んだのは彼女のステータスが飛びぬけて高かったから。きっと歴戦の強者だと思う。なぜこれほどの戦士が奴隷の身分へ落とされたのか謎だが、こうやって実際、尋常ではない動きを目の当たりにすると、やはりとんでもない戦士だというのがわかった。
奥の方で叫び声がふたつ聞こえた。どちらも男のひとなのでヤコの奇襲がうまくいったと思う。こちらは剣と斧を持った相手にクリエイティブで作った大盾で攻撃を防ぐ。
道を外した兇徒には違いないが、それでも冒険者であるということをその強さが証明している。自分でも結構強くなった気になっていたが、3人もいると手こずってしまう。
冒険者の街では、ステータスが見放題だったので、いろいろな人のステータスを眺めたので、ようやくステータスの相場がわかった。目の前の3人は中級程度の冒険者に匹敵する。
「ぐっ、あのガキッ! ひん剥いてやるッ!」
シュリのクロスボウの矢が、剣を持っている男の腕に刺さり、武器を落とした。注意がシュリの方へ向かい、彼女の元へ駆け出した男を止めようとしたが他のふたりに邪魔をされた。
「かわいい奴隷ちゃんは俺たちがたっぷり可愛がってやるからよ、早く死ねやッ」
「キサマらがな!」
「ぐふぅッ」
ヤコが戻ってきて、男のひとりを背後から貫いた。もう一人の男が気をそちらに逸らした瞬間、大盾の縁で思い切り殴りつけ、気絶させた。
「うわぁぁぁ、め、目がぁぁぁぁッ」
後ろの方ではクロスボウから魔法へ切り替えたシュリが、至近距離で炎の帯を男の顔面に放射し、胸から上の部分が自分で消せない炎に焼かれてもだえ苦み転がっている。──しばらくバタバタもがいていたが窒息の方が先だったのかそのままぐったりとして動かなくなった。
「起きろ」
「がはッ!」
盾で殴って気絶させた男の武器を取り上げ、縄で縛り上げた後、ヤコが腹に蹴りを入れて、無理やり起こした。
「誰の差し金だ?」
「はっ俺がそんなこと言う訳な……ごぶぅッ」
ヤコの鋭い拳が男の顔面にめり込むと鼻が曲がって赤くなった男が悲鳴を上げる。
「わかった。なんでも話す。俺たちを雇ったのは……」
昨日、ブンゲルに預けたシャンプーなどの商品の買い付けを決めたある貴族の手下に雇われたと白状し始めた。それらしい人物を追跡して殺しても構わないから商品をすべて奪ってこいと依頼を受けたそうだった。
そうか、ブンゲルが客の情報を話さなくとも、彼の奴隷を扱う屋敷を出入りするものを見張れば誰が未知の商品を提供したのかわかるからずっと張り込んで、自分達に辿りついたのか。
そうなると、下手に元居た世界の品物をクリエイティブで再現して提供するのは諸刃の刃となり得るという発想にようやく認識できた。まあ普通に考えたらそうか、見たことのないすごい発明が目の前へぶら下がっていたら陰謀のひとつも起きても不思議ではないかもしれない。
「コイツは?」
「放っておこう」
「ま、待て、こんなところに縛られて放置されたらゴブリンに殺されちまう!」
「今死にたいか?」
「わ、悪かった」
男は放置しておく。正直、こちらの命を取ろうとしたので、すぐに解放するのは怖い。
もし彼が運よく助かったとしても反省しているとは思えない。仲間を大勢連れてくる前にダンジョン島の奥深くへ逃れてしまおうと考えた。
「それにしてもずいぶんとアタイのことを高く買ってくれるんだな」
「それはまあ、事情があって」
ステータスが見えているからヤコが街で見かけた上級冒険者に匹敵する強さを持っているのはすぐわかった。彼女が主人殺しという汚名通りの人間であれば、それなら無理やり屈服させても良かったが、どうやら分別のあるひとらしくて助かった。ステータスや実戦経験ははるかにヤコの方が上だが、こちらは生命力が無限大……死なないから可能な手荒い真似もやろうと思えばできた。
これまで使っていたゴブリンの拠点はあまりにも冒険者の街へ近いので1週間かけて島の奥へ向かって移動した。
その間にも自分とシュリのステータスは上がっていった。途中で拠点潰し用のゴーレムを3グループ派遣したので、日々の得られる創造ポイントはますます増えてきた。
ただひとつ気になることがある。ポイントの計算がすこしズレが起き始めている。全体的にはもちろん増えているのだが、計算が合わない。ぜんぶちゃんと足しているわけではないのだが。考えられるのは最初の頃に派遣したゴーレムの数が減ったのか、あるいは全滅したのか……。それ以上に追加のゴーレムグループを派遣しているので、ゴーレムから得られるポイントが減る訳ではないので、そこまで気にするほどでもない……。
「ここらからは用心深くいった方がいいね」
ヤコからの提案に同意する。
ひとつ前のゴブリンの拠点では、ホブゴブリンが多数を占めていた結果、倒すのにかなり時間がかかった。
さらにその中に、1匹だけだがゴブリンシャーマンという魔物なのに知性がやけに高い魔物がいて、炎の魔法を放ってきたのにはかなり驚いた。
もし、ピコンが結界を張ってくれなかったら、シュリが危なかったのでこれまでの強襲するスタイルはシュリやヤコの身を危険にさらしてしまう。それなので襲撃する方法を工夫することにした。
魔物の集落を見つけたらまず風上へ移動する。そこでシュリに眠りの霧を発生させる魔法を使ってもらった。
ゴブリン達が眠ったところで真っ先にゴブリンシャーマンを片付けてから残りを相手するようにした。ゴブリンシャーマンは精神力がホブゴブリンよりは高いため、睡眠への抵抗も高いが、その場合でも酩酊したような状態にあるらしく碌に魔法を使えないので、脚力が尋常ではないヤコがダッシュで接近して倒す、という手法にしたところ、ホブゴブリンの拠点を制圧するのが、かなり楽になった。
第10話時点のステータス
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名前:アラタ:シュリ:ヤコ
年齢:15:12:19
種族:人間:羊人族:虎人族
生命力:∞:45:272
創造ポイント(アラタのみ):715
筋力:49:22:118
敏捷性:31:32:189
知性:145:77:15
精神力:∞:51:18
器用さ:31:45:58
スタミナ:42:25:109
幸運:20:10:10
拠点(アラタのみ):123
モード:CM:NM:NM
(アラタ)大型ナイフ、クロスボウ
(シュリ)小型クロスボウ×2、皮鎧
(ヤコ)ブロードソード
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