シュレディンガー

136君

シュレディンガー

 世の中には自分で飼っていた生き物を捨てる人たちがいる。法律上、そして道徳上ダメなことだ。そういうことをしている人たちを見ると、怒りがこみあがってくる。


「あっ。」


それはある日の帰宅途中だった。


 俺はいつも通り駅から家に向かって歩いていた。通り道には公園があり、いつものようにそれをぼーっと眺めていると、隅の方にダンボールが1個あるのが見えた。まさかと思い近づいて見たら…


「捨て猫?いや、猫かどうかも分からないか。」


ダンボールは封をされていて、中はどうなっているか見えない。


「誰が捨てたんだ?」


その箱に手を伸ばしたとき、ふとあることが頭をよぎった。


 『シュレディンガーの猫』というのは理系の人なら誰でも知っているだろう。簡単に言ったら「中を見るまで生きているか死んでいるか分からない」ということ。量子力学の確率解釈の話なのだが、実際今の状況には何の関係もない。けど、俺の理系脳がそう言っているのだ。


「まぁ、知らんけど。」


とりあえず箱を開けようともう一度手を伸ばす。その手はまた止まってしまった。


(そもそも、俺が拾って育てる必要があるのか?)


第一、俺は犬派でも猫派でもない、大卒1年目の新米サラリーマン。そして独身。大学は普通の大学の理系学科を出た。家は家賃の安いアパートだし、そんなちゃんと育てられるような環境も整っていない。


「それでも、やるしかないよな。」


俺は箱を開けた。


 そこにいたのはやせ細った1匹の白い猫。ぐったりとしていて、寝ている。一緒に入っている皿の餌がなくなっている感じ、腹が減っているって感じだな。


「生きてるか〜?」


そうやって声をかけながら頬をつついてみると、うっすらと目を開けた。


「ミャーオ…」

「おっ、生きてるか。おっちゃんの家来たいか?」

「ミャーオ!」


鳴き声からも分かる、そこまでの元気のなさ。やっぱり俺が拾うしかなさげだな。


「今日からお前の名前は『シュレディンガー』な。」

「ミャーオ!」

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シュレディンガー 136君 @136kunn

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