心配です

中野半袖

 仕事から疲れて帰宅すると、玄関に大きな段ボールが届いていた。段ボールは一辺が1メートルほどあり、きれいな立方体になっている。こんな大きなものを頼んだ記憶は無い。しかし、貼ってある宛名は間違いなく自分になっていた。仕方がないので、とりあえず家の中に運び込んだ。

 送り先は「株式会社箱」となっている。これを見ても私の記憶は何も思い出さなかった。しかし、うっすらと覚えているのは、いつだったか朝起きるとスマホをしっかりと握りしめていたことがあった。もしかしたら、そのときに誤って注文をしてしまったのかもしれない。夢遊病という寝ながら歩きだしてしまうという昔ながらの病気がある。しかし現代なら、夢注文病という寝ながら品物を注文してしまうことくらい造作のない時代である。

 私は、私自身でも気付かない深層心理が勝手に注文したものに興味が湧いた。

 段ボールを開封してみると、まったく同じサイズの箱が出てきた。鈍く光るアルミニウムのような色で、右も左も上も下も全く同じ作りになっている。これがまだ外装なのか、それともこれが中身なのか検討もつかない。説明書のようなものも無く、どう扱っていいのかも分からない。

 しかし、分からないとなると人間が最初にすることは決まっていて、表面を叩いてみることだ。最初はコンコンと控えめに叩くが、何も変化が無いと分かると今度は無遠慮にバンバンと叩いてみた。上面の角あたりを叩くと、どこからかカチカチという機械的な音がして、箱の側面が丸く開いた。中を覗いてみるが、真っ暗でよく分からない。

 私は腰をかがめて、中に入ってみた。そこは外から見ていたよりもだいぶ広くなっていて、両手を広げてもまだまだ余裕があるほどだった。いったいどういう原理で作られているのか知りたくなり、内側の壁に触れようとするがいくら身体を伸ばしても全く届かない。私は全身を箱の中に入れた。それでも壁に触れることはできない。さらに、箱の中では立ち上がることもできたし、まだまだ上にも余裕がある。内側の壁には相変わらず手が届かないので、一歩ニ歩と足を進めるが到底触れられそうになかった。気がつくと私は入口からかなり離れた場所に来てしまったようで、帰り道が完全に分からなくなっていた。

 しかし、さいわいにもこうしてスマホを持っていたおかげて、君にメールをすることができた。すまないが、このメッセージを見たら私の家まで来てくれないか。そして、箱の入口から私の名前を呼んでほしい。

 

 というメールが数年前に届いた。いや、届いていたと言うべきか。しかし、残念ならがこのメールアドレスは使わなくなってから数年経っており、このメッセージもアドレスを整理するために久しぶりに開いて見つけたものだ。上記のメッセージの後も何通かのメールが届いていたが……、それを読む気にはなれない。

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心配です 中野半袖 @ikuze

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