天童君には秘密がある 3〈KAC2024〉

ミコト楚良

前編  いろいろあって、わたしたちは組織で働いているの回

「すまん。エレベーターの中に閉じ込められた——」

 それっきり、同期の〈お父さん〉からの通信が途切れた。

(まさか通信妨害)



(〈博士はくしくん〉は、どこにいるの?)

 携帯のラインを、もうひとりの同期に送ったが既読にならない。

 わたしは、(落ち着け、落ち着け)と、呼吸をととのえながら屋内非常階段を駆け上がっているところだ。


 エレベーターの動力源が切れた。

 塔の最上階に行くには、この非常階段を使うしかない。


「くっそっ」

 わたしは乙女にあるまじき悪態をつく。

 階段昇降訓練をドクターストップを理由に、さぼったりするんじゃなかった。

 訓練部隊長がたとえとして出した、敵に動力源と通信手段を切られた施設内で、いかに動くかが、そのまま、今、自身の身に起こっている。


(きっと、博士はくしくんは最上階にたどりついている)

 エレベーターが止まる前に彼が動いていたなら。

(それなら、わたしも行かなくては)


 必死に足を動かすことだけ考える。

 最上階で、きっと彼は待ってる。


 彼のきれいな手が、わたしの首筋に触れたときのことを思い出した。

 あの、きれいな手の人に。


(会いたい)


 塔の最上階まで、もう少しだ。わたしは歯をくいしばる。

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