箱
野林緑里
第1話
家の整理をしていると押入れの中から古びた箱を見つけた。
箱は元々は銀色をしていたらしいのだが、年季が入っているせいかすっかりカビだらけになってる黒ずんでいる。
いつからそこにあるのからわからないが少なくとも私の記憶にはない。おそらく先日亡くなったこの家の主だったおじいちゃんのものだろう。
おじいちゃんにとって大切な物が入っているのかもしれない。ならばむやみに開けるわけにはいかないだろう。
だけどものすごく気になる。
おじいちゃんはいつもニコニコしていて私達孫にはものすごく優しい人だった。でもお父さんからいわせると厳しい人だったらしいんだけど、そんな厳しい顔なんて見たことがない。我が子には厳しく孫には甘くなるというやつなのかもしれない。
どちらにしても私にとってのおじいちゃんはものすごく優しいから本当に大好きだった。だからおじいちゃんのことをもっと知りたくなったのだろう。
開けたい。
でも開けるのが怖い。
もしかしたらとんでもないものが収められているかもしれない。
例えば人間の骨とか。
「なに馬鹿なこと言ってんのよ。ミステリー小説の読みすぎ」
それをいうとお姉ちゃんが冷めた目で突っ込んできた。
「そうよね。でもどうする? 開けて良いかな?」
「大丈夫よ。おじいちゃんなら笑って許してくれるわ。だって私達孫には甘いんだもん」
そういうわけで私達はおじいちゃんの箱を開けることにした。
けど、勇気がいる。
おじいちゃんとはいえ他人の大切にしまっていた箱だ。それを開けようというのだからおじいちゃんが許してもバチが当たるかもしれない。
そんな不安もあった。
それでも好奇心が勝つものだから、おじいちゃんに心のなかで謝りながらその箱の蓋を開いた。
「あっ……」
その箱の中身を確認するといなやお姉ちゃんが慌てたようにお父さんを呼ぶ。
何事かと駆けつけたお父さんは私達に急かされて箱の中身を見た。
するとお父さんは突然声を押し殺したように泣き始めたのだ。その泣き声はやがて声がもれていく。
そして何度も何度も「父さん」とおじいちゃんを呼んでいた。
そう……。
その箱にはおじいちゃんの我が子に対する深い愛情が詰まっていたのだ。
箱 野林緑里 @gswolf0718
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