KAC20243 箱

@wizard-T

犬も歩けば棒に当たる

 道端に、二つの箱が置いてある。


 片方はリボンが丁重にかけられ、水玉模様できっちりとした立方体。

 もう一方は薄汚れた外観で、背も低く底も浅い。


 あなたはどうするだろうか。







 さて、その箱を見たのはどこか冴えない風体をしたサラリーマン風のスーツの男。


 男は大した感慨もなさそうに二つの箱に近づき、なぜか薄汚れた箱を選んだ。

 中身は多分ないだろうと思いながら、なんとなく持った。その箱を開けようとしないまま、十分ほど持って歩いた。


 もう片方のきれいな箱は放置である。




「この箱が道路に落ちていたと?」


 男は、極めて真っ正直に拾得物が行くべき場所に持って行った。男はそのまま国家権力にもう一方は持てなかったとあるがままを言った。その国家権力は男に教えられたもう一個の箱を探しに行ったが、既になかった。

「まあそっちは誰か別の方に拾われたのでしょう。とにかくこちらを改めてみましょう」

 やがてそんな結論とも言えない結論を出した国家権力はそれまでずっと律義に座っていた男の前で箱のふたを開けた。

 そこには誰もおらず、その気になれば持ち逃げもできなくはなかったと言うのに。



 果たして。



「えっと、これは……本当に軽かったのですか」

「ええ」


 国家権力をして、他に何も言えなかった。男もそううなずく事しかできない。


 そのサラリーマンの年収二年分にも相当する、金塊。


 箱の大きさからしてギリギリ、重量にして何十キロ単位のそれ。


「とにかく、拾得物として扱いますので氏名等の記入を……」


 拾得物を得た人間として当然の行いをした男は、そのまま元の生活に戻って行った。


 それから一年、落とし主を名乗り出る人間はついに出なかった。


 その金塊は、ついに男の物となった。


 幸運なその男は、もう一つの箱の中身を知る事はない。と言うかもう一つの箱の存在自体すぐに忘れた。

 

 そして、その箱を拾った人間がどうしているかなどもっと関心がなかった。




 ましてや、それが善か悪か、幸運か不運かなど。

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