箱は忘れずに
だら子
第1話
もう一つ箱があったはずなんだけど。
引越しをして荷解きをしていていてふと思った。
とりあえずお気に入りの食器を棚に入れていく。よく一緒に料理したよね。ケントの作る唐揚げはわたしの機嫌を直す魔法の一品だ。
大学のサークルで出会って、社会人になってお互い、仕事に疲れてケンカとよくした。
そして、極めつけはケントの浮気。
別れるべきか何度も考えたけど、結果さいごは一緒にいると決めた。
彼と暮らすこの新しい街。
希望だけじゃない、不安でこの先未来が見えなくなることも、ある。
一番の心配は、親に同棲をどうやって説明するか。
わたしの両親は堅いから、彼のあんな姿なんて理解できないと思う。スーツなんてもちろん着てない、在宅ワーク中心なんて、理解してもらえない。
生活費はわたしが払うことになる。今なら少し彼のお金はあるかもしれないけど、この感じだとすぐになるなるだろうし。
問題は友達か。彼を紹介してって言われたら。家に呼んで…っていうのが理想だけど、ケントは嫌がるだろうし。結局2人でイベントに参加するってことはないだろうな…。憧れだったけど。
ケントの洋服を棚にしまいながら、ふと寂しさが込み上げてくる。わたしたちこれでよかったのかな。
あまりにも浮気するから。
「わたしのこと馬鹿にしないで!」
って、初めてあの時怒ったんだよね。
ケントびっくりして、
「やれるもんならやってみろよ」なんて怖い怖い。
最後には「お願いします。ずっと一生にいますから」なんて、泣きながら頼むんだもん。結局はわたしのこと大好きで離れられないんだから。
あの箱、間違えて置いてきたりしてないよね…大事なものは自分で運んだんだけど。
あった、あった。
ケントおはよう。ってもう昼過ぎたよ。
ちょっと窮屈だった?髪でも洗おうか。
ちょっと匂いもきつくなってきたね。
誰にも理解されないけど、私たちずっと一緒だね。
もうすぐつきあって3年の春。
お祝いにわたしが唐揚げを揚げるよ。
箱は忘れずに だら子 @darako
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