縁切り箱

白銀比(シルヴァ・レイシオン)silva

第1話

「ゆーびきーりげーんまん、ウッソつーいたーらはーりせーんぼーんのーーます。ゆーびきった!」


 僕らは子供の頃、永遠の友情を誓い合った。学校でも下校の時も、遊ぶ時でも風邪を引いたとか家の用事が無い限り、兄弟かのようにずっと一緒に遊んでいた。


 僕が引っ越し、転校する時まで。


 お互いに泣きながら、お別れを告げて指を切りあった。

 当時は今のようにスマホも無くSNSで繋がっておくことも出来ないので、住所を教え合って手紙のやり取りをすることしか方法がなかったんです。電話は引っ越し後に固定回線を設置したら可能だけど、県外の通話代はものすごく高いのでなかなか親は電話をさせてくれない。そういう時代だった。

 男同士の手紙のやり取りなんて続くわけもなく、二、三回の往復で書くことなんて無くなり自然と疎遠になるのは当たり前で、間もなくして新しい場所で新しい友達が出来ては、普通の学園生活を送っていた。


 それから約十年後。


 二十歳となった僕は学生時代からチェーン店でバイトをしていた会社に高校卒業と同時に就職していて、若くしてもうベテランとなっていたのもあり二十歳と同時に店長を任せられることになった。チェーン展開として新店舗オープンの店が僕の引っ越し前の地元だったのもあり、声が掛かった時はまだ若く出世にも息巻いていたのもあって二つ返事でOKを出した。

 引っ越し費用や家賃も半分会社持ちで、会社が用意していてくれた社宅だがやっと念願の一人暮らしが出来るのもあって、僕は活きいきとした気分で懐かしの生まれ故郷へとやってきた。引っ越し休みと有休を使って一週間は新居の整理や家具の買い揃え、空いた日に思い出の場所や学校を見に行ったりと追憶に浸りながら、それまで殆ど忘れていた当時の友人たちのことも場所と共に思い出していった。


 そう、あの親友だった奴も、元気にしているだろうか。


 無性に会いたい気持ちを抱えながらも、だからといって急に家に押しかけに行くのも礼儀知らずと言うか恥ずかしいと言うか、向こうは僕のことを忘れていたら気まずいしかないってのもあって、ただただ仕事で忙しい毎日を送っていた。


 ある日。


 買い物をして帰宅した時、自宅マンションの玄関に一人の男が佇んでいた。体格や身長は僕と同じぐらいだったが髪型や服装を見ると多分、中学生か高校生のようにも見える。その男の子はずっとマンションの上の方を見ていて、全く微動だにしなかった。


 女にでもフラれたか。


 そんなことを思いながら無視して帰ったけど、このマンションはファミリータイプとかではなく完全に一人暮らし用の間取りなので、ちょっと違和感を覚えた。


  翌週の土曜日。


 その男の子はまた同じ場所でマンションの上階を眺めていた。その目線の先は僕の部屋でもあるように思えてしまうので気持ち悪かった。この時はまぁ、そんなことはありない。お隣さんだろう。としか思ってはいなかったので気にはしなかったが、お隣さんが住んでいるのは両方とも男性だったので、上か下かなぁという程度でした。


 その次の週末。


 次は僕の部屋のフロアの一番奥に居た。僕の部屋は602号室。その子は608号室の前で座り込んでいた。

 休日で郵便物を取りに行った帰りだったんだけど、なんだかこっちを見ている気がして怖くなり僕は直ぐに部屋に入って行った。こうなると少し心配になりだした。ワンルームマンションだから複数人の住居には向かないにしても、まぁプライベートも何も無く二人暮らしならなんとかならない訳でもない。シングルマザーかファーザー、もしくは兄弟とかで二人暮らしにて虐待にでもあっているのかもしれないと。気になって少し考えてからもう一度扉を開けて奥の608号室の方を見ると、男の子は居なくなっていました。

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