第68話 赤面と溜息
……何だこの気まずい雰囲気は。
俺、特になんにもしてないよな。
もしかしてそれが駄目だったとか?
ヤバい、こういう時に限ってどうして二人ともそんなに集中して作業してるんだよ……
らろ ありがたいのはありがたいんだけど……なんかもうちょっと気遣って欲しかったな。
まあこれが普通の反応だろうし、特に何も言えないけどさ。
「取り合えず、ごめん……」
「いえ、私も……」
本当に気まずい。
こんなとき乃愛になら遠慮なく接することができるのに……
なんでこう対象が変わるだけで気まずくなってしまうのだろうか……まあ俺と乃愛は一心同体みたいなものだしな。
だからこうも変わるんだろう。
「ふぅ……一旦休憩っと。あれ? 何このドンヨリした雰囲気。あ、もしかしてまだ喧嘩してる?」
あ、そういうこと?
羽村は俺に対して何か怒ってるのか。
まあ単に謝るだけじゃ世の中、大抵のことは許されないもんな。
相手に行動で誠意を見せたところで結局許されない場合だって実際には多いわけだし。
うーん……そんなことした覚えも何もないんだけどな。
そうは言ってもな……やっぱり心当たりがない……あ、もしかしていつも周りから言われる鈍感ってこのことを指していたりして……まさかな。
少なくとも羽村は俺に何か不満があるのだろう。
やはり姉が心配なんだろうか?
にしても……って俺だって乃愛にそんな輩が口説こうとしてたら全力で抵抗するわ。
それが友達の兄だからすごく混乱してああなったんだろうな。そりゃあ許せないわけだ。
「羽村……すまん。勘違いさせるようなことをして……大丈夫だ。俺は今は恋愛する気は毛頭ないからな!」
「はぁ……」
え? タメ息?
うーんでもなあーこれが違うってなると他に怒らせるようなことは……
「……大体事情は察した。言っとくけどこれ全部天川が悪いから」
えっと……?
まあ確かに俺だってそう思ってたけどさ。
どこが駄目だったとかもっと言ってくれてもいいのに。
これじゃあどこが駄目なのか分からないじゃないか。
改善のしようがない。
「そうか。まあそうだろうな……」
「その様子だと何が駄目なのか分かってないみたいね」
「そうだよ……悪いか? 俺なりに何が悪いか常日頃から考えてそれでも分からなかったんだ。これ以上俺にどうしろと?」
「逆ギレしない。完全にあなたが悪いのは明白でしょ?」
「それはそうだな。悪かったよ。でもどうしても分からないんだ。誰に聞いてもデリカシーとか人の気持ち考えたら?とか言われてさ……こんなに苦悩しても分からないのに自分で考えろとか酷だろ……でもそれが普通か……はあー。あ、すまん……」
「いや、まさか天川がそこまで鈍いなんて思わなかった。なんかごめん……」
「いや、全部俺が悪いからさ、気にしなくて良いよ。俺作業に戻るから……」
あーここまで同情されるなんてなんか情けなくなってきた。
やっぱり、俺は普通以下(本人目線)なんだろうか?
そうなのかもしれない。本当に俺ってダメダメだな。
「あーあ、落ち込んじゃったよ……駿〜〜、これどうしたら良い?」
「途中から見てたけどさ、あれは俺にはどうしようも無さそうだったからね。力になれないならそもそも関わらないのが一番だと思ったから話に入らなかったんだ」
「そういうものかな……駿が言うならそうなのかな?」
「そういうものだよ。あ、そう言えばさ、ここもうちょっと良い単語にしたいんだけど中々……」
______________
あーあ。
落ち込んでる人の目の前で堂々とイチャ付きやがって。
と言っても全部俺が悪いから、ただの当てつけなのは分かってるけどな……こう、どうしようもないときには乃愛に癒やしてもらいたいものだ――まあここには居ないんだけどな。
そのまま何事も表面上では起こらないまま時間が過ぎた。
こうも気になってばっかりだと、 進むものも進まない。
ましてや作詞なんてできるはずがなかった。
幸いというか、清瀬が思ったよりも活躍してくれたおかげであと一曲分にまで一気に減らすことができた。
といっても、後味は最悪だけどな。
「今日は本当にありがとうございました。迷惑じゃなかったですか?」
「いいえ、妹が元気にやってるところを見れて安心しましたよ」
「そうですか。それなら良かったです。それでは失礼します」
ふぅ……これで良し。
あーもう帰ろっ。
他のみんなももう帰ってる訳だしな。
そのまま俺は一人帰路についた。
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