第59話 連れられた部活とズレた天才たちの……




 ……俺やらなくていいはずなのに。

 なぜか部室に行く羽目になった。

 本当にそれだけ困ってるのだろうか?


 一体何をやるって言うんだ……


「えっと、うちらの出し物が何か知ってる?」


「知りませんよ。どうして急に俺を呼んだんですか。」


「ん? どうしてって? 楓花ちゃんも来てるよ?」


「え!? マジで!? ……ハハハ、、、」


「なんでそんなに驚くのさ! 酷いよ?」


 えっと……

 昨日勝負に勝ったときの命令権をずっと保持している稲城が悪いと思う。

 何かされるんではないかと思って恐怖を感じてしまうじゃないか。

 俺の約束を守るっていう信念を逆手に取るなんて卑怯だとは思わないか?


 普通に考えたらそのくらいの考えに至ると思うのだが。

 正しく言えば、稲城の命令権が怖いだが、とにかく俺は今稲城が怖い。

 よって驚いただけで済ませた俺は悪くはないと思う。

 むしろ本当は絶叫してしまいそうだったところをよく耐えたと褒めてもらいたいくらいだ。


「で、才人くんって出し物の内容知らないんだよね?」


「ああ、全くな。知らないに決まってる」


「じゃあ言うね。学校図書館で人気な本あるじゃん?それをショートアニメにしよっていう企画。オッケー?」


 なぜそんな無謀なことをしようとした。

 普通に考えたらそんなの難易度バカ高いに決まってるじゃんか。

 今からでも変えたほうがいいに決まってる。

 ……ここ文芸部なのにノリが良い奴ばかりだから、きっとノリで決まったのだろう。

 もうちょっと考えて色々やって欲しかった。


「それでさ、もう五つ中、四つは大体できてるんだよね」


 マジか。

 クソ優秀じゃんか。

 あのチャラチャラした見た目でそんなこともできたのかここの部員。

 ちょっと尊敬するわ。

 でもそれなら問題ないのでは?


「でも、このままだとショートアニメじゃなくて映画並みの長さになっちゃいそうなんだ……」


 は?

 お前ら舐めてる?

 映画並みのアニメってさ、作るのクソ時間がかかるだよ?

 それをこんな数人で、数日で作るとか頭おかしいんじゃないか?

 相当狂ってると思われる。

 まあ、全員が天才ってことなんだろうな。

 ……それにしてもおかしくない!?


 というか声優どうしたの?

 どうせこんな急に作ったんだから大根演技なんだろ?

 失敗するな、これ。


「今から序盤だけ見せるね」


「オッケー。頼む」


______________


 は?

 レベルバカ高いじゃんか。

 何? みんな声優やってるよね?

 頭おかしくなってきた。

 文芸部だけ世界観別じゃないか。

 俺、来る部活絶対に間違えた。

 ……あとお前ら演劇部のほうが絶対に向いてるだろ。

 ここまで全員がレベル高かったらなんかの賞狙えるぞ。


 こんな出来の作品に俺がどうしろと?

 絶対にこいつ等が作った方がいいに決まってる。

 むしろこれいつ作ったんだよ。

 誰か絶対に前もって作ってただろ。

 ……プレッシャーが……スゴイ。


 うん、逃げよう。

 これは絶対に関わっちゃいけない案件だ。

 俺、戦犯にはなりたくないよ?


「どうしたの? 変だよ?」


「これ、俺いらなくね? 普通に出来おかしいじゃん。なんでこんなみんな本気なの? あと本気だったとしてもここまでの作品にはならない。え? どういうこと?」


「ん? 普通じゃないかな」


「お前ら……絶対にズレてる。こんなもの普通に作れないって」


 普通にプロじゃんか。

 何を変なことを。

 これを学生が作ってる時点で頭おかしいんですよ。

 あれか? もしかして全員の両親がアニメ関係者とかで手伝ってもらったとかか?

 いや、そうに決まってる。

 こんなクオリティ学生に作れるものじゃない。


 しかも既に四つ。

 余程大物が親にいる奴らなんだろう。

 頭バカになりそう……

 不可能なことをやるなよ。


 あの将棋の新星並みに有り得ないことだよ? これ。

 いや、もしかしたらそれ以上に有り得ないことが起きてるのかもしれない。


「それでさ、才人くんには作詞して欲しいんだ〜〜」


 は?

 無理じゃん。

 何押し付けてくれてんの?

 マジでどうしよう……


「え……無理じゃん」


「……そんなことあたしも分かってるよぉ……でもあたしもBGM作らされてるから……お互い頑張るしかないよ。……ここの部活で正常なのあたしたちだけだよ……」


 そんなの理不尽だろ。

 俺、作詞とかしたことないんだけど。

 でも稲城はどうやらこの部活の異常さには流石に気づいているらしい。

 むしろ稲城しか異常だと思っていないことが問題だと思うんだが……

 今日乃愛にでも相談してみるか……

 ……はあ。多分無理そうだけどさ……

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