第52話 説得




「それでは皆さん集まったようなので、会議に移りたいと思います。今回の議題はすでにお伝えのように文化祭のクラスの展示や出し物を行う場所についてです。それでは各クラス、発表する出し物と希望する場所を言ってください。」


 それから各クラスの出し物、希望場所を聞いた俺はすぐに会議は終わるだろうと思いある程度は聞き流していた。

 それでももし話を振られた時のために対応できるようにある程度重要そうな話は聞いていた。そのままボーっとしてても終わるような会議に何となく参加していた。

 このまま順風満帆に会議が終わると思ったのだが……

 そんなことはなかった。


「どうしてもこの部屋じゃないとダメなんだ!譲ってくれよ!」


「うちのクラスだってここ以外ありえないってなってるの!そっちこそ譲ってよ!」


 はあ、まあそんなうまく行くことなんてないだろうとは思っていたけど。

 それでも会議で言い合いはないだろう……普通に考えたらこの状況であそこまで強く言い合うだろうか。

 でもどうしたものか……このままでは会議が長引くどころか最悪問題になるだろう。

 かと言って俺が仲裁に行ったところで余計に話がややこしくなるだけだしな~~

 何かできることはないか考えてみるか。


「……ちょ、天川くんさ。なに考え込んでるのよ。」


「なにその言い方。ちょっと違和感がするからやめておけ。」


「酷くない?ねえねぇみゆ~~天川くんが酷い~~」


「他人を巻き込むなよ。全く都合のいい奴め。……ごめん、俺考え事するからあまり話しかけるなよ。」


 えっととりあえず考える


「みゆ~ドンマイ。ひょっとしたらこの集まりだと進展は見込めないかも。」


「……えっ?えっとどういう意味……」


「天川くんのこと好きなんでしょ?」


「……!どうしてそれを……誰にも言ってないのに……」


「言ってなくても態度と様子でバレバレだよ?少なくともクラスメイトの女子たちにはもうバレてるよ。」


「えっ?本当に?……嘘。恥ずかしいよ~~」


「あまり大きな声で言うとバレちゃうよ、みゆ」


 何をごちゃごちゃ言ってるんだろうか。

 少し気になるじゃないか。

 ……今は集中だ、集中。

 えっと、とりあえず問題を正確に理解しないと。

 確か二クラスの出し物とも使う設備が大きいからこの大きな窓があるこの部屋じゃないといけないのだろう。

 ほかに条件に似合う部屋は体育館以外にない。

 確かにこれは両方とも引き下がれないわけだ。

 となるとほかに解決案は……

 えっと……なくないか?

 これは詰みというやつではないのだろうか。


 いや、諦めてはいけない。

 きっと突破口が見つかるはず。

 仮に俺が無理でも会長や清瀬が見つけてくれるかもしれない。

 でも二人に押し付けるのは心が痛む。


 少しでも役に立たないと。

 二クラスとも設備のサイズで一番大きなものは冷蔵庫三倍くらいと。

 でかいな。えっと生徒玄関からは入らないけど一応正面玄関からはギリギリ入れられるみたいだ。

 ……一応近くにこの部屋と同じくらいの広さの部屋は会議室がある。

 しかも部屋の扉が無駄にでかくて体育館の扉くらいの大きさがあるので十分入れることができるだろう。


 一応提案してみるか。


「あの~~少し良いですか?俺から一つ提案があるのですが……」


「提案ってなんだよ!こっちは今忙しいんだけど?」


「本当にだよ!話に首を突っ込まないで!」


 わお。俺の話は聞いてもらえないみたいだ。

 まあ二人ともこんなに興奮してるし、人の話が聞けるような状態じゃないだろうな。

 誰か助けてくれよ……

 そう思っていると清瀬が二人のほうに近づいていった。

 

「まあまあ先輩。一度だけでも聞いてやってくれませんか。もしかしたら妥協策が見つかるかもしれないですし。」


「そういうことなら……」


「まあ一度くらいなら……」


 イケメンパワーってスゲーな。

 でもそんなにすぐに人の話を聞けるようになるなら俺の話を聞いてもよかったのでは?

 とりあえず清瀬には感謝しないと。


「サンキュー清瀬。ありがとな」


「全然むしろ君が案を考えてくれてありがたいくらいだよ。場所は整えたから行ってきなよ。」


 本当に性格がいい。

 だからこそこいつはモテるんだろうな。

 俺とは大違いだ。

 ってこの下り前にもやらなかったか?

 まあいいや。せっかく清瀬が作り出してくれたチャンスだ。

 しっかりと生かさないとな。


「先輩たちがこの部屋にこだわっている理由って主に大きな設備が運べるのがこの部屋くらいしかないからですよね?」


「そうだな(よ)」


「それならこの会議室も条件に当てはまるはずです。正面玄関から運び出せばこの部屋まで持ってこれますし、十分扉も大きいので大丈夫なはずですがどうでしょうか?広さもここと同じか、むしろ少し広いくらいなので結構いいと思うんですけど。」


「それなら俺のクラスがそこにするよ。こいつと争うの面倒だし。ありがとう。それと変に噛みついてすまなかったな。この礼はいつか必ずするよ。」


「私も話を聞かずに突き放してごめんなさい。あとありがとう。」


 よかった……

 二人ともまともだ。

 あのストーカー先輩のせいでついこの先輩たちも厄介なタイプかと思ってしまった。

 何とかなったようで何よりだ。

 今回のMVPの清瀬に最大限の感謝を送りながら俺は自分の席に座った。

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