第39話 怒りと怒りのシスコンとシスコン。




「却下する!俺と乃愛を引き離そうとするやつはいくら会長でも許さん!!何様のつもりだてめえ!!!」


 怒りのあまり、俺の普段の口調からは考えられないほど荒々しい口調になる。

 少し会長も驚いたようだ。

 正直自分でもこんな口調になったことに驚いている。


「もし会長が俺の立場だったら耐えられるか?耐えられないよな~?人に耐えられないこと押し付けてんじゃねえよ!」


「いや元はといえば君が…」


「あ゙?それはそれ、これはこれ。関係ないよな。俺と乃愛まで巻き込むとか意味わかんねーし。馬鹿なのか?」


「いやだから…」


 つい暴言が出てしまう。

 でも俺と乃愛を引き離そうとしたやつにかける情けはない。

 せめて言い返せなくしてやろう。


「そもそも妹のことをもっと考えたらどうだ!俺ならもう少し乃愛のことを考えるぞ!たとえ友達の家に行くとしても乃愛のことを思って引き留めない。仮にそれが男だったとしても苦渋の決断で我慢する。会長のそれは妹さんを大事に思ってるんじゃない。自分のものが手から離れるのが嫌なだけだ。妹さんの交友関係を束縛して何になる?妹さんのため?ふざけるな!会長の愛情はただの独占欲だ!会長はもっと妹さんのことを気に掛けるべきだ!そんな身勝手な事ばかり言ってるようなら妹さんが離れるのも無理はないな。この自己中が!」


 さすがにこれは言い過ぎたかもしれない。

 でも最悪、ここまで言っても会長には伝わらない可能性がある。


 以前、クラスメイトの日野さんに言われたことがある。

 会長は昔から完璧過ぎて注意されることがなかったと。

 注意されても言いがかりだけだったから、全ての忠告について軽く思っているらしい。


 もし俺の言葉が言いがかりとして捉えられたら?

 そうなったら俺は確実に死刑だろう。


「で、でも…」


 会長の口調が崩れてきている。

 ここで攻めなきゃ俺は死刑だ。

 やるしかない。

 会長、最後まで情けはないぞ。


 これは俺のためだけではない。

 歪んだ兄妹を矯正するために必要なことだ。

 さっきまでは荒かったが少し落ち着いてきた。

 ここからは説得するだけだ。


「会長。実際にどうなんですか?妹さんは学校でもあなたのことをウザイやら、視線にすら入れたくないと散々言ってますよ。それにあなたのことを昨日は彼女の力いっぱいで引き剥がそうとしてましたよね。事実あなたはそれで少しよろけた。もう認めましょうよ。あなたのこれまでの愛はただの独占愛なんです。これから直せばいいんですから。妹さんとやり直せるかは分かりませんけど、兄として向き合うことはできるはずですよ。」


 何か論点が大いにずれた気がするけどまあいっか。

 それにしてもまさか会長に説教をする日が来るとは夢にも思わなかった。

 そもそもしたくなかった訳だが。


「…」


 だんまりだった。

 本当に分かったのだろうか。


「会長、俺はここで行きますよ。もう家族の買い物が終わったみたいだったので。それでは。」


「…っ」


 会長は終始言い返して来なかった。

 まあ、俺が言い返す暇を与えなかっただけだけど。


「お兄ちゃん!遅い。何してたの?」


 やはり、乃愛は癒しだ。

 さながら最カワ大天使である。


「シスコンに捕まってた。」


「何言ってるの?シスコンはお兄ちゃんでしょ?」


 え?俺はシスコンじゃないけど。

 それだと俺が俺に絡まれてたとかいう意味わからん光景の完成じゃん。

 何?俺って分身でもできたの?


「俺は違うが?ともかくシスコンに絡まれてたの。昨日のえっと…イケメンいただろ?その横にいた茶髪の子、そいつの兄に絡まれてたんだよ。そいつがすごいシスコンでさ…」


「つまりお兄ちゃんが二人いたと…」


「いや俺じゃないってば!会長、うちの高校の生徒会長!」


「…生徒会長がシスコンってなんかヤダ。」


「だめだぞそんなこと言ったら。母さんに叱られるぞ。」


「でも本当のことじゃん!会長がシスコンとか嫌なんだけど。」


「こら。思っててもそんなことは言っちゃいけません。」


「ママ…ごめんなさい。」


 やはり母さんは強い。

 俺が言っても聞かなかったのに、母さんの言葉は聞いた。

 なんか悲しいな。


 乃愛はしゅんとしてるのに、母さんはずっと説教を続けている。

 流石にこれは見逃せない。


 そうして俺たち兄妹は母さんにこっぴどく叱られた。

 ちなみに俺だけ1時間も長かった。


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