第36話 来訪者×3




 部屋に戻った俺は、テスト明けにも関わらず遠慮なく出された週末課題に取り組んでいた。

 正直言って問題はないのだが、あの遊んでいた奴らはちゃんとやったのだろうか? 

 清瀬は問題ないとして、その他のクラスメイト及びあの先輩はきっとやってないな。

 いや、待て。

 あの倫理観のないグループのことだ。

 もしかしたらペディアに押し付けている可能性も…

 それは清瀬が許さないか。何かムカつく。


 トントン。


 誰かが来た?乃愛か?乃愛だな。乃愛に違いない。


「入っていいよー。」


「お?意外と好印象?」


 ん、あれ?乃愛じゃない…

 それなら誰…この声は…


「あ〜、稲城かよ。」


「む!悪かったね~乃愛ちゃんじゃなくて。」


 こいつそれ分かってて入ったのか?

 乃愛が来てくれるという淡い希望を持っていることに気づいていながら、勘違いされる可能性を考慮に入れたうえで入ったのか。

 なかなかヤバいやつなのでは?


「それはそう。」


「ひっど〜い。サイテーな発言だね?」


 こいつ冗談で言ってるな。

 微妙に口が緩んでる。笑ってる証拠だ。

 俺を面白がってからかってるんだろう。

 でも印象は大事だ。

 万が一のことがあったら嫌だし実際失礼な発言だったので謝るべきだろう。


「すみません…」


「冗談、冗談だよ〜、ね?」


 予想通りの反応でよかった。

 こっちもこれで煽れるから万事オッケーだ。


「大体分かってたぞ?それはともかく何で俺の部屋なんかに来たんだよ。来る意味かなんてないだろ。」


「え?それはきたかったから?」


「何で俺に聞くんだよ。お前が一番その理由を知ってるはずだろ?質問に質問で返すな。」


「それって少し違くない?ちょっと発言ズレてるよね。」


「稲城の方がズレているのでは?そもそもズレてない人をズレているっていうのは失礼じゃないか?」


「もうヤダこの人……鈍感とかそういうレベルの話じゃないでしょ…そこまで酷いとは思ってなかったよ、、、」


 そこまで酷いってなんだよ。

 こいつさっきから、ズレてるとか、鈍感とか酷いことばかり言ってきている。

 俺が何をしたのだろうか?


「また鈍感って言った。確かに俺は気配察知能力の鈍さはあるけどさ、それでそこまで鈍感って言わなくてもいいじゃないか。」


「ほら、鈍感。」


「虫でもいた?羽音とかしなかったけど。あ、もしかしてGか?Gなのか?Gだったなら絶対に許すマジ。」


「大丈夫、居ないから。居たらあたしも叫んでるよ…」


「それもそうだな。あたしもって言ってたけど俺叫んでないぞ?」


「細かいことは気にしない気にしない!」


「てか何で俺の部屋来たし。何も無いぞ?」


「本当に何もないね〜ゲーム機はあるんだ〜」


「やらないぞ。もう遅いんだ。やるとしても明日だからな?今やるのは頭の健康にも悪いし、それに…」


「もう!分かったってば!」


 本当に分かったのだろうか。絶対に分かってないよな。



 トントン。


 またノック?

 …っ…ってことはもしかして今度こそは乃愛!?

 今度こそは期待できるのでは?


「入ってくれ~」


「お兄さん積極的ですね!じゃあ早速って楓花先輩じゃないですか。もしかして抜け駆けですか?」


 抜け駆けって何だ?

 文脈的に稲城が羽山に対して抜け駆けしたという意味だ。

 何をしたのだろうか。

 声色的に今この場で「抜け駆け」を稲城がしたということだろう。取り合えず聞いてみるか。


「ん?二人共競争でもしてるのか?抜け駆けとか言ってたし…」


「そ、そうなんですよ!私たち競争してるんですよ!ね?」


「…そうそう!競争してるの!さっきゲームの話してたじゃん?練習させてもらおうかなって…」


「あ、そういうことか。納得した。でももう夜だからやるとしても明日の早朝な。」


「才人君のケチ……良かった…セーフバレてない。」


「ふぅー…助かりました〜楓花先輩ありがとうです。」


 こいつ何で急に感謝してるんだよ。

 怖いんですけど。え?もしかしてやばいやつなのか?

 聞いてみない分には分からないし聞こうか。


「ん?何かありがとうって聞こえたけどどうかしたのか?」


「あ〜楓花先輩の抜け駆けを防いでくれてありとうございますって意味です。」


 納得した。何だそういう意味か。妙にしっくりきた。

 でもそんな大事な勝負って何をやっているのだろう?

 めちゃくちゃ気になるが、聞きすぎるのもよくないな。


「そういうことね。全然、別にいいよ。俺、夜からはゲームしないようにしてるからさ。こうなるのも普通なんだよ。でもお役に立てたようで何よりだ。」


「うわっ本当に鈍感だ(ですね)。」


 また少し引いたような反応をされた。

 今日でかれこれ3回目くらいだろうか。

 それでもやっぱりくるものがあるな。


 トントン。


 またかよ。

 …でも今度こそ乃愛だな!

 よしとびっきりのお兄ちゃんボイスで歓迎しよう。


「乃愛!入って来ていいよ!お兄ちゃん待ってるからな!」


「お兄ちゃんよく私だって分かったね。って二人共何してるの!?」


「なんかさっきゲームしたいって訪ねてきたんだよ。乃愛もよく俺の部屋にゲームをしに来るだろ?それとおなじしんりだよ。おそらくだけどな」


「お兄ちゃん?他の二人もそこで正座してくれる?」


 え?乃愛怒ってる?

 え?え?…まあ乃愛に怒られるくらいで仲良くできるならいいのか?

 楽観的な折れをよそに二人はとても怖い顔をしていた。

 何でだろう?

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