第35話 新たな勘違い。




 今日はそう、俺は疲れた。

 そしてーまだ家に残っている人がいる。

 あー辛い。


「お兄ちゃん。お〜い。あ、コレだめなやつじゃん。」


 今、乃愛の声が聞こえたような…

 気のせいか。

 今日はすぐ風呂入って寝よう。

 そのほうがいろいろ苦労しなくて良さそうだ。


「風呂入って来る〜」


「お兄ちゃん!?ちょっと今は駄目!」


「え?どういうことだよ。」


「「あ、」」


 その瞬間耳を疑うような絶叫が響いた。


 俺も思わず声を上げてしまいそうになったがグッと堪える。何とかして弁明を…

 いや、それは先じゃない。

 謝る前に言い訳を言うのはきっと逆効果だ。

 聞いてもらえるかも怪しい。

 乃愛の機嫌を損ねたときに一度経験がある。

 俺は同じ間違いを繰り返すような人間ではない。

 ちゃんと失敗から学べる普通の人間だ。


「申し訳ございませんでした!」


「えぇ……」


 嘘だろ?引かれたのか?何で?

 やっぱり土下座では足りなかっただろうか?


「お兄ちゃん?」


「申し訳ござ…」


「問答無用!」


「ぐふっ…」


 みぞおちは無理…


「さてと、ごめんね瑞穂。うちのバカ兄貴が覗いたりして…」


「まあ、わざとじゃなかったみたいですし…」


「何なに?どうしたの?何の騒ぎ〜?」


「そこのバカ兄貴と、瑞穂の格好を見たら分かる。」


「うわぁ、サイテー。で、えっと…乃愛ちゃん?口調怖くない?」


 すごいサラッと流された気がする。

 もう少し気遣ってくれるとかさ、そういうのないの?

 俺の扱いって堂川とかペディアとかの次に雑なんじゃないかって思えてきた。

 何かそう思うと悲しいんだけど。

 ただでさえ乃愛からの拳を受けてダウンしているのにこの状況…全て俺のうっかりのせいとはいえあんまりだ…


「バカ兄貴、地面に頭を付けて謝れ。」


「乃愛ちゃん…性格変わってません?流石にそこまでしなくても…」


「このバカ兄貴は学ばないから。絶対に同じことやらかすからこのくらい言っておかないと。」


「それでもお兄さんをバカ兄貴っていうのは言い過ぎなのでは…」


「羽村…優しい……」


「あ、今はお兄さんは黙っていてください。」


 酷くない?ねえ二人して酷くない?そりゃあ俺が悪いけどさ…

 でも、そんなに傷ついたってことか。

 それならできるだけ関わらないほうがいいのかも。

 とても悲しいが、仕方ないのかもしれない。

 そうしたらきっと羽村も安心だろうし乃愛も少しは機嫌が治るに違いない。

 それならば…


「ありゃりゃ、才人君が考え込んじゃったよ~どうすんの~?」


「放っておけば何とかなるよ。(なりますよ。)」


「二人共冷たいなぁ~…でもこれってチャンス!?」


「ちょっと待った。(待ってください。)」


「…二人共相変わらず仲良しだね。息ぴったり!…はぁ。」


「楓花先輩!抜け駆けは許しませんよ!」


「瑞穂~?それ、どういう意味?」


 …やっぱりこの場を離れる以外思いつかない。

 そうとなればすぐにでもこの場を離れよう。


「…えっと…俺、部屋に帰っていい?」


「え!?お兄ちゃん!?今の話聞いてた?」


「お兄ちゃん呼びに戻っててお兄ちゃん安心したよ~。」


「調子乗るなバカ兄貴。まだ許してないから。」


 まだ機嫌悪かったんだね。お兄ちゃん酷いことしちゃった…

 やっぱり離れたほうがいいよね。

 お兄ちゃんは乃愛の心が一番優先だ。


「…俺、、、もう部屋戻るな、、、」


「お兄さん!別に私は怒ってないですから。そこまで落ち込まないでください。」


 この子は優しいみたいだった。

 でも俺は知っている。

 ついさっき羽村が俺に優しくしたと思ったら軽く突き放されたことを。

 だから俺は勘違いしたりはしない。


 学んだんだ。

 女子の優しさはその女子から酷いことをされる前兆だということを。

 今この場で学んだ。

 だから俺は女子のやさしさとはそういう矛盾を含んだものだと理解できた。

 たまに常識でも知らないことがあるので、こういうのは自分も恥ずかしいが自分を反面教師にできる機会は珍しいので正直ありがたい。


 それによく母さんは言っていた。

 一度間違えるのは仕方ない。二度目以降絶対に間違えないようにするのが大事なのだ、と。

 だから俺は勘違いしないしそれで乃愛から友達を奪うような目には絶対に合わせない。


「いや、心配しなくて大丈夫だよ。ただ今はこれが最善ということだよ。」


「はあ、そうですか…」


 何故か呆れたような顔をされた。

 俺は間違えたのだろうか。

 もっと最善の解決策があったのか?

 今度じっくり考えてみるとするか。


「それじゃあな。今日は夕飯要らないから。」


「え!?じゃあ今晩どうするの?」


「適当に買っておいた菓子パンでも食っておくから。」


「そ、そういうことならいいけど…」


「俺もう戻っていい?」


「うん。いいよ。」


「え~一緒に食べましょうよ~!」


「それ言うなら服着てから言え。タオル姿で言われても説得力のかけらもないぞ。」


 そう言うと、羽村は急いで脱衣所のドアを閉めた。

 今更恥ずかしくなったのだろうか。

 遅すぎる気がする。


「お兄ちゃん、、、…サイテー」


 はっ!また乃愛がお兄ちゃんと言ってくれた!

 俺の行動は正解だったんだな。よかった~


「じゃあな。俺は帰るから。」


「私も部屋に戻るね~♪」


 何で稲城まで…まあいいか。

 早く部屋に戻ろ、、おっと階段でこけそうになった。

 危ない危ない。

 余計なことを考えてたらだめだな。


 …嫌な予感がする。

 って最近は俺の予感が当たることも少ないし、そこまで気にする必要もないか。

 

 そのまま俺は階段を駆け上がり自分の部屋に戻った。

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