第41話 会長の思惑




 結局俺は文化祭実行委員会をやることになった。

 理由はもう言わなくてもわかるだろう。


 ということで、俺は放課後になって集まりに来ている。


「という訳で皆さん、集まって頂きありがとうございます。」


 あのシスコンがいう言葉とは思えない。

 会長然としているのが逆に違和感がある。


「まずは概要について…」


 あ、さっき聞いたやつか。

 でも聞いたほうがいいよな。

 って、ん?会長俺を睨んでいる。

 まあ、昨日あんなにキツく言ったし、今朝も勧誘をこっ酷く断ったからだろう。

 だとしても大人げない。


 やめてくださいよ会長。

 そんなに睨まれたら話を聞くのに集中しようにも、集中できないですよ。やめて下さいって。

 

 …てか本当に聞けなかったじゃんか。

 まあ?中野さんから聞いていたならいいけどさ。


「それでは本題に入ります。今回の議題はスローガン案についてです。何か意見がある人はいませんか?」


 これ聞くだけ聞いて誰も案が出なかったら俺に聞く気だろ。

 思惑通りにさせるかよ。

 とりあえず、こっちから仕掛けるか。


 そう思ったが、その前にその場にいた二人がスローガンを挙げた。

 俺は言わなくても良さそうだ。そう思った。


「他に意見のある人はいませんか。毎年3つのスローガンから一つに投票するって決まっているのであと一人くらい挙げて欲しいのですが…」


 だよな。そんな気がした。

 だってあの会長だよ?暴走機関車な会長だよ?

 こんなことで諦めるわけないよな。昼休みの時にスローガン考えといてよかったわ。

 マジで中野さんに感謝だな。後でお礼をしないと。

 とりあえず当てられる前に言うか。


「はい。俺から一ついいですか。」


 会長が引きつった顔をしている。

 少しからかうのもありかもしれない。

 あれだけ迷惑を受けたんだ。少しくらいやり返してもいいだろう。


「これまでのスローガンって、どういうのだったんですか。それによって大分考えるスローガンって変わると思うのですが。」


 会長が少し安心したような顔をした。

 これは黒だな。


「一、二回だけ違う時もありましたが大体は毎年四字熟語ですね。」


 至極落ち着いた様子でこちらを挑発するような目を向けてくる。

 よく見ると口角が少し上がっている。

 どうせできないだろ?当ててやるからな。

 ってまるで言ってるような顔をしていた。

 本当にムカつく。

 こういう場で意見を出すのは普通じゃないのかもしれない。

 でもこれは意趣返しのために必要なことだ。

 そういう地味な嫌がらせはやめたほうが良いということを身を持って知らせなければならない。

 この妹のこととなると暴走する機関車にブレーキを教える必要がある。

 だから俺はここで攻めなきゃだめだ。

 そんな気がした。


「分かりましたありがとうございます。それなら『百花斉放』とかはどうですか?」


 会長の顔が強く引きつる。

 完璧イケメンな会長の顔が少し崩れていて、周りの役員も驚いているみたいだった。


「そ、それはどういう意味で?」


「意味合い的には百花繚乱です。ですが百花繚乱よりも百花斉放の方が全員が頑張っている感が出るじゃないですか。一斉の斉という文字が使われてるだけで大分雰囲気が変わりませんか?百花繚乱よりもおしゃれ加減は減るかもですけど、感触的にはこちらの方がいいかなと思い提案しました。」


 会長の顔がより引きつった。

 でもまだ考えがあるらしい。

 どうせサブタイトルでも聞こうと思っているのだろう。

 そんなの適当に考えても作れるっていうのに。


「ちなみにサブタイトルとかはありますか。」


 だろうな。

 俺は察しがいい方だから分かってた。

 …何かすごい変な風に思われた気がする。

 気のせいか。


「…個性の色を輝かせてとか、光らせようとかどうでしょうか。意味合い的にも似てるのでいいのではないかと思ったのですが…」


 会長の顔が破顔した。

 その時、一人が笑い出す声が聞こえた。

 クラス委員としてこの場に代表として出ているうちの一人、日野さんだ。

 会長のほうではない。

 その妹のほうだ。


 会長の顔がより壊れた。

 何か日野さんに対して訴えるような顔をしている。

 でもこれで今回の話し合いは終わりだ。


 残念だったな会長、思惑通りに行かなくて。

 まあ全て中野さんのおかげなんだけどな。

 帰りに何か奢るか。


「中野さん。今日の話し合いの予定教えてくれてありがとう。本当に助かったよ。」


「え!?あ、うん。別に全然大丈夫だよ。どうしたの?」


「いや本当に助かったからさ。何か奢ろっかなあって思って。駄目だった?」


「え?本当に!?」


 あ~あ。やっちゃった。

 普通にキモかったよな今の誘い文句。

 ただ単にお礼したかっただけなんだけどなあ。


「そんなに驚くことじゃないと思うけど。あ、もしかして嫌だったか?そりゃあ嫌だよな、男と二人っきりていうのも何か勘違いされそうだしな。」


「いえ!全然大丈夫!むしろ大歓迎だよ。…むしろ勘違いとかされるものならされたいから。」


 ん?まーた最後だけぶつぶつ言ってる。

 聞こえないんだけど。

 …まあいっか。


「私の手助けは要らなかったみたいだね。」


「もう!美亜ちゃん!」


 何を話しているんだろうか。

 そんなことはどうでもいいか。


「ほら行くぞ。早く行かないと暗くなっちゃうからな。」


「分かった。すぐ行く!」


 乃愛、今日も遅くなりそうだ。

 こんなお兄ちゃんでごめんなさい。

 でもお礼はしなければいけないんです。ごめんなさい。

 あ~乃愛に会いたいよ~…

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