第25.5話 前編 騒がしい勉強会の裏で (side-望友)




 第22話から第25話までの二人の視点です。

 前半が望友視点、後半が楓花視点です。

 前半、後半ともに三話分くらいの長さがあるので、もし読みたくなければ軽く読み飛ばしてください。



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_ side-望友 _


 天川君と放課後一緒に勉強会することになった。

 といっても、私は以前の高校で入試の点数がかなり高かったから勉強会をやるほど困ってはいないけど。

 

 好きな人に誘われて嬉しくない女子はきっといない。

 だから私はとても嬉しかった。

 何もかも変えてくれた彼と一緒に同じ空間で過ごせることが何より嬉しかった。


 でも、そんなうまく行くはずがなく、やっぱり障害があった。

 堂川君だ。

 少しは空気を読んで欲しいと思った。

 でもそれだけじゃなかった。

 私と天川君との親睦を深めようと思ったときに限って障害が増える。

 そう思っているとさらに障害が増えた。


 そう、稲城楓花さんって人だ。

 そういえば前に天川君にお弁当作ってきたって言ってたっけ?

 ライバルなのかも…絶対に負けられない。

 

 でもやっぱり昼休みの彼と一緒に過ごす時間を邪魔されたくない。

 咄嗟に私は稲城さんを睨んだ。


 気づいてないみたいだった。

 それなら天川君に、そう思った私は天川君を見つめた。


 そうしたら彼は気づいてくれたみたいで彼女の誘いを断ってくれた。

 本当に彼は優しい。

 その優しさにつけ込むみたいで少し悪いと思っちゃったけど、それでいいか。


 そう思ったけれど、稲城さんは全然彼の話を聞かなかった。

 むしろグイグイ彼に攻めていった。

 私にはそんなことはできない。

 羨ましいと思った。

 それ以上に嫉妬しちゃったけど。


 私が稲城さんに文句を言おうとしたそのとき、私の声よりも先に堂川君が天川君に文句を言い出した。


「…私と天川君の時間を邪魔しないでくださいっ!」


 言うタイミングを失った私はついに本音を漏らしてしまった。

 しかも結構きつい形になってしまった。

 普通の文句を言おうと思ってたのに最悪だよ…


「むしろ、中野さんがあたしと才人君の時間を邪魔してるような気がするんだけど?」


 稲城さんもかなり強く言い返してきた。

 とっさに私は言い返そうとした。


「二人とも…喧嘩するなら口聞かないから。」


「あのな。正直に言うが、俺が誰といようが自由じゃないか?そもそも二人とも、俺の自由を奪わないでくれ。」


 その時、天川君がドスの効いた声でそう伝えてきた。

 一瞬嫌われたかと思って胸が痛くなった。

 まあすぐにけんかを辞めさせるためだってことは分かったけど…

 …そのいい方はないんじゃないかな…さすがの私も傷つくよ…

 確かに私たちは天川君の自由を奪ってるかもしれないけどさ…

 そこまで言わなくていいじゃん。


「「…」」


「わお!お前すげぇな!女子を黙らせるとか最低かよw」


「うっさい。堂川は黙って。後その二人のうちの一人はお前だからな?」


「俺!?それもう一人は誰なんだよ?」


「稲城さんしかないだろ?部外者め。」


 すごく安心した。私じゃなくて良かった~

 そっか…私はそもそも天川君に誘われたから迷惑にはなってないよね?

 良かった。本当に…もし嫌われてたと思うと…考えたくもない。


「それじゃ中野さん、話そっか。」


 天川君が話しかけてきた。

 しかも誘ってくれた。

 でもそもそもそういう約束だったよね。

 何勘違いしそうになってるの私!

 彼は私のことを何とも思ってないんだ。

 ただ助けたクラスメイトくらいにしか思われていない。

 少しでも意識してもらえるように頑張らなくちゃ!


「うん!」

 

 私は元気いっぱいの返事を天川君に返した。


「で?話って何さ。」


 何故か稲城さんが聞いてきた。

 確かに稲城さんもこの場にいるけどさ…

 少しは空気を呼んでよ…

 もしかしたら敢えて邪魔をしているのかもしれない。

 それならここは堂々と答えよう。


「え?えっとね。先週の土曜日に助けてもらっちゃったってね。それでどうしてもそのこととか、それ以上のこととかを天川君とお話したいな〜って思っただけだよ。」


 少し恥ずかしい。

 クラスメイトの前では普通に話せてたけどよく考えたら本人の前で本人がいるって自覚しながら話すのは初めてだった。

 緊張して堂々と話せなかったのかもしれない。

 でも、ここで勇気を出さなきゃ負けた気がした。


「それ以上のことって?まさかエッチなこと…」


 稲城さんがからかってくる。


「そんなんじゃないから!」


 私は反射的に言い返した。

 実際そんなことは全然なかったから。

 でもこれだとやっぱりあったみたいな反応だったよね…

 私ミスっちゃった…


「それより、何でサラッと話に参加してんの稲城さんよ?」


「え?別によくない?」


「中野さんが困ってるじゃないか。」


 別に困ってるってわけではないけど、残念だっただけでそんなに迷惑かけられたわけでもないし…


「才人君、そんな細かいことばっかり言ってたら嫌われちゃうよ?」


「全然細かくないと思うが?それより早くどっか行ったらどうだ?」


「え?やだ。あたし中野さんと話したいもん。」


 え?どうして?

 まさかこの人も天川君のこと好きなのかな…


「さっきその当人を睨んでいたやつが言う言葉とは思えないな。また言い合いか?よしてくれ。面倒事はゴメンだ。」


「自分からもっと面倒なことに首を突っ込みまくっている人に言われても説得力ゼロだよ?」


 それはそうだと思う。

 面倒なことが嫌な人はきっと私を痴漢から助けたりしない。

 引かれそうになった私を自分の身の危険を冒してまで助けようとしたりはしない。

 彼は困っている人を放っておけない優しい人だ。

 きっとこれは照れ隠しだろう。

 天川君にも可愛いとことかあるんだ…

 意外だなぁでもそういう一面もありかも。


「あ゙ぁ?普通に当然なことをすることと面倒事に突っ込むことは別だろ?話そらすなよ。」


「あ〜そういう感じね。分かった。才人君ってそういえばすっごい鈍感だったね。」


 えっ?そうなの?

 だったら今までのアピールは気づかれていなかったのかな…


「どういう意味だよ。俺はむしろ敏感だぞ?」


「えっ?天川君って鈍感なの?私知らなかった…」


「それなら知っておいて良かったね。結構重要な情報だよ?」


「いや。鈍感じゃないだろ。こんな奴らの言葉に惑わされるんじゃないぞ。俺は極めて敏感なんだよ!洗顔料変えただけで顔にブツブツできるくらいにはな!」


 うん。これは相当鈍感みたい。

 少しは私を意識させないと!


「えっとその…転校初日のこと…覚えてます?」


「何のこと?」


「そっか…じゃあ痴漢から助けたことは…」


「何回かあるから記憶にないな。助けるというより、モラルを守らない乗客に鉄槌を下してるだけなんだけど。」


 そっか。

 残念だよ。私一応転校初日に好意を伝えてたはずなんだけどな…


「え!?ってことは痴漢から助けてくれた男の子って!?」


 ナイス!美亜ちゃん!というかさっきまで話にいなかったよね?

 いつ入ってきたの?まあいいや。ありがとう美亜ちゃん!


「…うん。天川君だよ//」


 言えた~!でも天川君はあの時の私の発言忘れてたみたい。

 というか多分聞いてないよね…

 少しの間だけど噂にもなったのにな~

 

「なんで犯罪扱いされなきゃいけないんだよ…クソっこうなったら…

ウガペディア〜今日放課後にこの席近い3人で勉強会やるんだけど良かったらお前らのグループもやらね?」


 …最悪だよ、どうして天川君とのせっかくの勉強会なのに宇川君まで来ちゃうの…

 あの人私にばっかり話しかけてくるから天川君と話せなくなっちゃうよ…


 とりあえずせっかくの昼休みだからいっぱい天川君と話そう!


__________________________


 放課後になった。

 案の定、クラスメイトが大勢勉強会に参加している。

 これじゃあ授業で何回かあった自習の時間とあまり変わらないよ…


「…あ~、ここうるさいくて教えられそうにないからさ、部室って勝手に使っていいよね?」


 天川君がそんなことを言い出した。

 え…天川君違うところで勉強するの?

 私が残った意味…

 そっか、稲城さんも行くんだ…

 私は…呼ばれないよね。


「いいよ!むしろ大歓迎!才人君あたし先行ってるね♪」


「ああ。すぐ行く。…だ、そうだぞ?堂川お前も来いよ?」


「余計なことを…クソがぁ~」


 私は無視か…


「あのバカは無理やり連れて行くとしてっと、中野さんは来る?」


 え?私呼んでもらえた…嬉しいっ


「えっ?いいの?良かったぁ~」


「良かったって…元々俺と中野さんで勉強会するって約束だったじゃないか?何を今更…」


「そそそ、そうだよね約束したもんね!」


 嬉しかった。

 でも思わず感極まってしまったみたい。


 今、天川君は堂川君にばっかり構っている。

 相手は男子生徒なのになぜか妬けてしまう。 

 私は稲城さんと一緒に先にその天川君の所属する部活の部室に行った。


__________________


「天川君と稲城さんって同じ部活なの?」


「ん?そだよ~一緒の部活だよ~。文芸部に入ってるんだ~」


「文芸部!?意外だね。稲城さんのことだから運動部入ってるとばっかり思ってた。」


「そう?運動部ってさ~部活の日が多すぎて面倒なんだよね~。そういう中野さん…いやみゆは?何の部活入ってんの?おしえてよ~…ダメ?」


 どうして稲城さんはこうも距離をすぐ詰められるんだろう。

 いきなり下の名前って…少し驚いちゃったじゃんか…

 でも見習わないと…


「下の名前…いっか。生徒会だよ。いつもはそこまで活動ないから結構気楽にやれるよ?」


「あれ?下の名前嫌だった?それならやめるけど…」


「全然大丈夫だよ。稲城さん。下の名前は?」


「え?あたし!?あたしはね楓花って言うんだよ?」


「楓花ちゃんね。分かった。よろしくね。」


「…うん!よろしく~」


「それでさ。もしかして楓花ちゃんって好きな人いる?」


 それは特に意識せずに放った言葉だった。


「え!?え!どうして…」


「なんとなくそんな気がしたから。」


 どうしてかは分からないけど私と同じようなものを持っていた気がした。

 だから自然とそんな気がした。

 根拠はなかった。

 でも確信だけはあった。


「うん。いるよ、好きな人。」


「そっか。ちなみにだれか聞いてもいい?」


「う~ん…秘密!おっとあんまり立ち話してると先に才人君たちが着いちゃうよ!急ごっ!」


「そうだね。」


______________



 「お待たせ~待った?」


 天川君が堂川君を抱っこで運んでいた。

 衝撃的だった。

 何度目かわからないけど私は堂川君を咄嗟に睨んだ。

 同じような目線を稲…楓花ちゃんもしていた。

 でもすぐに天川君をイジり始めた。


 そしたらすぐに天川君は堂川君に構い始めた。

 もう一度私たちは彼を睨んだ。

 本当にゴメン。


 それから普通の勉強会が始まった。

 少し普通じゃない点があるとするなら、堂川君が天川君にスパルタされていることくらい。

 それが少しだけ羨ましかった。


 途中、古典の課題をやっていて分からないところがあった。

 意味はわかるけど、どっちの意味に訳せばいいか分からなかった。

 あ、でもこれは天川君に聞くチャンスなんじゃ…

 でも大変そうだから、楓花ちゃんに聞こうかな。

 本当についてない…


「えっとこれどう訳せば…」


「あ〜これか〜。ちょっと待ってね〜ここは、文脈から判断してこの助動詞の意味は…」


「なるほど…確かにそれだと意味が通るね…ありがとう!」


「良いよ良いよ全然!」


 楓花ちゃんは優しいけど、少しくらいは私の意図を読み取ってほしかった。

 でも流石にそれは期待しすぎかな。

 言ってもないのにそんなことできるわけないもんね。


 そうしてしばらく経ったくらいに誰か女子生徒が入ってきた。

 部活の先輩らしい。

 その先輩は天川君にすごく近しい様子で馴れ合っていた。

 天川君は嫌がっていたようだけど、その先輩が羨ましく思えた。


 そう思っていたら耐えられなくなってくる。

 やっぱり天川君と話したい。

 

「あはは。ねぇ天川君、この問題教えて欲しいんだけどいい?」


 耐えられなくなった私はついに天川君を指名してわからなくて飛ばしていたところを質問した。


「えっとどれ?この…」


「これは…」


 彼の解説はとても丁寧で分かりやすかった。

 彼のやさしさがそこからにじみ出ているような気がした。

 天川君はそんなこととしか思っていないだろうなぁ。

 でも私にとっては彼の気遣いがとても嬉しかった。


「なるほど〜よく分かったよ。ありがと!」


 柄じゃない風に言ってしまった。

 でも感極まって言った結果だからそこまで後悔はなかった。

 天川君も大して気にしていないようだった。


 その後は天川君は堂川君に一日中勉強を教えていた。

 やっぱりずるいな堂川君。


__________________


 

 次の日も私たちは勉強会をしに文芸部の部室にきていた。

 とは言え何も進展はなくただ時間だけが過ぎていく。

 何かやったほうがいいのかな…


「ねぇねぇ!これどうやって解くの?全然わかんない!」


 楓花ちゃんがそう言った。

 ずるいなぁ。流石に私と同じように天川君を好きってわけじゃないと思うけど…

 でも無性にモヤモヤする。


「へぇ…稲城が分からないなんて珍しいな。この入学次席め。」


 聞きたくない。

 無視しよう。

 あんまり気にしすぎもよくないよね。

 勉強会なんだし勉強に集中しなくちゃ。


________________________


 やっぱり気になる。

 ついさっきまで無視してたけどもうそろそろ限界そう。


「照れてる?」


「照れてねーよ。ほらそこ間違えてるぞ。」


「ありがと。助かっちゃった♪」


 …すごく胸がぞわぞわした。

 すごくつらくなった。

 天川君があんな照れたような顔をするのを初めてみた。


「むぅ…」


「中野さん?どうしたの?機嫌急に悪くなったからさ。」


「何でもない。」


「本当に?」


「うん。」


「そっか…それならいいけど。」


 そんなわけないじゃん。全然大丈夫なんかじゃないよ…


「……………この鈍感。」


 本当にこの人は筋金入りの鈍感なんだね…

 うかうかなんてしてられない。

 彼のことだからまた知らない間に誰かを助けると思う。

 もしその人が彼に恋したとしたら…私が選ばれるビジョンが見えなかった。


 私はきっと怖いんだ。

 彼を誰かに取られるのも怖い。

 だからといって彼に告白するのもできない。

 もし断られたらって思ってしまうから。


 でもこのままじゃいけない気がする。

 告白できないまでも何か進まなきゃ。

 そうだ。下の名前。

 楓花ちゃんが言えてたなら私も気っといえるはず。


 その後の勉強会では彼に話しかける機会がなかった。

 休み時間にでも話しかけようと思ったけど、その時間すらも天川君は堂川君の特訓に充てていたので話しかける機会がなかった。


 やっぱり結依に相談しよう。


 その夜、結依に相談したらまだ下の名前も呼んでないの?って風に怒られた。

 いい加減私も頑張らないとね。

 そうしないと何のために前に覚悟を決めたのか分からなくなりそう。

 きっと私ならできる。

 親友の言葉を支えに私は一歩踏み出すことを決めた。


 あの時振り向いて見せると決めた。だから…

 天川君、いや才人君。

 きっと意識させてみせるから。




__________________




 次の話は楓花視点です。

 もしよければそちらも読んでいただけるとありがたいです。

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