第24話 勉強会


 はあ。

 不穏な昼休みが終わり

 そのまま午後の授業も何事もなく終わった。

 そして放課後の教室に俺、堂川、中野さんのメンバーで集まるはずだった。

 だが、まだみんなは帰り始めていない。


 どうしてこうなった。

 いや、マジで。

 他クラスを含むカースト最上位メンバーの中に一人だけ普通のやつがいても気まずいだけだろ…

 いやそれを言うなら、堂川も場違いだよな…

 俺、帰ろっかな…


 元はと言えば、全て堂川が悪い。

 事実、さっきから周りの奴らは勉強せず馬鹿話ばかりしている。


 このままでは思う存分に堂川をしごけないじゃないか。

 あと中野さんに勉強を教えるという当初の目標を達成することもできない。


 だから俺はここで一つ仕掛けることにした。

 きっと稲城さんなら乗ってくれるに違いない。


「…あ~、ここうるさいくて教えられそうにないからさ、部室って勝手に使っていいよね?」


「いいよ!むしろ大歓迎!才人君あたし先行ってるね♪」


「ああ。すぐ行く。…だ、そうだぞ?堂川お前も来いよ?」


「余計なことを…クソがぁ~」


「あのバカは無理やり連れて行くとしてっと、中野さんは来る?」


「えっ?いいの?良かったぁ~」


「良かったって…元々俺と中野さんで勉強会するって約束だったじゃないか?何を今更…」


「そそそ、そうだよね約束したもんね!」


 女子ってよくわかんないな。

 それより勉強だ。

 テスト勉強をさせるという役目を全うしなければ。


「とりあえず行くぞ。堂川お前寝たふりして済むって思ってる?無理矢理にでも連れてくからな。よし引っ張るか…」


「ちょい待ち!?さすがに歩く!歩くから!引っ張るのはやめてって!」


「それなら、最初から、歩け。」


「お前、最初から俺に歩かせるつもりだったんじゃ…」


「さて、どうだかな。ほら、さっさと歩け。中野さんにずっと立たせてちゃ悪いだろ。」


「は~ん…それでポイント稼ぎってか?お前ズルいぞ!」


「ほら、歩け。」


「いてて、引っ張るな!」


 無視だ、無視。

 反応するだけ無駄である。

 勉強する時間がなくなるからな。って言っても俺が勉強をするわけではないんだけどな。


「あ~嫌だ~……んんんんん」


 堂川の虚しい叫びが廊下に響きそうになったのですかさず堂川の口を抑えた、

 危ない、先生に捕まるところだった。

 とりあえず…いいこと思いついた。

 堂川の尊厳は壊れるがいいだろう。

 お姫様抱っこしてやればいい。

 ぷっ…あ~面白い。


 おっと。とりあえず持ち上げるか。


「おいっ、何をするつもりだよ…」


「大丈夫だ堂川、お前の尊厳が少し損なわれるだけだから。よいしょっと。」


「やめろおぉぉ~!!」


 ついでに走って急ぐか。



_______________________________________



「お待たせ~待った?」


 すぐ行くとは言ったけど少し時間がかかってしまった。

 堂川の勉強時間はともかく、中野さんには悪いな…


「なにそれwもしかしてデートか何かのつもり〜?」


「なんでそうなるんだよ。」


「デートの常套句じゃん!『お待たせ〜待った?』なんて本当にデートでくらいにしか使わないよw」


「そんなことないだろ。ほら勉強する。」


「あ〜話しそらした〜w」


 俺は軽く稲城さんを睨んだ。

 当然であろう。

 言い返さなかっただけマシだと思ってほしいほどである。


「取り合えず堂川〜?楽しみだな〜?」


「ギィャァ〜!」


_______


 しばらく時間が経ったは良いものの、まだ堂川以外に教える機会がない。

 別にいいことなんだろうけどさ。

 なんか本来の意味を見失ってしまう気がする。


 元々中野さんとやるはずだった勉強会だったが、教えようとしてもすぐに稲城さんが代わりに教えだすから基本的に稲城さんに中野さんを放任する形になっている。


 というか稲城さんって頭いいんだな…

 やっぱり見た目に似合わず、高校デビューだからだとか?

 本人に言ったら怒られそうだ。


「えっとこれどう訳せば…」


「あ〜これか〜。ちょっと待ってね〜ここは、文脈から判断してこの助動詞の意味は…」


「なるほど…確かにそれだと意味が通るね…ありがとう!」


「良いよ良いよ全然!」


 噂をすればである。

 教えに入ろうとしてもこうなる。

 二人が隣同士だからだろうか。

 それはそうだろうが、多分親睦を深めるっていう意味で喜んで返事をしたのだろう。

 要は2つの意味で本末転倒である。


 そこに思わぬ形で爆弾が投下される。


「お〜うちに内緒で部室使ってデート?お〜お熱いですな〜」


「先輩、そんなんじゃないんで。勘違いするのはやめていただきたいです。」


 高坂先輩である。なんでここにいるんだよ。

 テスト期間だろ?

 もしかして先輩も勉強をしに…


 真面目〜俺は勉強会とかいう名目がなければ勉強とかできないからな…

 まあそれなりに普通の成績は取れる自信はあるので、しようと思わないのもしょうがないだろう。

 まだ高校一年生なんだから。

 

「…勉強しに来たわけではないよ?」


「なんでわかったんですか。心読めるんですか。こわいです。」


 ゾワッとした。この人はエスパーなのだろうか、いやメンタリストの方が近しいか…


「うちも混ぜてよ〜」


「勉強しに来たわけじゃないんですよね?邪魔しないで下さ…」


「誰だか知らないけどサンキュー!!!!」


「堂川…?分かってるよな?先生に掛け合って両親に電話で伝えてもらおうか?授業中寝てばっかりなこと。」


「それは横暴だぞ!」


「大丈夫だ。どっちみち保護者懇談会で言うつもりらしいぞ?それが早まるだけ、違うか?」


「うっ…」


 こいつ本当に言い合いに弱いな。

 自分でやってて可哀想になってきたぞ。


「あはは。ねぇ天川君、この問題教えて欲しいんだけどいい?」


「えっとどれ?この…」


「これは…」


「なるほど〜よく分かったよ。ありがと!」


「微笑ましいですなぁ…」


 高坂先輩がなにか言ったような気がする。

 気のせいかな。

 それよりも堂川が逃げようとしている。

 絶対に逃がしてなるものか。


「おい堂川、学校閉まるまでは逃げられないからな?」


 それから堂川の悲鳴が響き、学校中の噂になったことは言うまでもない。


 とにかく、初日の勉強会はまずまずな形でスタートを切ったのだった。

 本当に大丈夫かこれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る