第22話 修羅場再び
午前の授業が終わり、昼休みになった。
今日は乃愛が弁当を作ってくれていたのでとても楽しみである。
俺に渡すときにブツブツ言っていたがきっとお兄ちゃんをねぎらう言葉だろう。
なんて優しい妹だろう。
「お弁当なんて珍しっ。お前もしかして弁当男子?」
違う。
この弁当はな、俺の可愛い最強天使な妹である乃愛ちゃんが作ってくれた至高の弁当なのだ!
…危ない。そのまま言いそうになった。
前回映画を見に行ったときにせっかく学んだのにやらかすところだった。
これを人前で言うのは普通の人ではなく、単なる異常者であると。
「妹が作ってくれたんだよ。羨ましいだろ?」
「…っバルス!」
「負け惜しみか?妹がいないと分からない幸せだもんな。な?」
「えっと…もしかしてこれから毎日弁当…とか?」
「ん?違う。今日がたまたまなんじゃないか?」
「ふぅ。そっか。そうだよね…よしっ」
え?よしっ?何に喜んでるんだろうか?
今の俺の言葉のどこに喜ぶ要素があったのかが分からない。
勢いよく扉が開く。
どこかで見たことある光景だ。
「頼も〜!天川才人君はいるか〜?」
既視感。圧倒的な既視感。
一語一句全て同じだった気がする。
俺の気のせいかな。
「あ、いたいた!ほら、部室行こ?」
だから既視感がすごい。
多分このあと引っ張ってでも部室に行かされるんだろうな…
でも今日は弁当を持ってきているから相手の弁当は断れる。
特に稲城さんは俺が妹にぞっこんであることを知っているはずなので諦めてくれるだろう。
「あ、今日俺、乃愛に弁当作ってもらったから稲城さんのは無理だぞ。」
「え?知ってるよ?それがどうしたの?」
なぜ知っている?怖っ。
稲城さん、何で俺のプライベート知ってるんだよ。
ただ単に恐怖だわ。
「参考までに聞いておくけど、どうしてそのことを知ってんの?俺伝えてないよね?」
「普通に妹ちゃんからライムで教えてもらっただけだけど。」
いつの間に…
でもそれなら納得だ。
「それで?どうして部室にいかなきゃいけないのさ。俺嫌なんだけど。」
休憩中は課題をやりたい。
できるだけ家で課題はやりたくない。
だから学校でやっておく必要があるのだ。
要は俺は家庭学習が苦手なのである。
それこそ学生の本分である勉強が数分も持たないほどしかできないのだ。
「え〜行こうよ〜ね?良いでしょ?それとも行ってくれないの…」
それ禁止。
目をうるうるさせてこられたら俺何も言えなくなるじゃんか。
「……っ…」
中野さん!?え?あ、そっかずっと移動教室で休み時間話せなかったもんな…
話す約束してたのにって落ち込んでるのか…
稲城、どうやら今はお前に付き合えないみたいだ
「ごめんな。中野さんと一緒に食べる約束してるから無理だわ。また今度な。」
「ふぅ。」
中野さんはどうやら安心したらしい。
本当にわかりやすいな。
「そっか…残念。それならあたしもここで食べる!」
は?
「いやいや、ここにいられると少し邪魔なんだけど。」
「そういうこと言っちゃだめなんだよ?本当にそんなことばかり言っていたら彼女できないよ?」
いや、別にそんな仲良くないし。
別に彼女いらないし。
そりゃあさ、彼女欲しいなら控えたほうがいいかもしれないよ?
でも俺いらないし。
だって乃愛がいるから。
正直乃愛以上に可愛くない限りは付き合おうとは思えない。
「はあ。俺、中野さんと話すって約束してんの。そこに君がいたら絶対に話をそらしてくるだろ?ほら邪魔だ。」
「う…言い返せない……でもあたしは無理やりにでもここで食べさせてもらうからね!」
「お前っ!ズルいぞ!」
「堂川、お前は稲城さんとでも食っとけ。」
「それは酷くないかな?あたしは天川君と一緒に食べたいんだけど。」
中野さんじーっと稲城さんを睨んでいる。
なぜだろう。
あ、稲城さんも睨み返した…
…既視感あるなこれ。
いつだっけ?…あ〜確か映画館のときか。
あのときは乃愛と稲城さんだったけど、二人とも怖い形相で睨み合っていたなぁ…
「…私と天川君の時間を邪魔しないでくださいっ!」
へ〜楽しみにしてたんだ〜
なんか恐れ多いな。
でもどこか目が変なような…
気のせいかな。
そんな特異な事が起きるはずがないだろう。
だって俺は普通なのだから。
と思ったんだけど…
「むしろ、中野さんがあたしと才人君の時間を邪魔してるような気がするんだけど?」
「…それはあなただって」
これも覚えがある。
映画の後トイレから戻ってきた状況に近い。
手遅れになる前に止めなくては。
「二人とも…喧嘩するなら口聞かないから。」
それなら俺が修羅場を作ればいい。
このままじゃ俺が責められる側になる展開だ。
そうなるくらいなら、俺が責める側に先んじてやろうじゃないか。
「あのな。正直に言うが、俺が誰といようが自由じゃないか?そもそも二人とも、俺の自由を奪わないでくれ。」
「「…」」
「わお!お前すげぇな!女子を黙らせるとか最低かよw」
「うっさい。堂川は黙って。後その二人のうちの一人はお前だからな?」
「俺!?文脈的にあの女子二人だよな普通は!?それもう一人は誰なんだよ?」
「稲城さんしかないだろ?部外者め。」
はあ。すっかり本題からズレてしまった。
課題やりながら話聞こうって思ってたのに。
予定が狂いすぎだ。
そろそろ元の筋に戻さないと。
「それじゃ中野さん、話そっか。」
「うん!」
中野さんは元気よく返事をした。
それとは逆に稲城さんは俺を呪うような目で睨んでいた。
え?何で?俺普通だよね?
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