第21話 阿鼻叫喚のテスト期間




 中野さんの笑顔を見てボーっとしていると先生が入ってきた。

 いつもより重い空気が辺りを漂い始めた。

 宇川はともかく、それ以外の全員が何か嫌な予感を感じているのかもしれない。

 それとは逆に宇川はなぜか楽しみでウキウキが止まらないって感じだ。

 

 俺はといえば特にいつもと変わらない。

 つまり普通だ。


「はい、日直。号令をお願いします。」


 あ~今日は俺が日直じゃんか。

 めんどくさいな。

 ふと隣を見ると中野さんの奥にニヤニヤして笑っている堂川がいた。

 うん。これは俺が笑われてるな。

 いやもしかしたら中野さんを見てにやけているだけかもしれない。

 というかその可能性のほうが高いかもしれない。

 俺…堂川の友達止めよっかなあ。


「起立、気をつけ、礼。」


『お願いします。』


「着席。」


 やはりみんな雰囲気が暗い。

 なぜだろうか。

 点呼の時の元気がない。

 いつも大声でふざけている男子たちまでも少し声量が落ちている。


「え~っと、今から中間テストの範囲を配るから。配布係は手伝ってください。」


 うん。みんなが暗かった原因はこれか。

 確かに嫌だもんな、テスト課題。

 多いし、いつもやってない教科もあるから面倒くさいもんな。

 それに置き勉してる教科書とかを持ち帰ったりするのは大変だし。

 テストの時に出席番号順に並びなおすの地味に面倒だし。

 面倒なことしかないもんな…


 強いていいことがあるとするならば吹奏楽部を除いた文化部はテスト期間中には部活がなくなるってことくらいか。

 そんなくらいじゃ全然等価交換になっていない。

 つまりテスト期間はクソがつくほど面倒くさい。

 事実今この場で「嫌だ~!!」みたいな語彙力皆無の愚痴を叫んでいる男子が数人いる。

 ホント、同士がいてくれてよかったよ…


 閑話休題。


「天川君っ!テスト範囲広いね。大丈夫そう?」


 急に距離が近いなこいつ。

 何なの?距離感バグってるの?

 …そういえばうちのクラスのみんなもこんな感じで距離感バグってるんだった。忘れてた。

 とにかく何か返事しよう。


「大体はそれなりにできると思う。課題全部やれば平均点(本人目線)は取れるでしょ。だからまあまあって感じ。」

 

 学校のテストだし。

 模試じゃないし。

 だから平均点をとれればいいと考える俺はズレているだろうか?

 いやズレていないはず。

 好きで勉強できる奴は少ないからな。いわゆる少数派だ。

 俺は至って普通の人間なので、普通の点数(本人目線)が取れればいいのだ。


「もったいないと思うな。勉強して上の順位とったほうが良いに決まってるから。」


「そんなことないない。平均点(本人目線)が取れればいいから。」


「そう?…もしよかったら勉強教えてくれないかな?」


「別にいいけど。てか勉強教えてもらいたいならペディ…宇川に頼めばいいじゃん。あいつ入試満点でこの学校入ってきた天才だぞ?絶対に宇川の方がいいと思うけど…」


「あはは…宇川君はちょっと……」


 ペディア、ドンマイ。確かにあの勘違い野郎には頼まない方がいいだろう。

 それが安全策、つまり普通だろう。


「それならいいよ。放課後に教室残って教えるから。それでいい?」


「うん!ありがとう。」


「あ~ま~か~わ~勉強教えてくれぇ~!!!!」


 堂川、うっさい。

 もうちょっと普通にしゃべれるだろ、全く。


「急に叫ぶなよ堂川。鼓膜破れるだろ。」


「そんなことより教えてくれよおぉ~!」


「分かった、分かったから。というかペディアに頼めばいいじゃないか。何で俺なんだ?」


「ウガペディアは勉強のことになるといけ好かないからな。正直無理。」


 急に声のトーン下げて言うじゃん。

 そこまでいけ好かないのかよあいつ…ペディアに勉強のこと聞くのやめよ。


「オッケー分かった。男に二言はないぞ?」


「ああ!頼んだ!天川!」


 この暑苦しい奴は無視してっと。


「あ~中野さん?堂川も一緒にやることになったけどそれでもいいかな?」


「…い、良いですよ!ぜ、全然大丈夫です!」


 何で急に敬語でしゃべったんだろう…心なしか少ししょんぼりしてるような気もする。

 …あ、そうか。

 中野さんはおそらく堂川と一緒に勉強したくないんだな。

 それもそっか、この下心満載な男子とは一緒にいたくないよな。

 俺は女子になったことないからそういうことはよく分からないけど、たぶんその考え方であってるだろう。

 乃愛もそういうこと言ってたし間違いないはずだ。


「それじゃあ、今日の放課後から徹底的にやるぞ。特に堂川、お前は赤点候補だろ?みっちり扱くから覚悟してろよ?」


「え?何か悪寒が…やっぱりやめよっかな〜」


「おい堂川。男に二言はだよな?逃げるなよ?」


「…ウガペディアに頼めば良かった、、、」


 今更後悔しても遅いぞ。

 俺が勉強で扱かないのは乃愛だけだからな。

 それ以外は中野さんだろうが誰だろうが扱く。

 俺に頼んだんだ。覚悟はできてるはずだ。


「ん?僕のこと呼んだ?」


「お前はお呼びじゃねーんだよ!!」


 なんか今の悪役のセリフっぽかったな。

 例えば主人公に惨敗するモブっぽいやつが言ってたりするやつ。


 つまり俺はモブだ。

 気づかないうちにモブになれていたらしい。

 これはなかなかの進歩だ。


 あとペディア、すまん。

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