第19話 嵐の後の平穏
どうして中野さんは俺の顔を見て叫んだんだろう。
流石に失礼だよ。
俺は大丈夫だけど他の人なら今のは怒っていただろう。
もっとも、それを口に出すかは別だけど。
だって普通そんなことされても他人には怒らないし、注意だってしないだろ?
おっと。中野さんが何か言ってたみたいだ。
「え?何て言いました?」
失礼かもしれないが聞き直そう。
聞こえてないのに聞こえてた振りするよりはマシだろう。
「あの〜本当にそうなんですか?」
主語がない。せめて人に聞かせるのなら主述はちゃんとしてほしい。
そうなんですかって指示語だけじゃ何言ってるのかわからないしな。
ていうか中野さんってこんなキャラじゃないしな…
もうちょっとはっきり物事をいうタイプだったよな?
やっぱり今日の一件で気が動転してるんだな。
いやそうに違いない。
むしろそれ以外にあり得ないだろう。
「え?本当にって?どういう意味ですか?」
「あの〜本当に天川君なんですか?」
「ええ。そうですよ。隣の席の天川で合ってます。」
「え!?本当にですか!?すいません全然気づきませんでした…」
「気づかなかったのならしょうがないですよ。誰だって気づかないことくらいありますから、気にしないでください。」
俺だって乃愛と稲城さんの件について気づかなかったし、最後まで喧嘩?の原因に未だに気づいていないのだから。
それになんだったら、中野さんがあの時の痴漢されてた女子ってことにも気付かなかった。
そんな俺が気付けって言うほうがおかしい。
だって自分ができないことを相手に求めるのは道理がなってないしな。
「あの!本当にありがとうございました。」
「感謝の言葉ならさっき聞きましたよ。もう十分気持ちは伝わりましたのでもう大丈夫です。」
「これは違うんです。あなたのおかげで…天川君のおかげで学校生活に自信を持つことができましたし、それに…」
「…お兄ちゃん?その、女性は?」
天使!乃愛がお兄ちゃんを迎えに来てくれた!あ〜最高!
でも乃愛~人の話を遮るのはよくないぞ。
あまりそういう人は好かれないからな~
今度から気をつけような?
「あ、もしかして妹さんですか?あの私は…」
「お兄ちゃんが助けた女性であってる?」
わかってるなら聞かないでくれ乃愛。
中野さんが困ってるじゃないか。
でも、お兄ちゃん許しちゃう。乃愛可愛いもんね。
「ああ。合ってる。それで俺もう帰れるのか?」
「うん。そうだよ。それじゃあ帰る?」
「あ~そうしよっかな。今日って俺料理当番だろ?だから早く帰ったほうがいいじゃないか。だから俺は今すぐにでも帰る。」
「…ふぅ。変に進展し…なくてよかっ…た。それじゃあ一緒に帰ろ♪お兄ちゃん!」
ん?今何か言ってたか?まあそんな訳ないよな。
乃愛がそんなこと言うはずがない。
気のせいだよな。
「あの!少し待ってください!まだお話ししたいことが…」
「本当にすいませんね。俺今からやらなきゃいけないことがあるんで。また学校で話しましょう。学校でならいくらでも付き合いますから。」
乃愛がすごい目でこっちを見てきていた。
中野さんには申し訳ないが、乃愛の機嫌を損ねるわけにはいかない。
ただ無視されるだけでも精神的にくるものがあるのに、そこに説教まで入ってきたら地獄だろう。
本当にこれだけは仕方ない。
「えっ……やっぱり…私…あはは…」
中野さんが軽くショックを受けたような表情をしていた。
う~ん…やっぱり弁明ぐらいはしておくか。
変に勘違いされて気まずい空気になるのもつらいしな。
「中野さん、本当にすいません。でも早く夕飯作らないと俺3時間ほど母さんに説教されてしまうのでそれは避けたいんです。月曜日またお話しましょう。俺楽しみにしてますから。」
「ふぅ…それならお願いしますね?」
「はい。また来週の月曜日に。」
「はいっ!次の月曜日に!………えへへ。」
なんか意味深だったな…
まあ特に意味なんてないんだろうけど。
意味があったところで大したことはないだろう。
普通の俺がそんなたいそう感謝されるとか絶対にあり得ないもんな。(本人目線)
ただの社交辞令の一環だろう。
平々凡々な俺にあそこまでしっかりと気を遣ってくれるなんて本当に中野さんって優しいんだな。
「お兄ちゃん?ほら早く行くよ。」
「乃愛!?どうしてそんな不機嫌なの!?ねえ!?お兄ちゃん何かしちゃった?ごめん、ごめんって謝るから~許して~」
「ふんっ。お兄ちゃんの馬鹿。鈍感。…この女たらし。」
え?俺今乃愛に拒絶された…?
あ~もうダメだ。何のやる気も起きない。
もう動く気力すら起きない。俺は空気だ。
何もかもすっからかんな空気だ。はあ。
「お兄ちゃん!?ごめん。ごめん~」
乃愛!?俺のことを拒絶してたんじゃ…そっかぁそうだよな!乃愛がお兄ちゃんのこと拒絶するなんてあり得ないもんな!
「…行くぞ!乃愛!今日の夕飯は乃愛の好きなグラタンだぞ!楽しみにしててな!」
「う、うん。……」
思ったよりテンション低いな。
お兄ちゃんしょんぼりだよ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます