第7話 入部




 昨日学校を休んでしまった。

 どうやら今日は小テストがあるらしい。

 え?なにそれ聞いてない。


「残念だったな!天川!小テストだって知らなかっただろ?」


「ホントだよ!ってかなんでクラスライムにも送られてこないんだよ!」


「それは僕のせいだ!そのほうが面白そうって提案したらクラス一同賛成してくれたからね。」


「ウガペディア…お前の差し金か…コノヤローこんなのいじめだぞ!」


 彼は宇川うがわ 太一たいち

 見た目はどう見てもラノベとかだと陰キャオタクだが侮ってはいけない。

 彼はその見た目ながら陽キャグループに属している。

 見た目通りの頭脳明晰さからみんなから”ウガペディア”と呼ばれて親しまれている。

 少なくとも俺みたいな日和見グループの人間とは大違いなクラスのお調子者だ。


「ごめんごめんって、謝るからさ~」


「あ?それは俺が小テストで赤点取って、放課後残れってことですか?あん?」


「逆にそれ以外なくない?」


「お前マジで…廊下出ろ」


「暴力はんたーい、暴力はんたーい。」


「本当に、おふざけは大概に、しろよ!~俺に実害が出るのはマジで無理だから!」


 ムカつく。マジでどうしてくれようかと思ったが、俺の普通であることを強制するストッパーがとっさに俺の気持ちを鎮めた。

 でもやっぱり本当に勘弁して欲しい。これ以上イレギュラーは対処しきれない。


 結局、小テストは意味わからなかったし。ふざけるな。


 放課後、残って再テストを受けさせられたのは言うまでもないだろう。

 それにしても当日に再テストってなかなかきつくないか?やっぱり私立と公立では違うのだろうか。

 はあ。今日まで仮入部で、今日から正式入部だって言うのに印象最悪じゃないか。

 俺はそう思いながら文芸部の部室に向かった。


「すみません…遅れました、、一年E組、天川 才人です。」


「おー待ってたよ~。もしかして入部してくれないのかと思っちゃったよ。うち、ちょっと心配でさ~」


「さすがに冷やかしで仮入部はしませんよ…高坂先輩。」


 三年の高坂先輩。文芸部の創設者であり、現部長。

 少し色の淡い茶髪にメイクでさらに整った顔、初めて見た時はギャルかなんかだと思った。

 というか今も思っている。


 それにしても初めは驚いたもんだ。

 こんな人が文芸部なんて地味な部活に入っていて、それだけならともかく部長だったなんて。

 ウガペディア然り、本当に人は見かけによらないものである。


 話を戻すが、俺が文芸部に入ったのはできるだけ穏やかで目立たなそうな部活を探していた時にこれだ!と思ったからである。

 帰宅部も考えたがやはり健全な高校生として、何か部活に入るべきだと考えた俺は文芸部に入ることにした。

 それに何より、活動内容が簡単だったし、週二回しか部活がないのもいい。

 だからこそこの部活は俺にぴったりだったのである。


 閑話休題。


「そうなんだ~へ~もしかしてうち狙い?もしかして好きになっちゃった?」


 なんだこの先輩。いつも思っていたが自意識過剰ではないだろうか。

 ここは一般的な考え(本人目線)というものを身につけてもらわなくては。


「先輩…すみません俺高坂先輩のこと全然好きじゃないです。むしろ苦手というか…とにかく全員が全員先輩のこと好きだとか思わないほうがいいですよ。」


「そこまでガチで言わなくてもいいじゃん…うち傷つくな~」


「思ってもないこと言わないでください、後入り口で立ち話するのは迷惑なので早く入らせてください。」


「もう!後輩君はつれないな~!」


 いちいち抑揚つけて話さないで欲しい。

 今の小テスト受けたばかりで下がりきったテンションには正直合わない。

 普通こういう時は相手にテンションを合わせるか、正直な態度を貫くかのどっちかだろう。

 なら今の俺にとって選択肢は一つしかない。

 疲れないほう最優先だ。

 こう見えて俺は合理的思考も持ち合わせている。いつもはそれが働かないだけだ。


 そのまま部室に入るととっても騒がしい雰囲気になった。

 それにしても男子部員が少ないようだ。

 ここにいる部員は合わせて24人、その中で男子は俺を含めたたった6人。

 あまりにも少ない気がしながら部室の奥へ行った。


 奥に入るとたった一人、少し離れた場所で女子生徒が静かに本を読んでいた。

 一応挨拶くらいはしておいた方がいいか。

 どうせ後から自己紹介するからしなくてもいい気はするが。

 それでもそれが普通(本人目線)である。


「こんにちは。初めましてですね。俺は…」


「さっき聞いていましたよ。E組の天川 才人さんですよね。私は稲城いなぎ 楓花ふうかです。」


「あ、聞いてたんですか。そうですね。一応これから同じ部活になるのでよろしくお願いしますね、稲城さん。」


「はい。よろしくお願いします。」


 少々ぎこちなかっただろうか。

 やっぱり急に話しかけたからナンパだと思ったのだろうか。

 もしそれで不快にさせてしまったのなら謝らなくては。


「あのすいません、急に話しかけてしまって。全然下心とかないので安心してください。本当に不快に思ったのならもう二度と関わらないようにしますので…って、え?」


 そうすると急に彼女は壁の方を向いて体をびくびくさせ始めた。

 どうしたのだろうか、気になって覗いてみると彼女はクールさに似つかない顔で思いっきり笑っていた。

 え?俺なんかおかしいことしちゃった?

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