描きくわえられた絵

緋色ザキ

高校時代の一幕

 それは高校一年生の頃。


 クラスで二人しかいなかった美術選択のその片割れであった私は、友達のライトノベルを借りてキャラクターの絵を描くことを生業としていた。


 特段うまいわけでもなかったが、友達はそんな私の絵を褒めてくれたので休み時間のときなどにいろいろなキャラクターを描いたものだった。


 そんなある日。


 その日は女の子のキャラクターを描いていた。バストアップ写真のように、上半身を描き終えたところで、一段落した。


 すると、クラスメイトが三人ほど集まってきた。


 SとRとKである。彼らはその絵を眺めていたが、ふとなにを思ったのか、RとKがその絵を持って行ってしまった。


 その後、授業開始の鐘が鳴ったため、とくに彼らに絵の所在を聞くことなく、一時間目を過ごした。


 授業が終了したあとの休み時間。


 ふと、RとKの楽しそうな声が聞こえた。


 彼らは僕が描いた絵を持ち、なにやら黒板の前で下卑た笑いを浮かべていた。


 一体どうしたのだと思って観察していると、黒板の右端に絵を貼った。


 僕はぎょっとして黒板に向かおうとしたが、そのときチャイムが鳴った。


 先生もすぐに来てしまったため、諦めて授業に臨むことにした。黒板を板書しながら、絵をまじまじ見てみると、どうやらなにか描き加えられているようだった。しかし、視力のあまりよくなかった僕は、細部までは見えなかった。


 授業が終わるとすぐ、黒板の前へと足を運ぶ。そして驚愕する。その絵には胸や陰部が描き加えられていた。そんな絵がずっと黒板に貼られ続けており、先生も気づかなかったのだ。


「それ、剥がすなよ」


 いつの間にか僕のそばまで来ていたRとKがそんな言葉を発する。僕はどうしたものか迷ったが、面白そうだったのでそのままにしておくことにした。


 それから三時間目、四時間目と過ぎていったがとくに授業を行った先生たちはその絵に気づくことなく、なんだか不思議な時間が過ぎていった。


 そして、お昼休みを挟み午後の授業もなんの問題もなく過ぎていった、かのように見えた。


 授業やホームルームが終わったあとの掃除の時間。


 担任のO先生が黒板の右端へ足を運ぶと、絵を剥がし、まじまじと見つめた。


 その足取りは明らかにそこに異分子があることを察知したような動きだった。どうやら、授業をした先生の誰かが気づいていて、O先生に密告したようだった。


 まずい、と本能が察した。あの絵の半分を描いたのは僕だ。卑猥な部分はRとKの合作だが、しかし一因は僕にある。


 見ればRとKも目を合わせ、そわそわし出した。O先生はゆっくりとこちらに足を運び、そして口を開いた。


「S君。職員室でお話ししようか」


「えっ」


 Sの口から間抜けな声が漏れた。まさか自分が呼ばれるとは思ってもいなかったのだろう。


「いや、それは俺じゃなくて……」

 

「言い訳は職員室で聞くから」


 そのままO先生はSを職員室へ連行していってしまった。


 二人の後ろ姿を見ながらしばし呆然としていたが、しばらくすると笑いがこみ上げてきた。僕はお腹を抱えて思わず大爆笑してしまった。そんなことってあるのだろうか。涙まで出てきた。


 数十分後、Sは教室に戻ってきた。顔はとてもげんなりしていた。


「どうだった?」


「俺がやってないって言ったのに聞いてもらえなかった。それで、男の子ならそういうことをやりたくなる気持ちも分かるけど、ってなんか同情されて……」


 その話を聞いて、僕はまた再び笑ってしまったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

描きくわえられた絵 緋色ザキ @tennensui241

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ