盲目の恋
ケロ王
KAC20243 盲目の恋
僕には好きな人がいる。
それは目の前にいる彼女、鈴木花子である。
僕の瞳には、彼女以外の何者も映らないほどに情熱的に恋をしていた。
彼女の方も満更ではないようで、僕が微笑みを向けると、ほんのりと頬を染めて微笑んでくれる。
彼女に、この想いを伝えたいと考えたことは二度や三度ではなかった。
しかし、恋愛というものに臆病になっていた僕は、いまだに彼女に想いを伝えることができていなかった。
「好きです」というシンプルな想いを伝える言葉、しかし、僕が彼女の前に立つと、そのシンプルな言葉すら口に出すことができなかった。
もちろん、彼女も僕のことを少なからず好いていてくれているのはわかる。
だが、それでも僕が彼女に想いを伝えるには何かの『きっかけ』が必要であった。
きっかけなんて些細なこと、日常でいくらでもあると思うのかもしれない。
しかし、今の僕にとって、きっかけとなるような達成感を与えるものは何一つないのである。
誰かと競って勝つことをきっかけにしたくても、僕の相手になるような人間はいないし、僕以外に何かを成し遂げても喜んでくれるような人間もいない。
そこまで考えて、僕はハッとした。
僕が考えていたきっかけは結局のところ、『逃げ』に過ぎないのだと。
僕が彼女に告白して断られたときに、それでも何かしら頑張ったという言い訳にしたいだけの『きっかけ』に過ぎないのだと。
己の弱さを認識した僕は、覚悟を決めて、彼女の前に立った。
彼女の方も、今日の僕が一味違う雰囲気であることを感じ取っているのか、普段より表情が固くなっていた。
僕は彼女の目を見て、目をそらさずに告げる。
「鈴木花子さん。好きです。僕と付き合ってください」
言い切った僕は、祈るように彼女の表情を伺う。
彼女は悲しそうにも嬉しそうにも見える表情で、僕に微笑みかけると、顔を近づけて僕の唇と彼女の唇をそっと合わせた。
「ふふっ、もちろんOKよ。断る理由もないしね」
そう言って、はにかむように微笑んだ。
そして、その後に彼女の言った言葉に、僕は忘れていた現実を思い知らされることになった。
「だって、あなたしかいないじゃない。ここは私とあなたしかいない箱庭なんだから」
そう、ここは1㎞四方しかない箱庭。
そして僕たちは、その中で飼われている哀れな人間でしかないのだ。
盲目の恋 ケロ王 @naonaox1126
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