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 少女はただ走る。

 暗い闇が支配する森をかける。 


「だ……か。だれ……か」


 月明かりに照らされた少女の影だけが動く。

 乱れた呼吸音。草木の揺れる音。

 華奢な身体、短く整えられた白髪に闇夜に浮かぶ紅い瞳。

 その美しい白い肌から流れる血が地面を汚した。


「だれか‥‥」


 叫びすぎて掠れた声は震えていた。

 恐怖があった。悲しみがあった。苦しみがあった。そして、怒りがあった。

 脳裏に過ぎるのは凶悪な笑みを浮かべた男の顔だった。家族を皆殺しにした男の顔だった。


 歯を食いしばる。泣かないように。

 手を握りしめる。怒りを忘れないように。


 少女は走る。

 闇に向かってただ少女は走る。



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