箱 【KAC20243】

姑兎 -koto-

第1話 お届け物

『佐藤雄介様』

懐かしい旧友からの届け物。

箱を開けてみると、旧友に届いたと思われる開封済みのお届け物が入っていた。

どういうことだ?


その箱を開けてみると、また、旧友へ荷物を送った差出人へのお届け物。

次から次に出てくるお届け物。

そして、最後に入っていた6個目の箱の中には、鍵と『助けて』のメモがあった。

6人辿れば誰とでも繋がれるというけれど、差出人の名前に見覚えは無い。


これは……。

不幸の手紙的なアレなのだろうか。

それとも『誰か、助けてあげて』的な何かなのだろうか。


とりあえず、僕宛に送ってきた旧友に連絡を取ってみることにした。



「雄介だけど、あの荷物、何?」

我ながら、久しぶりの旧友に社交性の欠片もない電話。

でも、旧友は僕のそういう所は承知している。

「わからないんだ。でも、お前ならどうにかしてくれると思って」

「いや、最初の人は知らない人だし、どうにもならんだろ」

「だったら、次に回せば?」

「いや、君も知ってるだろ?自慢じゃないが、僕には、回せる相手がいない」

「友達なら、いっぱいいるだろ?」

「いや、友達だからこそ、こんな訳の分からないモノ回せないよ」

「それじゃ、君に回した僕が人でなしみたいじゃないか」

「そういう意味じゃなく……」

「まあ、とりあえず、よろしく。じゃあな」

一方的に切られた電話を眺めて、暫し、呆然とする。

どうしたものか……。


仕方なく、最初の一人に連絡をしてみた。

「初めまして。突然すみません。佐藤雄介といいます。あなたのお荷物の件でお電話させて頂きました」

見知らぬ人相手のこと、社交性を絞り出し常識的であろうと思われる挨拶を試みる。

「荷物には、何が入っていましたか」

送った張本人の想定外の質問は、僕のなけなしの常識を叩き壊し、しどろもどろになる思考。

「鍵と『助けて』と書かれたメモが……」

「では、あなたには、見えたのですね」

「見えたとは?」

「あの鍵は、特別な人にしか見えないのです。普通の方には『これを最も信頼できる誰かに送ってください』と書かれたメモだけしか見えません」

自慢じゃないが、僕に特別な素養など欠片も無い。

朴訥ぼくとつで平凡、ただ、それだけだ。

『信頼できる誰か』ですら、おこがましい。

そんなことよりも、まず、見えたり見えなかったりする鍵って何だ?


「すみません。ちょっと意味が解りません」

「あの鍵で扉を開いて、私の世界を救って頂きたいのです」

「は?」

私の世界?この人は、何かをこじらせた人なのだろうか?それとも、手の込んだどっきりとか?説明を聞いて余計に意味が分からなくなるとは……。

混乱する僕をよそに一方的に話しが続く。

「誰もが合理的で、思いやりの欠落した私の世界に貴方の力が必要なのです。扉の位置情報を送ります」

そして、本当に届いた位置情報。


なんてこった……。

電話をかけた事を後悔しても遅い。

僕は、こういうことを放っておけない性分。

聞いてしまったからには、行かずにはいられない。


*****


そして、僕は、今、扉の前に居る。

僕に何かが出来る気はしないけれど、届いた鍵で扉を開く。


扉の先には、整然とした箱庭のような世界が広がっていた。


ー完ー








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