開けられない箱
ム月 北斗
大人になってから
子供の頃、テレビで好きなアニメキャラクターのグッズが販売されることを知ったときは、よく親に強請ったものだ。
「おかーさん、おかーさん!」
「なーに?」
「今ね、テレビでね、『銃騎士リボルガー』がね、フィギュアになって出るんだって!!」
銃騎士リボルガーとは、わたしが子供の頃に放送されていた特撮ヒーローだ。中折れ式のリボルバーと剣を使って戦い、悪の組織『ゴールト』や、アンチヒーローである『サンドゥー』と日夜戦っている。必殺技は銃と剣を組み合わせて相手を斬り裂く『
あの頃は本当に好きなヒーローだった。見た目も西部劇に出てくるガンマンのようで、登場時に吹く砂塵の中をハーモニカを吹いてやって来るんだ。
話しが進むごとに徐々に彼の素性が判明してきて、彼の正体はサンドゥーと同じで『ゴールト』が作った改造人間だったんだ。それを知っても尚も悪と叩くその姿は、当時の子供たちを夢中にさせていたことだろう。
とまあ話しが逸れたが、大抵の親はこういう子供の『お願い』というものを、聞いてくれることはないのだ。
「またおもちゃー?この間も買ってあげたでしょう?」
「それとは違うんだよー!買って、買ってー!!」
子供の頃のわたしはそう言って、よく母親にすがっていた。
「だーめ!遊んでばっかりいないで、勉強しなさい!」
・・・・・・まあ、よくあることさ。どこの家庭もこんなもんだろ?
父親は父親で気が弱い人で、わたしがおもちゃを強請っても、「おかーさんがいいよって言ったらね?」と。
いいわけがないのだ。結局、わたしはリボルガーのフィギュアを買ってもらうことは出来ず、五年という長い放送を終えて、リボルガーはテレビから姿を消してしまった。
それから二十年、わたしも三十路を迎え、俗に言う『いい大人』の仲間入りをしていた。
職場では変わらず平社員、最初は出世を考えていたが、上司たちの働きぶりや給料を見て、現状維持をすることにした。その方がよっぽど楽でいいと思ったんだ。
そんな生活を送っていたある日、わたしは仕事の帰り道にふらっと、リサイクルショップに入った。というのも、最近家で使ってる冷蔵庫の調子がおかしいので、買い換えようと思っていたからだ。
彼是ずっと一人暮らし、冷蔵庫は小さいのでいいし、かしこまって新品というのも気乗りしなかったからだ。
案の定、その店には小さな冷蔵庫がたくさん置いてあった。有名な国内メーカーのものから、聞いたことも無い海外製のものまで、幅広く置かれていた。
わたしが求めていた小さいのも、ちゃんと置かれていた。製造日も割と近く、長く使えるだろうと思ったわたしは、それを買って帰ろうとした。
店から借りた台車に乗せ、少し店の中を見て回っていた時、ふと、ある売り場に目がいった。
『玩具・レトロ』、天井から吊り下げられた店内表示に、わたしは興味を抱き、その足を向かわせた。
そこにはたくさんの古い玩具が置かれていた。それこそ、ブリキのものやゼンマイ式の車、大きなスロットルカーのコースなんかも売られていたのには驚かされた。
そんな中、わたしの目に一つの商品が飛び込んできた。
それはあの頃、子供の時に買ってもらえなかった『銃騎士リボルガー』の、あのフィギュアだ。
箱には『未開封』と書かれたシールが貼られていた。わたしはそれが気になって、近くにいた店員に聞いた。
「あのー、すみません」
「なんでしょうか?」
「このシール、『未開封』ってのはどういう意味でしょうか?」
「あー、それですか。そのままの意味ですよ」
そう、それはつまり、誰にも開けてもらっていないということ。『新古品』と言うらしい。
こういったものは高いイメージがあったが、値札には八千円と書かれており、わたしは思わずそれも台車に乗せてしまった。
「お買い上げありがとうございましたー」
帰り道、わたしの足は浮足立っていた。というのも当然で、子供の頃にあれほど欲しかったフィギュアが手に入ったのだから。
家に帰り早速冷蔵庫を設置すると、わたしはリボルガーのフィギュアの箱に手を掛けた。
が・・・・・・わたしはそれを開けることはなく、棚の上にそのまま置いた。
理由は分からない。自分の事なのにな。
ただなんだろ、勿体ないと感じたのかな?
それから数年経ち、わたしにも家族が出来た。妻と小さな娘を連れて、小さな平屋をローンを組んで購入し、そこに住んでいる。
無論、今でもリボルガーのフィギュアはそこにある。
棚の上、『未開封』のまま。
開けられない箱 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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