第11話 NPCのオートビット・レナリアとビリヤード対決
squiの衝撃を上回り、再び4人とも混乱していた。
「これは、ゲームマスターはもう死んだって事ですか。なぜ。どうやって。」
「じゃあこれは緋戸出セルの棺。」
「自分も意識体となってDESSQ内のユーザーとなり完全消滅を選んだとしたら。」
「なんて迷惑な話なんだ。このデスゲームの全てを生み出しておいてゲームマスター一人で一番早く消えるなんて。」
田芽助が違和感に気が付いた。
「意図は分かりますが、変ですね。確か緋戸出セルはかなりDESSQを積極的に楽しむ方だった気がします。だからこそ、この混乱に陥れる事件を引き起こした。なぜその彼が自分のいない世界を作り出しているんですかね。」
「もう、やりたい事も無くなって飽きてきてたんだろ。お金もあるしな。ただ、この棺で今回の事件の主犯が緋戸出セルだと確定したな。もうこの世にはいないならデスゲームはシステムに沿ったゲームクリアでしか終わらなさそうだ。」
「緋戸出セルが空の景色もフィールドもDESSQの全てを生み出した神。毎回イベントを盛り上げるエンターテイナーがまさか、こんなデスゲームを開催する人とは思わなかった。意外と怖いなあ。神って言われたら普通嬉しいのに。」
意外にも場を静止させたのは峰未雨だった。
「それでもここに棺が置いてある。ゲームマスター…緋戸出セルは生み出したとは思っていないんじゃない。」
「そうか。現実主義のMMOだからね。」
「僕は孤独だったんじゃないかなと思います。ただ、これでゲームマスターはいない。やはり、ゲームクリアをするしか無いんですかね。」
「一旦、squiとのゲームに戻って現実世界に戻る方法が他にないか調べよう。今の状況がこれじゃ分からない。squiが教えてくれるかもしれない。ゲームに勝った前提の話だけどな。」
複雑な気持ちで緋戸出セルの棺を後にしたDESSQユーザーの4人はビリヤード台のようなゲームボードに戻り、squiとの対戦を受け入れ、白いボールを置いた。
〔認証しています。確認致しました。ゲームマスターの弔い感謝いたします、ダイヤの3所持者。これから行われるゲームは、紀元前から親しまれている東方からヨーロッパに広まった格式の高い球技を模したゲームとなっております。〕
〔A BIRIYARD-LIKE GAME USING FONUMEES SKILL BALL。まずは白い手球以外のFONUMEES SKILLを表した9つのボールを中心に配置致します。〕
認証された8つのボールが消滅して、ゲームボード中心にビリヤードを行う際の配置になった。
「ナインボール。9番目はダイヤのKINGのsquiという事か。」
〔ゲームの概要を説明致します。ゲームクリアの方法はビリヤードのナインボールと同じ。ルビーの石鳥が描かれた白いボールを手球として私と、スペードの1からダイヤのKINGの玉を順番に突きボールの得点が相手より高ければ勝利。こちらは玉を突くゲームマスターが不在のため、NPCをご用意致しました。旅商人のレナリアです。〕
「こんちは。ビリヤードはゲームマスターに教えてもらったからできまーす。エレミルにいた街の人達はプレイヤーのいない夜中に僕たちNPCと友達みたいに遊んでくれていたんだ。」
旅商人らしい服装で、羽根つきのウエスタンハットにウエスタンブーツ。服に白いマフラーが破れた形で首にかかっており、青いデニムを着た金髪の女性がいた。
「か、可愛いです。ウエスタンな雰囲気ですね。見かけた事は少ないですが。」
「おい、ゲームをやる敵だぞ。負けた方は死ぬなんて言われるかもしれない。同情はやめておけ。」
「さっきからsquiとのゲーム、ゲームマスターの消滅、ここまで戸惑う事が多かったけれど、多分今私たちは他のユーザー全体に大きく影響する大事な勝負をしている気がする。殺し合いのつもりで臨むべき。」
「でも可愛い。女性なのにTHE男の服装なんだね。ウエスタンハットは期間限定だった気がする。そのイベント時にいたのかな。」
〔このNPCの名前はオートビット・レナリア。ウエスタン装飾イベントの際の服装でシステムを使い登場させました。女性であるのに男性の服装をしている理由は、当時、エレミルのプレイヤーに誘拐され、システムの及んでいない城の内部で散々な目に遭ったからです。イベントが終了してもNPCは役割を与えられ滞在する事が多く、レナリアもその一人でした。半年が経った頃、最終的にフィールドの範囲外で消滅していました。〕
「そうでーす。あの頃は大変だったなー。」
squiの話した内容とNPCの口調が一致しておらず、Yobase達は口を閉じた。
しかし、Yobaseが彼女がエレミルのNPCであることを知り、レナリアを注視して心の傷を理解した。
「それは悪かった。エレミル兵士の一人として謝罪したい。」
「Yobaseさんは何か悪い事をしたの。」
「…知ってはいない。城の内部に入った事はないから。」
「それなら仕方ないと思います。こうして全てのDESSQユーザーに復讐するほど、我々のNPCに対する行いは良くなかったんです。責任は僕たち全員にありますよ。」
〔それではゲームのルール説明を行います。
・挑戦者側のゲームクリアはトランプのマークに書かれたボールの数字が得点となり、最終的な合計値が相手より高ければ達成となります。
・ビリヤードと同じようにスペードの1から順番に玉を突きます。順番通りではないボールを突いた場合、該当者はお手付きとなります。
・手球を突いた時点で自分のターン終了となります。そのため、自分の陣営の手球を当てて落下させたボールは相手のターン中であっても、自チームの得点となります。
・白い手球が穴に落ちた場合、白いボールをゲームボードの中心に置かれ、相手がその白いボールを落とした場合、該当者に10得点与えさらに、白い手球はお手付きとなります。なお、白い手球を落とした状態ではお手付きにはなりません。
・白い手球を所定の位置に置かれる前に、対戦のために支給される道具がボールに触れた場合お手付きとなります。
・ゲーム中、対戦相手にゲームの続行が不可能と判断される程の負傷させる行為は過剰な妨害とみなし、ゲームへの参加を禁止致します。また、対戦相手のターン中、相手の肉体に危害を加えて進行を妨害する行為もルール違反となり失格となります。
・ゲームボードと手球と各ボールはメニュー画面に表示しました。これを対戦時に使用致します。ルールに記載されていない事項も記されているため、ぜひ触ってご確認下さい。
・そのほかのルールに関しての質問はオートビット・レナリアが受け付けております。〕
Yobaseはメニュー画面を操作して確認した。
「手球からの推定コースも書かれてる。これは便利だな。」
〔続いて、最も重要なゲームの達成報酬をご説明いたします。報酬はゲームマスター緋戸出セルの重大な音声データになります。DESSQの新アップデートNONUMEESGAMEにも関わる情報となります。〕
「緋戸出セルは音声データを残して消滅したってこと。」
「ゲームマスターからの情報は貴重です。重大な情報なら現実世界に戻る方法が分かるかもしれません。」
〔また、追加の条件付き達成報酬として最後のダイヤの3該当Non player clown FONUMEE SKILLの〔
「ダイヤの3のFONUMEESはもう一体いたんだ。私は剣戟でのし上がりたい。けど、squiが敵になったりするなら特別なスキルを手に入れてみたい。」
「FONUMEES SKILLは絶対私でしょ。峰未雨は自分の身を守れるんだからカードのスキルは要らない。私のスキルは近距離が弱いから奇襲にでも遭ったら終わり。」
「鯱千。ごめん、遺跡を駆け下りてる時カードのスキルは強いと思ったからやっぱり欲しい。」
「よっし。ペナルティが一時的な使用禁止だけか。良かった。ゲームに負けたら死ぬ訳じゃなさそうだ。また、あのボスモンスターに捕食されなくてもまた4人でこの会場に来ればいい。これは絶好の機会だ。」
〔注意事項、ダイヤのKINGにsquiよりゲームマスターの音声データを格納致しました。そのため、ゲーム中、ボールが破壊される、紛失した場合、挑戦者側の敗北となります。その場合ペナルティに沿って転送いたします。〕
「鯱千、ビリヤードでボールって破壊されるの。あんまりやった事ないから知らないだけか。」
「あり得ないし聞いたことない。ビリヤードで使うキューじゃボールは破損しないはずだよ。」
〔追加報酬の条件を説明いたします。
条件 挑戦者が複数であった場合のみ、一名がこのゲームに命を賭けていただきます。ゲームに敗北した場合、完全消滅になります。
また、一名が命を賭けた場合、ゲームに勝利してもオートビット・レナリアはNPCとしてシステムに管理せず、挑戦者と共に行動します。人間には心を閉ざしていますが、NPCとの和解を希望する場合、以上の条件を推奨致します。〕
「FONUMEES SKILLを入手するには、命を賭けないといけないのかよ。
「このウエスタンな女子が人間の味方なってくれるの。田芽助犠牲になれよ。」
「レナリアさんは可愛いし好きです。けれど、この人かなり怒ってます。人間に対する憎悪が強くて、彼女自身パーティに入る事を望んでないように見えます。人間と共同生活を強いるのはいいとは思えないです。」
「確かに目が笑ってない。一回レナリアさんから話を聞いてみようよ。」
レナリアはYobaseらに対して無反応だったが、笑顔を保ち続けていた。
「私は履いて捨てられる彫刻品だから興味示しても意味ないよ。早く、ビリヤードがしたいなあ。ルールはもう理解できた?squiに準備完了の合図を送ったらゲームが開始されるよ。」
挑戦者の4人は明らかに心の壁を敷いているレナリアに気づき、彼女をパーティーメンバーに引き入れる事が、本当に正しい事か思考を巡らせ始めていた。
「どうしますか。彼女にトラウマを植え付けかねません。ゲームが終了してもsquiが管理するNPCの一体に戻るだけです。データまでは消さないと思います。」
「追加報酬のスキルも欲しいけど、彼女が味方になるのは嬉しい。人間に慣れていけば素で話せるようになると思う。戦闘できるのかは分からないけど。」
「彼女を守ろうとしない人が追加報酬を取る必要はないんじゃない。squiの意図を考えてみればこのゲームに命を賭けた人がもらうべきだと思うよ。私は今回は遠慮しとく。」
「…。」
皆の意思が、追加報酬を捨ててゲームを始める方向にまとまってきていたが、罪悪感のあるYobaseがレナリアに話しかけた。
「もしかして、俺の顔を覚えていたりするか。」
「ごめんねー。プレイヤーの顔はあんまり覚えてない。記憶力が乏しい方のNPCなんだ。」
「そうか。良かった。」
Yobaseが心の安堵を出してしまい怯えてしまった。
実はYobaseは少し嘘をついていた。彼もエレミルの兵士だったため、NPCの捕虜を城まで連れていく事もあった。その中には村人や旅商人など、人間のNPCが多くいたため、内心焦っていた。
「ノックザード国王という名前を覚えているか。」
レナリアは笑顔だったが、Yobase達4人の反応を聞いてすぼめた目から涙を落としていた。
Yobaseは涙を見せた彼女を見て深く謝罪した。
「前国王はNPCを殺す行為を平然と行っていた。数多くのNPCが犠牲になったのを俺は黙認していた。エレミル兵士として謝罪する。申し訳無かった。」
レナリアはYobaseの言葉を聞いて涙を見せ真顔になっている事を他のパーティメンバが驚いていた。
レナリアは再び演技に入ったような表情を見せてほくそ笑んだ。
「それなら、まずは命を賭けてみてほしいなあ。人間さん。」
Yobaseは追加報酬の条件の事を思い出し、口が重くレナリアの希望に応じる事が出来なかった。
「それは…。」
Yobaseは自分が命を賭ける事を極力嫌う。様々な作品で見た命を賭ける行為を自分がすれば死ぬと思っていた。今目の前に自らの死を委ねる選択が現れ、彼には見えた。自らが処刑台に立ち、目の前の女性に殺される光景が浮かんだ。
「すまんレナリア。同情しておいて命を賭けないのでは私達は信用されないだろうな。人間は最低だ。本当に申し訳ない。」
他のパーティーメンバーの全員が空気を感じ沈黙していた。NPCが私達人間のプレイヤーに復讐する事に正当性を感じてしまい、自分達を悪人だと思ってしまった。
「ルールは理解できたか。俺は聞いていない部分が少しあるんだ。教えてくれると助かる。」
「私達も命を賭けなかったんだから過去に何があったのかは知らないけど気にしなくていいよ。ルールは私から説明するね。」
鯱千がルールを一通り確認してパーティーメンバー全員で作戦を共有した。
「squi。準備ができた。ゲームを始めて問題ない。」
〔承りました。これより、A BIRIYARD-LIKE GAME USING FONUMEES SKILL BALLを始めます。ゲームマスター権限より、監視システムを現会場で使用。不正のないようにDESSQのシステムが審判致します。〕
〔ゲームで使用される道具をゲームボードの横に配置致しました。ご確認下さい。また、ゲームが開始されてからの質問もお答えできる範囲であればレナリア様がお答え致します。〕
Yobaseは、ゲームボードの横に置かれている対戦道具を見た。
「これは本当にゲームに使用する道具なのか。戦闘兵器に見えるが。」
「うんそうだよー。口先だけの元兵士さん。ここに置かれている道具の内好きなものを毎回選んで玉を突ける。まず先行は君達からだから好きな道具を取って持ってといいよ。」
「これは円盤を回すと力が加わって弾き飛ばせると書いてあるな。回してみよう。」
Yobaseはレナリアの言葉に反応できず目を背けるように機械を操作していた。
カン。
「あっぶな。力が加わりすぎている。ボールが地面を滑る訳がない。台をはみ出るだろ。」
その場に置かれていた道具は4つ。
一つ目は、ビリヤードで使うキューと言われる一般的な棒。
二つ目は、後方の金属板で位置を固定して中心に地面に円盤がついたバネのついた金属板で、円盤を回す事でバネを縮ませボールに衝撃を与える道具だった。
三つ目は、モルホデフタの形をした機械で、メニュー画面にリモコンが現れ操作するというものだった。
四つ目は、大きな銃の引き金を引くと金属系変性モンスターの能力によって銃口の一部のみ強く光りキューとは異なる四角い金属棒が発射され、ボールに力を加え弾き飛ばす道具だった。
「ここにあるのは、第二サーバーで製造したものも含まれてるよー。だけど使われてる道具は一部だと聞いておりまーす。」
「いた。あまり道具を無闇に使うな。戦闘で使用できるレベルだ。」
「すいませんYobaseさん。あのーこの鳥見てください。モルホデフタみたいです。ルビーはない金属ですけどこうやって操作画面から動かせますよ。」
「あはは。この銃近距離も遠距離も行けるしすぐ戻る。最高。これでビリヤードできるんだ。レナリアさん、持って帰っていい?」
「ここにある道具はどれも面白いですね。…鯱千さん。あのー、さっき一度試したらこの銃貸してくれるって言ってから結構時間が経って未だ道具頂いてません。」
「鯱千。危険だ。一旦作戦をきちんと考えた方がいい。妙だ。ビリヤードでこんな力を加える必要はない。」
4人が道具の操作を確認して、作戦を考え始めた。
「ビリヤード中級者のYobaseと鯱千。この二人以外はレナリアの妨害。別に変える所はないんじゃないの。」
「いいか。命を賭ける条件があるという事は普通にビリヤードやってても勝てないって事だ。squiの計算処理能力を利用すると思っていたがこれは予想外だ。」
「多分大きな力を加える必要があるゲームなんだよ。ゲームが始まってから臨機応変に対応するしかなくない。」
「ボールには判明しているFONUMEESが操作画面にも描かれてるんだ。FONUMEESの絵が描かれた手球とダイヤの3とクラブの7はタップ出来る。NONUMEESGAMEと絡めたゲームになるはず。作戦を練り直そう。」
Yobaseらの一時的な作戦会議は終わり、squiにゲーム開始の合図を出した。
NPCのレナリアともう一度向き合い、対戦相手として礼儀正しく会釈した。
「準備はできましたかー。命賭けないんだからビリヤードで遊ぶだけ。そんなに怯える必要はないと思いますよー。」
「レナリア、せめてもの情けだが、君を人として見るため敬意を払う。準備はできた。squi始めてくれ。」
〔かしこまりました。挑戦者サイドYobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助NONUMEESGAMEサイドオートビット・レナリア共に準備完了。ゲームを開始致します。〕
〔A BIRIYARD-LIKE GAME USING FONUMEES SKILL BALL START〕
〔挑戦者サイドが先攻となります。まずは道具を選び、白い手球を所定の位置に配置後、トランプの小さい数字から順番にボールを狙って下さい。〕
「んじゃまずは、私が手本を見せる。パーティー唯一の上級者のプレイングをよく見とくように。このキューはこうやって台に水平になる姿勢を取ります。そんで狙うのはあのスペードの1ね。それ以外のボールに当てたらお手付き。だけど、スペードの1のボールを使って他のボールを落とすのはあり。最初だから難しいけど、こうやって一つの穴に絞って当てる位置を決めれば落とせたりする。」
鯱千はその後沈黙して集中してボールを突いた。
(まずは端にあるダイヤの9かスペードの10を狙うべき。最初だからボールを分散させて、手球がスペードの1から離れればラッキー。この中で一番ビリヤードの経験があるって事は意外と素養あるのか私。今度峰未雨に教えよう。)
鯱千は落ち着いて手球を突いた。しかし、スペードの1にボールが勢いよく当たりその場の近くに止まってしまった。
「おいおい。これじゃ対戦相手のレナリアにチャンスを与えるだけじゃねえか。やはり4人で交互に行うのが、蟠りがなくて良さそうだ。峰未雨頼む。順番通り俺が次に打つ。」
隣の田芽助はゲームボードに不正、不穏な動きが無いか調べていた。
「公平にしてチーム間での喧嘩を防ぐのは自分もいいと思います。複数人での対戦の場合限定の条件があるなら仲間割れを起こすスキルやギミックがありそうです。しかし、Yobaseさん今のボールの動きは変ですね。手球に加えた力がスペードの1に押し殺されました。手球が当たったのに全ての球は微動だにしてません。」
「ああ、明らかに普通じゃない。命を賭けなくて正解だった。」
オートビット・レナリアが、異変に気付いた彼らを見て微笑みを浮かべた。
「ビリヤード本気で遊んでくれて嬉しいー。人間は命を賭けないと負けても言い訳するかなって思ってたー。」
〔オートビット・レナリア様が後攻になります。挑戦者サイドの1ターン目が終了したため、先攻と同じくお好きな道具を選び、白い手球を配置後スペードの1を狙って下さい。以降は、情報を抑え得点とターン数を表示致します。〕
「じゃあ遊びは終わりね。かっこいいこの銃を使おーっと。FONUMEES BALL squi。」
〔A BIRIYARD-LIKE GAME USING FONUMEES SKILL BALL〕
追加のルール説明を致します。
・ゲーム中、トランプに該当するFONUMEESがこのゲームに準えたスキルを使用できます。挑戦者側のFONUMEESは基本的に相手のターン中のみ使用する事ができます。自チームの専用スキルをメニュー画面に表示致しましたので、ご確認下さい。
手球を所定の位置に配置後、オートビット・レナリア所持FONUMEES squiの能力を現在のゲームに適用致します。〕
ゲームボードにトランプのダイヤのKINGのマークが現れsquiの今回のゲーム専用の能力が明かされた。
〔オートビット・レナリア所持FONUMEES ダイヤのKING squiの一部演算能力を今回のゲーム専用スキルとして使用。能力 自分のターン中、通信可能な道具にsqui自体の演算能力の一部を伝達し制御する。また、一時的な演算能力の可視化が使用できます。相手のターン中にはゲームボードを活用して防衛します。〕
「驚いた?ゲームマスターが思慮された大事なゲームなんだから何の意味も無くボールにトランプのマークを描くはずがないと思うのが普通ですよねー。FPSゲームをする前に操作の全てを教えてもらえない。ルール説明が不十分なのは本来私の役目だからだよー。squiの演算能力なら一部でも20得点は確実。」
Yobaseらは対処が全く出来ず焦っていた。
しかし、この焦りは想定していた状況だからこその反応だった。
「よ、容赦ない、レナリアさん。けど思っていたより種明かしが早いな。いいのか。君がスキルを使えばルールが公になり、こっちの所持してるFONUMEESの能力も推測できる。使えるFONUMEESは一つか。一ターンごとか。次のターンまでにはルールの全貌を教えてもらえそうだ。」
Yobaseが田芽助と相槌を交わして、挑戦者側の使うスキルを決断した。
「FONUMEES BALL モルホデフタ、様、師匠、お願いします。」
〔Yobase所持FONUMEES ダイヤの3 モルホデフタの寄生及び意識に干渉し指示する能力を今回のゲーム専用スキルとして使用。能力 ゲームボードに置かれた相手の手球以外の一つのボールに寄生し操作。また、メニュー画面より、対戦で使う道具やボール等の無生物のアイテムにモンスターの重量比を基にしてボールを重くする事ができる。一度だけ、動作はしないがメニューから無生物のアイテムを選択して寄生する事ができる。〕
「不動と言われる師匠なら、squiの完璧な演算だろうとボールは動かない。」
メニュー画面にA BIRIYARD-LIKE GAME USING FONUMEES SKILL BALL専用のモルホデフタの操作画面が表示された。
操作画面には、ゲームボードのボールの位置が表示されており、意識指示を送る対象を一つお選び下さいと書いてあった。その横には、ホラノイノスラバリウレム 3126kg、ゲラリオザラミバ 24.7kg、ジジベム 53㎏と3体のモンスターの名前と体重が書かれていた。
「なぜ今まで寄生したモンスターを選択できるんだ。レナリアがボールを突く前に防御しないといけない。まあ、無難にこいつにしとこう。」
思考を巡らせ、レナリアを警戒してとりあえず最も強いホラノイノスラバリウレムを選択した。
レナリアは相手の後出しのルールへの適応に驚いていた。
「squi。演算終わってるよねー。」
「ボールはスペードの1を選択する。squiからボールを一つ選んで操作するとしか言われてないから確証はないが上手くいけば得点されずに済む。」
「謝罪した人に寝首をかかれた。やっぱり人間はよく自分を正当化させる。性格が悪いねー。」
Yobaseが瞬時にスペードの1にモルホデフタを寄生させた。レナリアが銃をスペードの1に向け演算能力を使用し、銃がレナリアの腕を動かすように位置を決め、白い手球に当てた。
結果、スペードの1の端に手球が当たった事でボールは回転し後方のダイヤの3のみに直撃した。ダイヤの3は端の穴に落下。スペードの1は微動だにしなかったが、レナリアはもう一度球を打てる状況になった。手球はハートの5に並ぶように横に止まった。
〔オートビット・レナリア 3-0 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕
「はあああ。ビリヤード球が回転して一番後ろのボールだけ落とす所なんて見たことねえよ。」
「squiが事前にスペードの1が重くなった分を計算に入れただけですよー。squiの演算能力はボールに打つ直前まで変更できる優れもの。」
Yobaseと田芽助はこの時点で敗北を悟ってしまった。
「降参したいレナリア。squiの演算能力がこんな魔球を生み出すとは思わなかった。出直してくる。」
「まだゲームは始まったばかりですよYobaseさん。僕もスキルが使えるか試してみます。FONUMEES SKILL BALLテママリナネット。」
〔六衛田芽助所持FONUMEES ダイヤの3 テママリナネットの10体に憑依し、操作及び一体化する能力を今回のゲーム専用スキルとして使用。能力 相手のターン中、ダイヤの3から平行線にある一定の広い範囲にあるダイヤの3以外のボールを全て動かす事ができる。メニュー画面から対象のボールのみを上下左右の丸いマークを押して操作する。最大1分後までの操作をストックできる。途中でボールが落下したら、相手の得点となります。〕
「あれ。これまずいですね。ダイヤの3がさっき落下したからメニュー画面から操作できるボールが一つもない。」
レナリアは一ターン目にして勝利を確信して笑みをこぼした。
「私の勝ちだねー。squiが要れば百発百中。負ける事は無いんだからー。」
レナリアがゲームボードを移動して、再び手に持った銃を操作して白い手球を動かそうとすると、峰未雨がレナリアの後方から拳銃を構えていた。
「人間はNPCとは違い生物なんだ。過酷な戦場が存在するのだから、当然殺しもある。」
レナリアはその場でただ笑っていた。
「撃ったらゲームが続行出来ないんだから君達の負けだよー。しかも拳銃なんて第二サーバーの代物此処にすぐに持ってこれる訳ないじゃーん。偽物だよね。」
それを聞いた峰未雨は手に持った拳銃の銃口をレナリアの顔に当てた。
「剣や槍のみの戦国時代とは異なり現代の武器も使えなければ強者にはなれない。」
「顔に向けないお人良しから撃てないよね…。」
峰未雨もNPC相手に銃口を向けたくは無かったが、これも作戦だった。
「レナリア。貴方はこのデスゲームに参加したら危険だ。人間と共に生きるより休んでいた方がいい。汗が出ている。」
レナリアは過去のトラウマを思い出してしまい額から汗が出ていた。
しかし、彼女はそれらの過去を糧にして自然な表情に戻り、峰未雨の要望に答えた。
「拳銃を向けてくる人間を見てこいつらは道具を持った事が特徴の獣人だって思ったの。私は必ずこのゲームに勝利し続ける。このDESSQから人間が全て奴隷になって死ぬまでね。」
レナリアは峰未雨を無視して、再び白い手球に四角棒が出る銃を向けた。
しかし、言葉とは裏腹にsquiの全ての演算が終了する前に銃を発射してしまっていた。レナリアがボードを見ずにsquiの能力に任せたため、演算能力により手球には当たったものの、白い手球は穴に落ちてしまった。
「あれ。ボールが落ちた。なんで。なんでよsqui。前回手球を打った時点で演算すればいいのに。」
Yobaseは、レナリアの顔色を確認し、視界が狭まっていると気づいた。
「よく見ろレナリア。ゲームボードのボールが動いている。」
実は、Yobaseらは始めから、メニューにある操作画面のFONUMEESの描かれたボールをタップできる事からトランプカードに該当するFONUMEESを使用できると気付いていた。4人で能力を想定して話し合った結果、テママリナネットを活かす方向性に決まっていた。また、テママリナネットが話した内容から擬態系と読みゲームで応用するならボールなどの物体に紛れる能力だと予想して緊急時にはモルホデフタのアイテムに寄生する能力を活用しようと考えていた。
「NPCのレナリアはゲームに集中していない。人間への復讐目的だ。峰未雨、心の傷を抉るのは酷だと思うが、相手のターンを終了させる方法は多い方がいい。頼む。」
最もレナリアを威圧できそうな峰未雨に拳銃を手渡した。
レナリアは目の前の現実が受け入れられずにいた。
「どうしてですか。テママリナネットの能力はダイヤの3を落とせば使用できないと伝わっていますけどねー。しかも私の手球を突く準備中にクラブの7の能力でボールを穴から移動させて元の位置に戻すなんて絶対ルールに抵触してますよ。」
鯱千が一仕事を終えたように額の汗を拭いレナリアに反応していた。
「ルールを律儀に守ろうとするのは可愛いねレナリアたん。初見で見えないゲームボードの穴の内部からクラブの7を操作できたの凄くね。田芽助のは導線を利用して手球を落としただけだしさ。」
田芽助が鯱千の言葉に反応し指摘していた。
「鯱千さんが一番貢献してますけど、10個のボールを操作するのだって難しいです。万が一穴に落としたら、ゲームの性質上、得点になるかもですし。」
Yobase達4人は対戦前に話しあった作戦を一通り終えて、満足そうな表情だった。
「悪いがレナリア。ルールには手球を所定の位置を置く前に、道具を使用してボールに当ててはならないとしか書いていない。人間はマナーがなってないからルールの穴を勘繰る癖があるんだ。FONUMEESの能力と様々な道具を見て思ったよ。ゲームマスターからこの行為は許されている。その証拠にsquiから違反の文字が表示されない。」
〔NONUMEES GAMEサイド、レナリア様。手球が穴に落下したため、お手付きとなります。3ターン目からのゲーム参加となります。〕
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