第16話 レトファリック、動かない男になった理由、過去回想
移動植物系モンスターのゲラリオレミゾカがホラノイノスラバリウレムをつるで縛り動きを封じた。他の何体かのモンスターが攻撃した。
しかし、level25のホラノイノスラバリウレムはそれでも倒れなかった。
「ゴゴゴガガガ」
目もほとんど見えない状態の中気配のみで敵に突進。中の者を考え、顎を何度も上下にしながら敵を葬っていった。
固い岩が瞬時に向きを変えてモンスターを壁に叩きつけているようなものだった。
圧倒的だった。相手の攻撃をまともに食らうより早く10体以上のモンスターを動けなくさせた。このガーケイム・アトラ地下遺跡での最強は揺るがなかった。
地下遺跡のYobaseのいるフロアのモンスターはホラノイノスラバリウレムが全て葬った。
しかし、レトファリックだけは腹の中で怯えていた。
「つ、強ええ。HP減ってるのかこいつは。流石だ。やはり敵なしだな。」
レトファリックの作戦では、他のモンスターと相打ちになり、HPの消耗したホラノイノスラバリウレムから一時的に抜け出しボスモンスターを上の階に移動させ、待機し次の作戦を練る予定だった。
しかし、ホラノイノスラバリウレムはそれを許さなかった。
Yobaseが腹の中が安全と考え動かないことを野生の勘で察知したボスモンスターは口を大きく開けたまま、上の階へと移動していった。
Yobaseはホラノイノスラバリウレムが他のモンスターに腹の中にいる自分を攻撃する事を狙っていることを理解し絶望した。
長い長い地下遺跡の道をボスモンスターが移動している。
時間を確認すると、ノスラバリウレムが格闘した後の休息もあり、40分を過ぎていた。
「田芽助、峰未雨と鯱千を呼びに行ってるから遅えのか。ここが何階かも分からんが早く助けに来てくれ。」
彼は危機を感じると動けなくなってしまう。防衛本能だった。
レトファリックが子供の人魚だった頃、周りの先輩人魚が次々と王国の人間さん
と結婚したり、メイドさんとして働いたりしている姿を見た。
「みんな幸せだと良いんだけどな。」
レトファリックは引きこもりでゲーム三昧だったが友達の事は案じていた。
しかしレトファリックはある光景を見た。
海の上で鎖につながれた人魚が人間を運んでいる状況だった。人間は鎖で人魚に鞭を打ち、海の上を遊泳していた。
「おい、とっとと泳げ人魚だろ。」
人魚の扱い方が雑でまるで奴隷のような扱われ方だった。
「おい、やめろよ、人魚から手を離せ。」
レトファリックとは別の一人の人魚が人間を静止させた。
「あ、なんだ人魚か。人間と共存できているだけいいと思えよ。」
人間は人魚の顔目掛けて缶ビールを投げた。
人魚は痛いそぶりを見せた。
「お前ムカつくな、人魚が一端の正義面しやがって。このDESSQの世界じゃNPCに何をしてもいいのを忘れたか。おいお前らこの人魚を連行しろ。痛い目に遭わせてやる。」
すると人間の仲間たちが海の上で人魚を捕まえて連れていく所をレトファリックを見た。レトファリックは連行された人魚を助けようと後を追いかけた。
「なあ。俺に指図したよな。はい、今から腹パン100回行きまーす。」
「いいっすね旦那、人間に歯向かうとどうなるかおもい知らせてやりましょう。」
人魚が殴られている光景をレトファリックは見ていた。助けに行かないとと思いながら怖くて動けなかった。殴られている所も見れずその場から静かに身を引いて逃げていた。
「人間さん、こんなに非道な人たちだと思わなかった。怖いよ。」
レトファリックは自分の安全が大事な弱い生き物だと感じ、連行された人魚の無事を祈りながらそこからにげていた。
当時8歳のレトファリックにとって人間は恐怖の対象として強烈に映った。
人間を前にした時は前に出ず怖くて動けなくなっていた。
それから危機や、緊急事態があればとにかく動かずに、生き延びる方法を探すようになっていた。動かない事が正解だと体が伝えてくるようになった。
「ゴゴゴ。」
ホラノイノスラバリウレムは先ほどまでの死闘があってもすぐに俺を体から取り除くために動いている。田芽助は助けに来ないのだろうか。あれほど死の危険がある状況で自分の身を削って親切にする馬鹿でも無理だと見放すのだとYobaseは理解した。
ボスモンスターが上の階への階段を見つけ移動しているのが、見てわかった。上からはモンスター同士の叫び声が聞こえる。死ぬ気がすると思った。
足を動かせずにいた。何も考えられずあの頃のように停止したままだった。
叫び声がどんどん近くなっている。死ぬ。今こいつの腹の中から動くのがいい気がした。しかし動かない方が安全かもしれない。誰かのメッセージを待ったが来なかった。
「どいつもこいつも期待させといて裏切る。」
[この先 地下遺跡 10階 推奨level30]
彼はその文字を見て腹の中から逃げ出した。行く先など考えてはいなかった。彼は自分でも冷静な判断だと思っていない。
煙玉を投げた。一つしか持っておらず入手法も分からない貴重なものを使わざる負えなかった。どの道、このボスモンスターから逃げて地下遺跡を抜け出す為に使用するつもりだった。
11階で走り回っていた。何度も柱の前で右、左と惑わすように動いた。
しかし、ホラノイノスラバリウレムはYobaseを野放しにはできないと追いかけてきた。彼が気づいたときには音で後方10m程度だと気づいた。
当然だった。level20のモンスターの速度ですら、壁に叩きつけられるほどのスピードにレトファリックが逃げられるはずがなかった。
レトファリックはYobaseの作った簡易爆弾を使用した。火薬をあるだけ詰めていたものを投げた。
心の安定剤を投げホラノイノスラバリウレムはまたしても同じように腹の中も含めて目と口を爆発させられた。
前回使用したものより威力が明らかに強かった。思っていたよりもボスモンスターの猛追が速く、レトファリック自身も爆破で吹き飛ばされた。
「くそが。あちい。燃えてるわ。」
片腕が彼の身を守る代わりに引火していた。ホラノイノスラバリウレムの体内は少しずつ油っぽくなってきており、その状態異常の影響を受けたレトファリックは引火しやすい状態だった。
ホラノイノスラバリウレムが2度同じ攻撃でひるんだことに危機を感じ、10階へと移動し始めた。
レトファリックはそれでも走っていた。右、左、前の3方向が出る度に何も考えず圧倒的なボスモンスターから逃げていた。
気配が薄れたと思った彼はひとまず少し落ち着きを取り戻し走っていると幾つもの部屋を見つけた。
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