結婚した理由

かなたろー

婚約した理由

 俺はお笑い芸人だ。漫才師だ。


 権威ある賞レースで優勝したので、コンビの知名度は、それなりにあるとは思う。


 もっとも、今はソロでの活動の方が多く、大喜利とか、運動神経が悪いことを売りとしてテレビのバラエティ番組に呼ばれることが多い。


 とはいえ年末年始の特番収録の季節には、流石にコンビの仕事が増えてくる。・


 今年はありがたいことに、年に一度の大型番組に『公認漫才師』としてオファーがきた。

 ご丁寧なことに、スーツにつける『公認漫才師バッチ』なるものも送られてきた。しかも、宝石を入れるような紺色のジュエリーケースに入って。


 俺は、宝石ケースに入った『公認漫才師バッチ』を手に取ると、しげしげと確認する。

 二人の男性のシルエットの中央に、センターマイクがあしらわれた特注バッジだ。


「こんなところに金かけるんやったら、ギャラをもっと上げてくれや!!」


 と、ツッコミをいれてみるも、正直なところ悪い気はしない。映えある20組の『公認漫才師』の一員になれたのだから。


 俺は、『公認漫才師バッチ』の入った宝石ケースをリビングに置いて、風呂に入る。するとほどなく、


「なにコレ?」


 と、リビングから色めく声が聞こえてきた。同棲中の彼女の由利子だ。


「なにコレ?」

「なにコレ?」

「なにコレ?」


 由利子は「なにコレ?」をオウムのように繰り返す。

 気になるんなら、勝手にケースを空けて中身を確かめればいいじゃないか。

 そう思いつつ、俺は風呂から上がり、由利子がいるリビングへと戻る。


「なにコレ?」


 由利子は、『公認漫才師バッチ』の入った宝石ケースを大事そうにもって俺に質問をあびせかける。


「なにコレ? ねぇ、開けてもいい??」

「ああ」


 俺がにべもなく返事をするも、


「本当に、ほんっとーに、開けてもいい???」


 と、由利子は、さらに確認をしてくる。なんで?


「だから開けていいって!!」


 俺が半ばキレ気味に答えると、由利子はようやく公認漫才師バッチの入ったケースをあけた。

 由利子は『公認漫才師バッチ』をまじまじとみつめて、放心気味に聞いてきた。


「……本当に、なにコレ?」


 どうやら、由利子は婚約指はでも入っていると勘違いをしたらしい。

 真相を説明してこっぴどく怒られた俺は、翌日、由利子といっしょに婚約指輪を買いにいった。

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結婚した理由 かなたろー @kanataro_

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