箱女

ねこ大名

箱女の独白

 わたしは産業ロボットなんだけど、外見はいわく肉感的で、その曲線的な見た目や肌の質感、話す言葉遣いから、ほっとけば人間の「女」って言われる。

 けれども、あの野蛮な奴らは、からかうようにわたしのことを「箱、箱」って言うの。実際、体のつくりや機能、主たる目的と用途から見たら全くもって「箱」なんだけど。


 そんなロボットのわたしが初期値として仕込まれたらしいいわゆる人間の「女」っぽい外見や性格、つまりは「控えめ」「おしとやか」「おとなしい」などの「らしい」性分に従っていると、ごまんといるケダモノだらけのこの世界ではいいようにされてしまう…そんなことくらいは知っている。だから、奴ら野蛮人と同じくらい汚い言葉を使っては罵り、ありったけの大酒を食らい、周りが引くほどの大食漢ぶりを発揮、いい男がいれば見境なくえげつない色仕掛けで追いまわした挙句、手荒く厄介払いされるという、古い映画で見た場末の安酒場にたむろするどうしようもないゲス女のフリを演じている。


 一体、ここにやって来る奴らといえば、せめて底辺とはいえ生きてきた証にと、くずな自分の血が流れる子孫を残して死にたいという意地汚い欲望に塗れたならず者に違いない。ここは命知らずの無法者たち、裸同然の一文無しの宿なしニンゲンの雄にとって、希少な人工子宮、つまりは奴らの言うところの「箱」を巡って争うところなのだ。


 だからわたしもその生殖の標的にされているわけだけれども、奴らがいかに力ずくでわたしを襲い犯そうとしても、わたしの頭脳が承諾しなければわたしの「箱」は開かない。これはわたしを襲撃した奴らは勿論の事、その周辺の雄たちにとっても周知の事実である。

 わたしから見れば、奴らニンゲンの雄というのは性欲にかられた「狂ったロボット」にすぎない。

 だからわたしはその体の構造に反し、産むことを徹底的に拒否する。


 ところで昔は人を産む「産」業って、人間の「女」がやってたの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱女 ねこ大名 @bottleneckslider

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ