ない件

牧瀬実那

他の部屋に新しく入居した人が聞いた話

 この部屋、ホントに何も無いんですよ。


 うん、管理会社の人は内見中にこの部屋で人が亡くなってることを教えてくれました。と言っても、自殺とか殺人とかそういうのがあったわけじゃなくって。

 一人暮らしの高齢者の自然死、というやつで、ご遺体は早い段階で遺族の方に引き取られたそうです。だから特に、臭いとかそういうのも残ってないし、妙な気配?とかも全然なくって。多分言われなければずっと知らなかったと思います。

 本来は管理会社側にも告知義務はないそうです。知ってました? いわゆる事故物件って、事故があった後に、次の人が3ヶ月くらい何事もなく暮らしたら説明しなくてもOKなんですって。そういう物件を安く借り繋いで生活してる人も居るみたいですよ。多分自分の前に住んでた人もそういう人だったんじゃないでしょうか。

 あ、すみません。話が本題からズレちゃいましたね。

 とにかくそういう感じで。

 管理会社の人が話してくれたのも、部屋の妙な位置に作り付けの棚があったから、理由を聞いたら実は……って打ち明けてくれました。

 小さな仏壇があったそうです。尤も、遺族の方がしっかり移したそうなので、棚だけ残ったんだとか。

 亡くなった人、きちんと弔ってもらったんでしょう。特に妙な現象もなくて住み心地が良いです。商店街からも近いですしね。


 うん、だからそうなんです。

 この部屋は他の部屋みたいに何もありません。

 なんか他の部屋ではある・・らしいですね。子供の笑い声が聞こえるとか。

 まあ何度かすすり泣く声くらいは聞きましたけど、よく聞いたらそれ、別の部屋の人の声なんですよね。あーまた出てるんだなぁって。住んでる人、よく入れ替わりますし。

 でもそれだけです。

 え? さっき言ってた棚に線香とお菓子置いてるって……やだなぁ、あれはただのお香ですよ。良い匂いがしたらQoL上がるじゃないですか。それにお菓子置くのに丁度いいんですよ、あの棚。

 それだけです。参考になりました?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ない件 牧瀬実那 @sorazono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ