第30話 開戦の時



 その日はきた、ジュリアがバベルに告げる・・・・

「ついに来たぞ、約束の日が!」

「あぁ分かってる」


そしてバベルは神妙な面持ちでアンナとハクを呼ぶ。

「これからラグナロアとの戦に行く、アンナはここに居てくれ。ハクはどうする?」


「我はバベル殿と行動を共にすると決めている」


「私もバベル様について行きます!」


「いやアンナはダメだ、それにアンナに獣人やエルフが射れるか?」


「それは・・・ならせめて近くまではついて行きます!」


「言っても無駄なんだろうな・・・」

「はい無駄です、バベル様が良く分かってるでしょ?」


そして準備をしジュリアの元へ行く。

ジュリアから皇帝陛下に挨拶しこれから戦場へ赴くことを告げに行く。

皇帝陛下から激励の言葉を貰いいざ戦場へ・・・

そこにはラドルフもいた。

「この時を待ってたぜバベル、共に戦場へ赴こうではないか。」


そしてジュリアを先頭に城を出る、帝都には戦場へ赴く兵士達を見送る人達でいっぱいだ。皆が精一杯の声で激励の言葉をかけてくれる、中には祈りを捧げてる女性もいる。

「どうかご武運を・・・」

そのような声を受けながら戦に赴くのはバベルは始めてで、不思議な気持ちになるのが自分でも分かる。


トクン・・・ドクン・・・・


何やら己を鼓舞するような勇気が湧いてくる、そんな感じだった。バベルの迷いは吹ききれた感じがした、全力でこの人達の為に戦おう・・・途中を通る町の人や村の人も声援を送ってくる。


それから数日で国境にまたやって来た。各方面から徴集された兵が集結する。どの兵士もその眼に炎を宿してるような強い闘志が感じられる。そして全体が集まった所でジュリアが陣頭に立つ。


「我が帝国軍の諸君、日頃の鍛錬の成果を己の力に変え、帝国の為に全力を尽くそう!」


「「「おおおおおおおおおおおおぅぅ」」」


「全ては帝国の為に!」


「「「「全ては帝国の為に!!」」」」」


 そしてその日は皆英気を養うように静かに休んだ・・・


次の日の朝は早くに目が覚めて、少し集結した兵士を見て回った。どの兵士も程よく緊張したいい雰囲気をしてた。そしていよいよ、その時は来た・・・・


国境の対岸で向かい合う両軍、緊迫した雰囲気が漂う。

ジュリアに陣頭に呼ばれる。

「今日はお前の初陣だ、開戦の口上やって見るか?」


「そうだな・・・今日は俺の初陣だ、やらせてくれ。」

バベルはその燃え上がる闘志を胸に秘め、ラグナロア共和国の兵を見た。


その時・・・これまで帝国で見て来た人達がなぜか頭に思い浮かぶ、見送りをしてくれた帝都の人、祈りを捧げてくれる女性達・・・そしてあいつ等にもきっとそういう人達がいる。ダメだこのままでは・・・


 しかしもう・・・ここまで来たら止められないのか・・・一瞬頭にハクの言葉がよぎる。これに賭けるか・・・そしてハクを呼んだ。


「ハク、虎になって俺の為に一肌脱いでくれるか?」

「バベル殿の頼みとあれば」

 バベルはハクにまたがり、ラグナロア共和国の兵たちの前に出た。


するとラグナロアの兵の獣人たちはざわつき始めた。

(やはりな、もう一押し・・・)


 そう獣人たちは白虎を神と崇めている・・・その白虎そのものに跨ってバベルが出てきたのだ。


ゆっくりとラグナロアの全軍に見えるように平行に闊歩する。そして全軍に聞こえる様に大声で言った。

「俺は無駄に、お前らの血を見たくない、もう無駄な争いをやめ!今すぐ兵を引いてくれ!」


「しかし、残るというのなら、覚悟をしてくれ・・・」


ラグナロアの兵の中にハクを見て、跪く者が出始めた。ざわめきは大きくなりラグナロアの兵たちは混乱していた。


 するとラグナロアの軍の中から将軍と思わしき一人の獣人が出てきた。


「わが軍の戦意は半ば失われた、もはや勝敗は言わずもがな・・・だが、このままおめおめと引き下がる訳にはいかぬのだ!バベル殿とお見受けする、我はヴォルグだ、一騎打ちを所望する!」


この獣人ヴォルグは帝国にも名を轟かせている、ヴォルグ・バトラー将軍だった。

その風貌は狼の如くして如何にも歴戦の強者という雰囲気だった。流石はヴォルグ将軍だった、この一言でざわつきは治まった。「しばし待たれよ」そう言ってバベルは、ジュリアの所に戻る。


「いいよな?」


「負けるなよ。」


「ハク、すまなかったな。」


「どうと言う事は無い。」

そうして、バベルはハクから降りて、一人で両軍中央、ヴォルグと対峙する。

「一騎打ち、しかと受けよう!」


両軍緊迫する雰囲気の中、両雄の一騎打ちは始まった・・・


 お互い睨み合い相手を観察するようだった・・・

先にその静寂を打ち破ったのはヴォルグだった、その肢体はユラユラと揺れてるように横に動き出す、次の瞬間あっという間に懐に入り込む、緩急をつけた戦場で培ったその技、常人ならゆっくりとした動きからのそのスピードに目が追い付かずあっという間にその首は刈り取られたであろう。


瞬間的にオーラディフェンスとブレイドを発動し、その鋭い爪を防ぐ、そして一撃を与えんと襲い掛かるバベルの拳。それをまるで霧になったかのようなスピードでバベルの後ろに回り込んで交わすヴォルグだが、バベルは読んで必殺の裏拳が炸裂したかの様に見えたが、物凄い音と共に下がるヴォルグもしっかりガードはしてる。


そしてまた、静から動と両雄拮抗した攻防が繰り広げられ、両軍ごくりと生唾を飲み込むような緊張感を持ち、その決闘の行方を見守る・・・


徐々にバベルのパワーが押してきてる、ヴォルグ将軍もスピードと爪で襲い掛かるがバベルにはその爪が食い込まなかった。


「そろそろ決着付けるか」

「望むところ」


そしてバベルが腰を落とした中段正拳突きの構えから技を発動する。


【バベル波動!】


【ヴォルグ・ファング】


バベルから放たれたその波動の物凄い衝撃波がヴォルグを襲い技を掻き消し吹っ飛ばす、その衝撃波はラグナロア兵まで達し巻き込む寸前まで・・・


勝負はあった・・・

バベルが倒れたヴォルグに近寄る。

「見事だ・・・さぁ、首を落とせ・・・」

そっとバベルが手を差し伸べる。

「俺の楽しみ奪ってくれるな、強い奴と闘うのは大好きだ、次は戦場では無い所で。」

そしてヴォルグが手を取る、両軍から両雄を称える拍手が沸き起こる。


その時だった・・・・


南の空から急にどす黒い雲が空を覆い始めた・・・

そしてどす黒い闇が立ち込め始めた・・・

その闇から現れたのは死を具現化したような、強大な髑髏の騎士達・・・・


「なんだ・・・あれは・・・」

両国の兵たちが気付き始め動揺する。


その時とっさにジュリアが陣頭指揮を執る。

「右軍下がれー」

「左軍前進して、南に対して陣を取れ!」


その声に一斉に活を入れられたように、帝国軍はその闇に対して陣を取った。


  闇が死を運んできた・・・・







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