現在からタイムスリップして平安時代の宮仕えの暇つぶし方

MERO

現在からタイムスリップして平安時代の宮仕えの暇つぶし方!

 私は部屋の中を膝立ちでにじり歩きで移動した。

 

かずら納言なごん様、おそうございます」


 他の女房は動きながら、後ろでもたもたしている私に向かって言った。

 くすくすと笑い声が聞こえ、扇子で顔を隠しながら優雅に目的地に向かっている。


 平安時代のお姫様方の動きに感服しながら心の中で呟く。


 私のいた令和の時代にこんな歩き方ないもん。

 そもそもお屋敷が無駄に広すぎるのがおかしいんじゃないの。


かずらひたいに皺がみえましてよ」


 必死に歩いて、なんとか目的地である部屋に辿り着き、一緒に双六すごろくをしていた皇后の永子えいし様が私の顔をみて微笑みながら言う。


「お言葉を返すようでございますが、永子えいし様はよろしいんですか?」


「わたくしがこちらに伺わなければ暇になって退屈と思いませんか?」


「そうねぇ、かずらがいないとはじまらないわね」


「であれば、この馬鹿長い廊下をどうにかするか、考えなければなりません」


 永子様は双六のサイコロを振って出た目分、駒を動かしながら答えた。


「そんなこと考えたこともなかったわ」


「わたくしはいいですよ。こちらにくるまでに日が落ちてしまってまた半日かけて部屋に戻るでも」


 私はサイコロをころころしながら、タイムスリップ前に住んでいた家が親が建てた注文住宅だったので生活導線がだいぶよかったことに今更ながら気が付いた。


トイレも遠いし、かといって動かなければ運動不足になりますしね……」


 うーんと唸って考える私にふふっと永子様は笑った。


かずらはどんな屋敷がお好みなんでしょう。双六すごろくはやめて絵をかきましょう。ちょうど良い紙が入りましてよ」


 そう言うと他の女房が(私が動けない分)そそくさと双六すごろくの片づけとくるくると巻いてある書物のようなものを広げた。それは私が令和時代にみていた真っ白い紙ではなく、和紙のちぎり絵をあわせたようなものでその上に私が思う理想の家をかけと言わんばかりに横に筆が置かれた。


 永子えいし様は幼馴染のお姫様らしく、1年ほど前に天皇の皇后として宮中に入内した。

 一人は寂しいと私が呼ばれたわけであるが、私はちょうどそのタイミングでこの時代にやってきた。

 宮中の慣れない生活を営むことになった永子様とこの時代の右も左もわからない私はすぐに意気投合した。

 まぁ、平安時代の遊びが仕事みたいな中で私のよくわからない話は彼女の恰好の暇つぶしであっただけであるだろうけれども。


 だから私は存分に私が知っている令和の世界について、この時代にはないものを彼女に伝える。

 私は令和の世界からみてもウサギ小屋だったかもしれないが、生活に必要なものだけを詰め込んだ合理的かつ外の温度に強い家を思い出し、それらを筆で白いとはいえない、凸凹デコボコした用紙に描く。


 横からずっとじっとみていた永子様が言う。


「見たことのないような、小さき屋敷ですわね。これでは使用人の寝る場所もございませんわ」


 鋭い指摘に私はハッとした。

 この時代の大きな大名には必ず使用人が多数いる。彼らには寝るだけの家はあるが、場合によっては屋敷でも待機することがあるのでそのような部屋は必須であった。


「この小さな箱はなにかしら」


「こちらはお召し物を入れたり、物を片付ける場所でございます」


「それは便利ね。私は着物を飾るのは趣味じゃないわ。まぁ、頂くものが多すぎることが問題なのかもしれませんわね。ただこのような場所があれば飾りたいものだけ飾ればいいから、どこかに作りましょう」


「そうですね、収納いれるばしょは他の者も工夫している方もいらっしゃるのではありませんか? 他の部屋や、他の屋敷はどのような作りなのか、気になりますね」


「そう言われ見れば……他の者たちはどのような屋敷で過ごしているのでしょう?」


 永子えいし様と私は目をあわせて笑う。


うたげしを開きましょうか。皆の者たちも生活で困っていることがあるでしょうし、このような話は興味があるかもしれませんわ」


 そういってその場で住宅の内見はできないこの時代ならではの、情報交換会うたげの実施が決定した。

 頭の中で、女房のいる部屋が仕えるおひめさまの隣にある屋敷の確認と、次の冬の寒さ対策はマスト確認事項と心に誓った。

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