スマホを投げた

温故知新

第1話


 短大を卒業してすぐ、私はコンビニに3年間バイトしていたことを活かし、給料がそこそこ良い複数の携帯ショップを代理店経営している会社に入社した。


 根っからの人見知りであったが、何だかんだでバイトを続けていたので、接客業にはそれなりに自信があった。


 携帯ショップの店員だから、たくさん勉強することもあるだろうし、私の場合は不器用だから人一倍努力しないといけない。


 けどまぁ、勉強も努力も嫌いじゃないから頑張ればどうにかなるよね!


 そんな軽い気持ちで会社に応募し、見事に内定を取った。


 入社後、配属された携帯ショップは、地元からかなり離れた場所だった。


 正直、地元近くにして欲しかったし、内定をもらった時にそのように希望も出した。


 けど、当時の人事担当者が『その携帯ショップには、君が通っていた短大のOBがいるから!』という理由でその店になった。


 まぁ、新入社員如きに拒否権なんてあるわけないし。


 そうして自分を無理矢理納得させた私は、配属された携帯ショップで働き始めた。





 配属された当初は、覚えることが山のようにあったけど、上司や先輩方はみんな優しく教えてくれた。


 私が、短大卒業してすぐに入った新入社員ってこともあったのか、仕事のことだけでなく、人生初の一人暮らしの相談にも乗ってくれた。


 お陰で、最初の1ヶ月は大変ながらも充実した生活が送れた。


 何より、ノルマには繋がらないものの、お客様の『ありがとう』という言葉にやりがいを感じた。


 この仕事なら、ずっとやっていける!


 そんなことを心の底から思っていた。


 入社して1ヶ月が過ぎるまでは。





 入社して1ヶ月後、ようやくカウンターに立たせてもらえた。


 この頃の私は、接客よりも裏方で事務をしていることにやりがいを感じていた。


 単純に、事務を担当していた先輩からよく褒められていたからだ。


 でも、自分の仕事は接客。


 正直、不安はあった。


 でも、バイトで培った接客技術や勉強したことを活かせれば上手くいくはず。


 けど、この時の私は知らなかった。


 初めてカウンターに立ったその時には、優秀な上司や先輩達から密かに『ポンコツ』の烙印を押されて見限られていたことを。





 カウンターに立った最初の頃、上手く接客が出来ず、数字も上げられず、毎日のように上司や先輩達から叱られていた。


 今思えば、この時の私はバイトと正社員の違いに気づかなかったのだと思う。


 バイトだった頃は、自分が失敗しても、店長に怒られるだけで、失敗した分の責任は店長が取ってくれていた。


 けど、正社員になれば、自分の失敗は自分のものとして取らなければならない。


 時として上司が取ることもあるけれど、基本的には失敗したその人が取ることになる。


 加えて、接客業は従業員の接客次第で店の評判に大きく影響する。


 つまり、入社2ヶ月の新人だろうが、カウンターに立ったからには、携帯を扱うプロとしての接客しなければならない。


 その認識が足りなかった。


 それでも、私は頑張れば報われると自分に言い聞かせた私は、怒られたことを反省し、メモを取りながらも、上司や先輩達に認められる店員になろうと必死に足掻いた。


 しかし、上司や先輩達から認められることは無かった。

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