地方の進学校

@ku-ro-usagi

読み切り

私の通ってる高校

地方都市の中途半端な偏差値の高校で

頭が良すぎるわけでもなく

アホ過ぎて有名すぎるわけでもいない

内申点も推薦も取れる取れないが結構重要視される程度の高校

簡単に言うとみんなライバル

結構ギスギスしてる雰囲気でさ

勿論表面的には仲良しだよ

みんなね

でも

吸ったことも買ったことすらない

煙草の箱と煙草の吸い殻

ご丁寧にライターまで机に入れられていたことなら一度だけでなくあったし

他のクラスメートは鞄の外ポケットにコンドームを見えるように差し込まれてた

使い込んでた参考書をうっかり忘れた日にはズタボロにされて使えなくなってたりね

別にイジメじゃないんだよ

他人を蹴落とすための手段で

それくらいみんなされてるからいちいち言わなかった

けど

勉強の合間の息抜きに

好きだったアニメはおろか漫画も読めなくなったな

あまりに夢のような学園生活送ってるから

代わりにバッドエンドのホラー小説とか読んでた

中学時代の友人に会うのもね

「あんな進学校受かってすごいよ!」

って言われたけど

女子高の可愛い制服着て友達と仲良く放課後に遊んでる姿を見せられるのは

さすがに胸がぎゅっとなって辛かった


あと1年でこの学校から解放される3年になった時

うちのクラスに教育実習生の大学生が来たんだ

d先生

たまたまd先生が来た日が私が日直の日で

少し話した

この学校には似つかわしくないおっとりした笑顔の細身で長身な人

女子はみんな先生が気になるのに当然周りを気にしてよそよそしい

私がちょっとした学校のローカルルールとか教えたせいか

(担任の先生は結構アバウトでさ

何聞いても「適当でいい」としか言わないから困るんだよ)

それで何か聞きたいこと知りたいことがある時は

私に聞いてくれるようになった

高校はたった2週間の実習でしょ

いなくなった次の日には忘れてるレベルの短さ

それでも一応花束とか渡してさ

それで

d先生はもうその日で終わりなのに

「○○さん、ちょっといいかな?」

って

放課後はみんな塾や予備校とか一目散に出てくから

教室には残らない

居残りも禁止だし

だから嫌がらせやり放題なんだけどね

学校側は頑なに教室に鍵を掛けないし

「何ですか?」

私が最後だったのは

予備校まで時間があるから追い出されるまで居残るつもりだっただけ

「その、少し、外でお話できませんか?」

全く意外な誘いを受けた

しかも今日

これからでも夜にでもお茶だけでもいいからって強引さ

私はびっくりして声にも出せずにコクコクと頷き

しかし予備校があることを伝えると

予備校が終わった後にと

少し離れたファミレスを指定された

その日に予備校で勉強したことは1つも覚えていない

予備校からバスで1本のファミレスは場所は不便だけど

不便だからそこ

少なくとも学校の誰かに見咎められる確率は少なそうな立地

先に着いていた先生は

そう言えば放課後もそうだったけどにこりともしていなかった

緊張してるのかな

好きなものどうぞと勧められ

チーズケーキセットを頼むと

先生はおもむろに

「明日から電車通勤を止めてほしい」

と全く予想外の事を頼み事をされた

「……は?なんで?」

失礼ながら敬語も忘れて問いかけてしまった

先生は運ばれてきたチーズケーキをどうぞと勧めてくれてから

「自分は昔から対面で話す相手の背景がとても見えやすいんです

○○さんと会話をするたびに

今一番強く視えるのが

駅のホームなんです

ホームの

その

一番前にいるんです

それですぐ後ろに不自然な近さで誰かが立っているのがよく見えるんです」


一体

(何を言ってるんだろうこの人)

私は多分

今までも先生が散々見せられてきた表情をしてきたと思う

ドン引き、変な人、何言ってんのこの人、怖い、おかしい

こんなのが混ざった顔ね

でも先生は落ち着いた声のまま

「バスとか自転車とかに変えられないかな?」

とじっと私を見つめてきた

私は当然懐疑的な気持ちで

食べかけのチーズケーキに視線を落とした

でも

(でも)

先生は告白でもないのにわざわざこうやって何かを伝えようとしてくれている

駅のホームの一番前

私が使ってる駅には都心みたいな事故防止の柵はない

すぐ後ろに誰か立っている

誰?

分からない

でもどうしてかゾワッと足許から寒気がした

それは

その誰かが

私の背中をぐっと線路へ押し出すイメージが見えたから

私はその一瞬

d先生が見ているものものと同じものを見たんだと思う


家から少し遠い

いつも使っている駅とは違う路線の駅からは

我が校のスクールバスが出ている

ただ

1年の時に乗ったら居心地というか空気がどんよりと凄く重くて

それで電車にしたことを思い出し

私は

「じゃあ、明日からはバスで行ってみます」

と答えると先生は安堵した顔をしてやっと少し表情を和ませ

「信じてくれてありがとう」

と少しドキリとする笑顔を見せてくれた


翌日からスクールバスのある駅まで向かい

(あぁ……)

スクールバスに乗り込むと1年の時の居心地の悪さの理由が解った

学校と同じ空気なんだ

暗く淀んで

話し声はするよ

でもみんな上っ面

男も女も関係ない

誰もが誰もライバルで蹴落しの対象

入学したばかりの私は

その空気に当てられて少し遠回りだけど電車通学にしたんだ

それでも

そんな空気にも今はとっくに慣れてたから

(バスだと早いなぁ)

って思ったのはそれくらい


それから

たった数日後に

うちの学校の隣のクラスの女子が補導(?)された

朝の駅のホームで

片手に包丁持ってうろうろしている所を他の客に見咎められ

駅員に引き渡された

「ライバルを刺すか電車来たら突き落とすつもりだった」

って

当然学校に来なくなったその子は

駅のホームでよく見掛けていた子だった

同じ学校だけどクラスも違うし接点はないし話したこともなかった

ただ

大学別進路相談の時に同じ枠にいる人だなとは思ったけど

その子にはそれだけでは終わらなかったみたい

成績も思うように伸びず

ならライバルを退場させようと考えたんだって

まずは毎朝一緒の時間に電車に乗ってる私から


私の中で

d先生は変な先生から私のヒーローに昇進した

先生は来週

世話になった先生たちにお礼がてら学校に挨拶へ行くと聞いていたから

その日に合わせて

前日に予備校サボッてデパ地下で選んだお菓子持っていった

昼休みにもう職員玄関から帰ろうとしていた先生を何とか捕まえて

お礼を伝えてお菓子を渡したら

「いやいや、何もなくて良かったよ」

と素敵な笑顔

きゅんとしてたら

先生はお菓子の紙袋を見て

「わぁ、このお菓子、嫁と娘が好きなんですよ、とても喜ぶ」

だって

うん

d先生学生結婚してた

しかも子持ち

やるなお主

そして私の儚い恋は一瞬で終わった

さよならマイヒーロー


学校は相変わらずの空気だったけど

包丁うろうろ女子の一件で

自分を省みる子も少しいたみたいで

嫌がらせは少しだけ減った


今は晴れて大学生だよ

受験のための勉強じゃないとこんなに楽しいんだね


だからさ

みんなも

学校選びは慎重にね


みんなが少しでも楽しい学校生活を送れます様に

本当に祈ってるよ





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