内見屋さんをご存知ないですか

一繋

内見屋さんをご存知ないですか

 今回、カクヨムで「住宅の内見」がテーマとなっていたので、私がつい先日体験したことを書いてみたいと思います。


 皆さんは、内見屋さんをご存じないでしょうか。気になった賃貸物件の部屋を実際に見て確かめる、あの内見です。私の地元では内見屋さんは一般的なのですが、ネトゲの最中にメンバーに話をしたところ、みんな「聞いたこともない」というのです。


 調べてみると、上京や転勤で実際に内見できない人に向けた「内見代行サービス」なるものはありました。しかし、内見屋さんにお願いするのは、そういったことではありません。部屋に「良くないもの」がないかを確認してもらうのです。


 私の地元では、お寺の住職や、家業として代々続けられている方に内見をお願いします。家業といってもそれで生計を立てているわけではなく、今でいう副業のようなかたちで続けられているそうです。


 私はつい先日上京した際に、東京で活動されている内見屋さんに同行をお願いしました。私の親族が懇意にしている内見屋さんのお孫さんだそうで、よく上京組の内見を手伝っているそうです。


 当日、待ち合わせ場所に現れたのは、小綺麗なジャケットにタートルネックを合わせた、30代後半くらいのおじさんでした。お坊さんのような人を想像していたので、あまりにも普通な出で立ちに面喰らいましたが、当の内見屋さんは「この辺りは飲食店が多いから住みやすいね」「○○線も歩けない距離ではないよ」と、慣れた様子で街案内をしてくれました。アテンドの不動産屋さんも、内見屋さんのことを兄か親戚と認識したようで、とくに不思議がる様子もありません。


 その日は候補の物件を4件まわる予定で、1、2件目は何事もなく内見が終わりました。内見屋さんも「ここは収納が少ないね」など、ありきたりなことしか言いません。その普通な風貌も相まって、私はだんだんと「この人は何しに来たのだろう」と不信感が高まってきました。


 けれど3件目の物件に入るなり、内見屋さんの目つきがスッと厳しくなって「ここは止めたほうがいいよ」と、唐突に言ってきたのです。その物件は駅近の角部屋で、私が本命として考えていたところだったので「なんでですか。条件面はぴったりなんですけど」と、少し険を含めて問い返しました。


 すると内見屋さんは、不動産屋さんに向けて「ここって、人の出入りが激しくないですか」と尋ねました。不意をつかれた不動産屋さんは「去年だけで、3回入れ替わっています」と、あっけなく白状しました。


 私は改めて部屋のなかを注視しましたが、日当たりが少々悪いくらいで、この部屋の何が人を突き放すのかは全くわかりませんでした。


 4件目の物件までの道すがら、私は内見屋さんに改めて3件目の物件の何がダメだったのかを尋ねました。すると内見屋さんは「いまネットで流行ってる『○○』ってゲームを知ってるかな。あれをイメージするとわかりやすいよ」と答えました。


 そのゲームは「ゲーム実況」で大流行していて、私も推しのVTuberの配信で見たことがありました。リミナルスペースを探索し、日常の風景のなかに潜む異変を見つける、いわゆる「間違い探し」のホラーゲームです。


 さらに内見屋さんは「あのゲームの実況を見ていると、異変を見つけるのが異様に上手くて、すらすら進む人がたまにいるでしょう。あれは普段から、違和感を見慣れている人なんだと思うよ」と続けました。微妙に論点をズラされているような答えに、私は「追求してもわからないことなのだろう」と納得するしかありませんでした。


 結局、私は2件目に内見した物件に決めて、今は新生活に向けて準備を進めています。とくにオチはないのですが、他の地域でも内見屋さんの風習はないのかなと気になり、書き込ませていただきました。



追記

「私も近々内見をするのですが、素人でもできるコツなどはないのでしょうか」とリプをいただきました。実は私も内見屋さんに同じ質問をしていたのですが、「建物に入ったとき『なんとなく気持ち悪い』と感じたことはないですか。それを信じてみるといいですよ」とのことでした。

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