過去 前編
中学二年。七月中旬。
もうすぐ近所では、夏祭りが開催する。
その影響なのかわからないけれど、私は告白ラッシュに遭っていた。
「好きです! 俺と付き合ってください!」
「えっと、ごめんね。君のこと知らないし付き合うとかちょっと」
「じゃあ友達からでも!」
「え、えーっと……」
今週に限っていえばもう四回目。
しかも、今回は顔も名前も知らない男子からの告白だった。
勝手に好意を持たれているのも怖いし、友達からってのも意味不明。
でも友達申請を断るのは角が立つかな……。
回答に悩んでいると、私は昇降口から出てくる幼馴染を発見した。
「あ、なっくん! おーい」
手を振って呼びかける。
なっくんは何か察すると、少し困ったような顔で駆け寄ってきた。
私と告白してきた男子の間に割って入ってくれるなっくん。
「悪いんだけど、美鶴のことは諦めてくれないか」
「ど、どうしてお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ!」
「美鶴は男子と接するのが得意じゃないんだ。勘弁してあげて」
「じゃあお前はなんなんだよ。てか、八重川さんのこと名前で……くそぉぉぉ!」
男子は人目も気にせず、喚きながら走り去っていく。
なっくんは小さく肩を落とした。
「告白くらい自分で断りなよ」
「ちゃんと断ってるよ。でも向こうが、友達からお願いとか食い下がってきたの」
「いやそれも断ればいいだけじゃない?」
「いやいや友達申請まで断るのってハードル高いって。私の評判に関わるっていうか?」
なっくんはスクールバッグを背負い直すと、踵を返す。
置いてかれないよう、私はなっくんの左隣についた。
「ねえなっくん」
「ん?」
「今度の夏祭り、一緒に行けなくなっちゃった。友達と行くことになっちゃってさ」
「別にいいけど。そもそも一緒に行く約束してないし」
「え、でも毎年一緒に行ってるじゃん」
物心つく前からなっくんとは一緒にいる。
どこに行くにしたって、私の隣にはなっくんがいるのが当たり前だ。
「あ、てかカップル増えたよね。夏祭りが近いからかな」
「言われてみりゃそうだな」
「付き合うとかよくわかんないよね。なっくんは誰かと付き合ったりしないの?」
「俺? 俺は……まぁ、ないかな」
「ふーん、そうなんだ。でもなっくんって前髪下ろして髪整えれば意外と……」
「か、勝手に触んなって」
なっくんの髪の毛をいじると、即座に手を振り払われる。
「む。そんな怒んなくたっていいじゃん」
「怒ってるつうか……あんま距離近いと誤解されるだろ。少しは距離感考えろよな」
「あはは、それは大丈夫でしょ、私となっくんが付き合うとか考えらんないし」
「……まぁ、そう、だけどさ」
歯切れ悪く同調するなっくん。
私は訝るような視線を彼に向けた。
今日のなっくんは……ううん、近頃のなっくんは少しおかしい気がする。
あんまり目も合わせてくれないし、少し触れただけで過剰に反応してくる。
これも思春期の弊害なのかな。
私はいつまでもなっくんと仲良く幼馴染でありたいんだけど。
★
夏祭り当日。
私はスマホ片手に不貞腐れていた。
「こうなるならなっくんと行けばよかったな……」
今日は私を含め、友達四人で夏祭りに行く予定だった。
でも、ウチ一人は彼氏ができたことを理由にドタキャン。
ウチ一人は体調不良で不参加になってしまった。
もう一人の子と私の二人で行くことは可能だけれど、正直あんまり仲がよくない。
グループで一緒にいるならいいけど、彼女と二人で夏祭りは正直しんどい。結果的に今日の予定自体なかったことになり、私は神社で一人ぼっちになっていた。
「はあ」
今からなっくんを誘う?
でも、それはちょっと都合が良すぎかな。
「これからどうしよ……って、なんだ、なっくんも来てたんだっ」
人混みの中からなっくんを発見する。
どうにも私はなっくんを見つける能力だけは飛び抜けて高いみたい。
私は途端に機嫌を直すと、右手をあげて口火を切る。
「あ、なっく……」
けれど、すぐに口を閉ざしていた。
(誰、その子……)
なっくんが知らない女の子と話している。
水色の浴衣を着た図書委員って感じの可愛い女の子。
気づけば、私は咄嗟に物陰に隠れていた。
(なっくんのカノジョ……?)
いやそれはありえない。
だって、なっくんにカノジョができた素ぶりなかったし。
大体、誰かと付き合い始めたならまず私に報告するはずでしょ。
でもじゃああの女の子は……。
あれ、おかしいな。
なっくんに恋人がいたって関係ない。むしろ祝福すべきことのはずなのに。
(なんでだろ……嫌、かも)
キュッと胸が引き締められる。
不思議なくらいイライラして、モヤモヤする。
(もしかして私、なっくんのこと……いや、ないないないないない!)
私は首を大きく横に振った。
何はともあれ、なっくんは私以外の女の子と一緒に来てるみたいだ。
私が邪魔をするわけにはいかない。そっと視線を落とすと、私は踵を返した。
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