第7話 炎の精霊、フェニルとの闘い

炎の祭壇の中央で、巨大な炎の鳥、フェニルが翼を広げる。その姿は圧倒的だ。真紅の羽はまるで溶岩のように輝き、熱波がハヤテとリリスを襲う。だが、フェニルの羽には黒い斑点が広がり、紅玉のような瞳には穢れの狂気が宿っている。祭壇の石舞台は熱で歪み、周囲の木々が燃えそうなほどだ。ハヤテは剣を握り直し、シエルの気配を感じながらリリスに目配せする。


「リリス、こいつ…穢れに侵されてる。まともな話は通じなさそうだ。準備いいな?」

「当たり前よ! フェニルと契約するためには、まずこの穢れをなんとかしないと!」


リリスの声は緊張しているが、瞳は決意に燃えている。彼女の周囲には青みがかった炎が揺らめ、セレネの水の加護がその力を増幅している。ハヤテは風のマナを剣に集中させ、身構える。


「汝ら…我が領域を汚す者…焼き尽くす…!」


フェニルの咆哮が祭壇を震わせ、翼を一振りすると炎の嵐が二人に襲いかかる。ハヤテは瞬時に風の結界を展開し、炎を逸らす。熱風が頬をかすめ、汗が一気に噴き出す。


「くそっ、めっちゃ熱いな! リリス、援護頼む! 俺が動きを止める!」

「了解! やったるわ!」


リリスは両手を広げ、青い炎の奔流を放つ。セレネの加護が混ざった炎は、通常の炎より鋭く、フェニルの翼をかすめる。だが、フェニルは動じず、嘴を開いて炎の弾を連射。ハヤテは風を纏い、弾を切り裂きながら間合いを詰める。


『ハヤテ、気をつけて! フェニルの核は胸の中心よ。穢れがそこに集中してる!』


シエルの声が響く。ハヤテはフェニルの動きを観察。確かに、胸の中央に黒い霧が渦巻く光点が見える。あそこを狙えば、穢れを浄化できるかもしれない。


「リリス! 胸の核を狙え! 俺がフェニルの注意を引く!」

「わかった! でも、こいつの炎、めっちゃ強い…! セレネの加護でなんとかする!」


リリスは額に汗を浮かべながら、炎と水のマナを同時に操る。彼女の手から放たれる青い炎は、水蒸気を帯び、まるで霧のような攻撃となってフェニルを包む。フェニルが苛立ったように咆哮し、リリスに向かって突進する。「させるか!」

ハヤテは風の刃を放ち、フェニルの翼を切りつける。羽が散り、炎が一瞬弱まるが、すぐに再生。穢れの力がフェニルを異常なまでに強化している。ハヤテは舌打ちし、シエルに全マナをリンクさせる。


『ハヤテ、風の刃を最大出力で! 私の力を全部使っていいわ!』


「了解! 行くぞ!」


ハヤテは剣を高く掲げ、風の渦を巻き起こす。祭壇全体が風で揺れ、フェニルの炎が一瞬押し戻される。ハヤテは一気に跳躍し、フェニルの胸を狙って剣を振り下ろす。だが、フェニルは翼を盾のように構え、風の刃を弾く。「ちっ、硬え!」

その隙に、フェニルが尾羽から炎の鞭を放つ。鞭がハヤテの腕をかすめ、焼けるような痛みが走る。ハヤテは歯を食いしばり、風で体勢を立て直す。


「ハヤテ! 大丈夫!?」


リリスが叫びながら、青い炎の槍を連射。槍はフェニルの翼を貫き、動きを一瞬止める。ハヤテはリリスに叫び返す。


「平気だ! リリス、水の加護をフルで使え! 炎だけでこいつを抑えるのは無理だ!」


リリスは頷き、目を閉じてセレネの加護に全意識を集中させる。彼女の周囲に水のマナが渦巻き、青い炎がさらに輝きを増す。リリスが両手を突き出すと、水と炎が融合した巨大な奔流がフェニルを直撃。フェニルが苦しげに咆哮し、動きが鈍る。


「今だ、ハヤテ!」

「よし!」


ハヤテは風のマナを極限まで高め、剣に集中させる。シエルの力が剣に宿り、刃が青白く輝く。ハヤテはフェニルの胸に狙いを定め、全力で突進。一閃。風の刃がフェニルの核を直撃し、黒い霧が爆発するように四散する。「キィィィィ!」

フェニルの咆哮が森に響き、炎が一気に収まる。黒い霧が消え、フェニルの姿がゆっくりと変化する。真紅の羽が純粋な輝きを取り戻し、瞳の狂気も消える。フェニルは静かに翼を畳み、ハヤテとリリスを見下ろす。


「…汝ら、よくぞ我を穢れから解放した。フレイムハートの娘よ、汝の炎は純粋だ。加護を与えた水の精霊の選択も正しかったようだ」


フェニルの声は穏やかで、まるで炎の温かさそのもの。リリスは息を整えながら、目を輝かせる。


「フェニル…! 私、フレイムハート族のリリス。あなたと契約して、村を救いたい!」


フェニルはリリスをじっと見つめ、ゆっくりと頷く。「汝の決意、確かに受け取った。だが、契約は試練の先にのみ存在する。我が力を欲するなら、汝の心を証明せよ」


フェニルが翼を広げると、祭壇の中央に炎の輪が現れる。輪の奥には、まるで別の空間のような光が見える。ハヤテは剣を握り直し、リリスに言う。


「試練、か。リリス、行く気だろ?」

「当たり前よ! ここまで来て引き下がるわけないでしょ! ハヤテ、あなたも来るわよね?」


リリスがニヤリと笑う。ハヤテは苦笑しながら頷く。


「まぁ、置いてかれても困るしな。一緒に行くぜ」


『ハヤテ、相変わらず巻き込まれ体質ね。まぁ、面白いからいいけど』


シエルの声に、ハヤテは小さく笑う。フェニルが炎の輪を指し示す。


「その先に、汝の心を試す試練が待つ。進め、フレイムハートの娘。そして、風の剣士よ」


ハヤテとリリスは互いに頷き合い、炎の輪に足を踏み入れる。輪をくぐると、視界が炎に包まれ、まるで別の世界に飛ばされたような感覚。目の前には、燃え盛る炎の回廊が広がっている。試練の始まりだ。リリスは青い炎を手に灯し、ハヤテは風の刃を構える。二人の背中には、フェニルの視線が注がれている。穢れを払い、契約を勝ち取るため、ハヤテとリリスの最後の戦いが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る