ドッペルゲンガー

焔猫 戒音

第1話

その肖像画には記憶はなかった。

もとより、描かれたとされる年代

に、私はまだ…


「そうですか」

声をかけてきた画商は少しばかり

落胆したようだった。


「そうですよね。この絵が描かれ

たのは、世紀以前ですから」

親族の方なのかと思い、嬉しくな

ったのでした、と、まだ年若い画

商は申し訳なさそうに、頭を下げ

た。


「ドッペルゲンガーでしょうか」

私の言葉に

「時代を超えて、ですか?」

画商は微笑んだ。


「そうですね…それも素敵だ」


そうした怪異の伝承があったとし

ても、たしかに悪くないもしれな

い、と、私は再びその肖像画に眼

を向けた。


古錆びた見知らぬ街を見下ろす窓

を背にして、その優美な立ち姿の

主は、どこか遠くを焦がれている

ようだった。

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ドッペルゲンガー 焔猫 戒音 @yeng_mao

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