第7話 たとえ社畜でも推しと一緒なら天国ですがなにか?

 領地でどう過ごすか、とお兄様に尋ねられて。


 社畜時代、大企業の下請けでデータ入力作業をしていて、正直この世界で活躍できるようなスキルは持っていなかった。


 社畜前はガリ勉優等生だったけど、今のわりとチートな頭脳やら技能は、ミレーネ本人が持っていた資質だと思う。


 元々才能があるのに社畜魂が入ったもんだから、努力を惜しまぬ天才タイプになってしまったんだろう。


 だからといって、今さらブラックな環境で働きたいわけじゃない。


 もっともうちの領地の研究所は、休暇も保証、福利厚生バッチリなはずなんだけど、研究所に引きこもってどこが家だか分からなくなってる研究者もいる。


 おかしいな、なぜセルフブラック職場にするんだっ!


 まあ、研究開発が好きでたまらないという人種は、得てしてそういうものかもしれない。


 引きこもり分のお手当て代わりに、衣食の差し入れや宿泊室の寝具の交換やら浴室の清掃やら研究所内の設備拡充も図って対応してる。

 

 定期的に見回りもしてるし。


 ……だから快適過ぎて余計に引きこもり増やしてる気もしないでもないけど、


 言っても止めないで隠れて泊まられて栄養失調になったり過労死とかされるより、きちんと見守る方がきっとまだマシ。


 そして、どこかの研究所に入って、研究にハマってしまったら、私もそうなる予感しかない。


 せっかく推しイケメンを愛でて悠々自適に暮らすつもりが、それでは本末転倒だ。


「わたくしは、お兄様のお手伝いがしたいですわ。と言っても、帳簿の整理や文書作成、社交の手配などの事務仕事になりますけれど」


「いや、それはとてもありがたいよ。ミレーネの計算は正確で丁寧だし、文字も美しくて、文章作法も信頼している。男性なら官吏として働かせたいと叔父上も残念がっていたくらいだし。私は、そのあたりはどちらかというと苦手だからね」


 そんなご謙遜を!


 お兄様こそ、筆を走らせれば詩編が生まれ、声を出せば歌が生まれる、類いまれなる芸術的才能の塊なんだからっ!


 まあ、人間不信気味で領地外での深い人間関係は苦手だから、必要最低限しか外に出てこないけど、お父様譲りの美貌とお母様譲りの芸術的感性でとりあえずの社交はそつなくこなしているし。


 実務能力は平均的だけど、生真面目な性格で確認を怠らないし、人が苦手なわりによく観察していて、人員の配置や仕事の割り振りに長けていて、過不足なく経営も回している。


 平均的って言っても、うちの領地基準だからね。

 

 王立学園なら、間違いなくトップクラスなんだから!


 まあ、そういうわけで、まずは見習いとしてお兄様のお仕事を補佐する生活が始まった。


 見習いのためなのか仕事量は少ないし、余暇時間はお兄様と好きな本を読んだり、お兄様の絵を描いたり、お兄様とお茶したり、まさに悠々自適。


 お兄様を愛でながらならブラック職場で働き詰めでもかまわないけど、どうせならのんびり楽しく暮らしたいものね。


 ああ、このまま、平和な領地ライフが続けばいいのに!


 

 


 




 

 

 

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